うつ病宣言キャンペーンのはじめ方
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:林絵梨佳(ライティング・ゼミ木曜コース)
ここ最近、自己紹介の仕方を常に考えている。
「お仕事何されてるんですか?」
「今うつで無職なんです」
「……」
うつ病により退職し、2年が経とうとしている。
傷病手当金と貯金で細々と暮らしている。
働きに出られるほどには回復していない。
でも他人には会いたいので出かけたい。
基本は親しい友人たちとごく少人数で。でも時には友人の友人など初対面の人もいる場へと繰り出す。
そういう時に困ってしまうのが自己紹介の仕方だ。
仕事をしていた頃はどんな仕事をしているのか説明するだけで良かった。なまじ複雑な仕事だったので説明するだけで尺を稼げた。その尺の間に会話の糸口が何かしら見つかった。
うつ病になりたての頃、久々に初対面の人がたくさんいる場に出かけて困った。
自分がうつ病であることを悟られてはならないと思っていたからだ。
うつ病になることは恥ずかしいことではない。そのことは診断されてから散々勉強した。
だから隠しているつもりはなかった。しかし堂々と宣言するのも気が引けた。
例えば私自身が初対面の人から突然、自分に縁が無いと思っているような難病を抱えています、とカミングアウトされたらどう返答するか。それを考えると申し訳なくて言えない。私なら、その病気について知識が無ければ無いほど相手を傷付けないようにと、ものすごく気を遣ってしまうだろう。そんな気の遣わせ方を初対面の人にさせたくない。特に仲良くなりたい人とはなるべく楽しい話をしていたいものだ。
しかし最近、そこを濁しながら他人と話すのに限界を感じていた。うつ病になってからもたくさんの素敵な人達との出会いがあったが、自分のことをオープンにできずうまく会話できなかった人もいた。それはもったいないことだった。
「精神疾患を抱えている人」というと繊細で難しそう、暗い、真面目すぎる、とにかくヤバそう、などなどネガティブなイメージを持たれるのではないか。その考えが既に被害妄想で他人との会話を邪魔しているのだった。
それに気付いてから「うつ病、無職」という肩書きをオープンにしていくキャンペーンを自分の中でひっそり始めた。とはいえこのキャンペーン、何から始めたらいいものか。街中でメガホンを抱えて「私はうつ病です!」と宣言するわけでもなく、駅前を行き交う人、一人一人に「どうも! うつ病です!」と握手するわけにもいくまい。
そんな不特定多数の人に知って欲しいわけではない。知って欲しい人は誰なのか。悩んだ結果まずはSNSで友達になってくれている数百人にだけ自分の病名と近況を公開した。
すると想像もしていなかった多くの人が共感や励ましの言葉をくれた。また公開したことへの勇気を称えてくれる人もいた。
うつ病宣言キャンペーンを始めてよかったことが3つある。
一つはうつ病であることを何となく隠してしまっている後ろめたさがなくなったこと。
自己紹介で濁す必要がなくなったので、知らない人に会うというイベントが以前より億劫ではなくなった。
二つ目は意外と共感されやすく、思わぬところに仲間が見つかること。
うつ病とはっきり診断されていなくても、似たような症状や、他の精神疾患を経験したことがある人が想像より多い。本人でなくてもご家族などが同じ病状で大変な思いをされている人もいる。
SNSで公開して驚いたのは一度しか会ったことがない人や、何年も疎遠になっていた人などが自身の経験談をわざわざ伝えてくれたことだ。そういう理解者が周囲に増えたと思うだけで心強い。
三つ目は私でも役に立つという実感が持てたこと。
うつで無職、しかも未婚、出産経験もないという私は、正直何も社会に貢献できていないという負い目を感じてしまう。うつ病の療養中に一番考えてはいけないことだとわかっていても。そもそもそういう風に感じてしまう社会がどうなのかという話なのはわかっていても。
今の時代、生きていれば皆何かしらの辛い経験がある。それをなかなか他人に言えず一人で苦しんでいる人も多い。しかし、うつ病宣言キャンペーンを始めて、誰にも言えなかった自分の思いを打ち明けてくれる知人が増えた。
私は自分の状況をなるべくそのまま伝えることで、似たような環境にいる人に「言ってもいいんだ」と思ってもらいたい。もちろん全然違う環境でもいい。何かキツいことを一人で抱えている人に「他人に言ってみる」という選択肢があることを知っていて欲しい。
そしてそういう人達がどんどん声を上げられるようになり、「普通の人」が実はもういない社会だということに多くの人が気付くべきだ。
そのために私ができることとして、このキャンペーンがあるのだとやってみてわかった。賛同者を募って国に訴えかけたりだとか、そういう大々的なことは私の体力ではできない。自分のできる範囲で、目に見えて手が届く範囲だけで、これから先もずっと続けていく。
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