イヤイヤ期という名の宇宙旅行
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:ヒラキ タツヒロ(ライティング・ゼミ木曜コース)
「おきない~!」
「きがえない~!」
「ごはんたべない~!」
「いかない~!」
僕たち夫婦の忙しい朝は、息子のイヤイヤから始まる。
息子は2歳3か月、俗に言う「魔の2歳」真っ只中である。ちなみに3歳児は「悪魔の3歳」というらしい。1年後には、どんな地獄が待っているのだろう……。今から胃が痛くなる……。
私たち夫婦は、親が誰しも通る試練、イヤイヤ期と戦っている。息子はとにかくなんでも自分でやりたい。パパママの言うことは、とりあえず反対するのがモットーだ。それは息子の成長の証ではあるが、毎日こうもイヤイヤされる私たちは、たまったものではない。
正直しんどい。
最近の僕たち夫婦の悩みは、息子の洋服が全く決まらないことだ。息子は、パパママが用意した服を絶対に着たくないのだ。絶対にだ。息子の気持ちが乗って、着替えてくれるまで、僕たちは徹底的に付き合わないといけない。
「この赤いTシャツかっこいいよ?」と問いかけても、「かっこよくない~!」
「ママと一緒のシマシマのシャツでお出かけしようよ?」と提案しても、「いっしょいやだ~!」
「このワニさんのズボン素敵だよ?」と言葉をかけても、「わにさんきらい~!」
手を変え、品を変え、対応するが大概うまくいかない。そんな日に限って、息子は洗濯したての乾いていないシャツが着たいという始末……。「それびちょびちょやで……。」と嘆いたところでどうにもならない。そして、いつもの我が家の忙しい朝のパターンは、気が付くと出かける時間が迫っていて、大号泣の息子を強引に着替えさせてしまう。結果、さらにイヤイヤが爆発するという悪循環に陥ってしまう……。
うん。ほんとイライラするよね。
そんな調子だから、息子にイライラしてしまう自分にも嫌になってくる。
声をあらげて怒鳴りたくなるけど、それでは息子にも僕にも何のメリットもない。
そこで僕は、この状況を楽しむにはどうすればよいかと考えることにした。
僕は息子と宇宙旅行に出かけている。息子は宇宙船であり、宇宙船の船長である。パパはエンジニアだ。宇宙旅行に出かけているという設定を自分の中で勝手に加えた。
この宇宙船は叩いたら治るような機体でもなく……、エンジニアのパパは根気よく原因に向き合わなければならない。ただこの気ままな宇宙船に乗った宇宙旅行は、僕の知らない世界を教えてくれる。
ある日のイヤイヤは、いつもと違う道で帰るというものだった。
「こっちいや~! こっちがいい~!」
(内心、え~ってなっているけど) ここは宇宙旅行の設定だ! ということで、いつもの違う道に行くという宇宙船に乗っかることにした。すると宇宙船は右に左にふらふら歩きながらいろんなものを教えてくれる。
(花を指さして)「なんかある~」
前に通った時にはなかった花が咲いていることに気づかせてくれる。
(昆虫を指さして)「なんかいる~」
昆虫が力強く生きているということを教えてくれる。虫をまじまじと観察したのは、子どもの時以来かもしれない。(殺虫剤を片手にしていたことはたくさんあったけど)
またある日、スーパーで買い物をしていると、突然鮮魚コーナーに走り出す。
(ここでも内心、もう!?となるけど)ここは宇宙旅行の設定だ! ということで宇宙船に乗っかる。すると船長は鮮魚コーナーに並ぶ、魚やカニは大きいことに驚いていた。
「かにさんおっきいね~」
鮮魚コーナーにも驚きや発見があることを教えてくれる。
何気ない日常も、息子の目を通して見ると世界は新しい発見に満ちている。
本当は僕も知っていたのかもしれないし、いちいち感動していたのかもしれない。ただ子どもができるまでそれらはどこかに置き去りにしてきていた。
エンジニアのパパも、時には息子を喜ばせようと自ら航海士になって、息子を連れだす。
先日、息子の大好きなぞうさんに会いに行った。僕が象を見るなんて、10年ぶりぐらいだった。
息子は怖がりながらも、なんとかぞうさんにバナナをあげていた。息子はぞうさんの口がとても大きいことに感動していた。
「ぞうさんのおくち、おっきいね~」
僕は、象の鼻でも、耳でも、体でもなく、口に注目する息子に驚いていた。ただ僕がなによりも驚いたのは意外と象が毛深いことだった。
「象、毛深い……」
きっと象が毛深いことなんて、息子と動物園に行かなければ知ることはなかっただろう。
イヤイヤ期という宇宙船に全力で乗っかってみる。今までは、自分の都合を盾に、乗船拒否していたが、なんとか楽しんでみようと考えた何気ない遊びから全力で息子とぶつかってみると見えなかった世界が見えてくることに気づいた。
イヤイヤ期の息子は、予定調和をぶっ壊してくれる。こちらの都合では物事は進まないし、予定外のことしか起こらない。次に何が起こるのかわからないそんなワクワクが今は楽しくて仕方ない。
もう少し、イヤイヤ期という名の宇宙旅行に出かけ続けたいと思う。息子と一緒に、僕の知らない、未知なる世界に飛び込むこれとないチャンスなのだから。
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