結局苦労するのはいつも長女なんですよ。≪史学女子あずまの日本神話ラボ体験レポート≫
こんにちは、天狼院スタッフ兼日本神話ラボ・マネージャーの東です。
いきなりですが、前回太陽神アマテラスについて知った当ラボで、講師の大杉日香里先生のお話の中にこんな1節があったことを覚えていますか?
「アマテラスにはスサノオという弟神がいて、スサノオは田の畔を壊して溝を埋めたり、御殿に糞を撒き散らしたりする乱暴ものだったそうです。他の神はアマテラスに苦情を言いますが、アマテラスは「きっと考えがあってのことなのだ」とスサノヲをかばいます。
しかし、とうとうスサノオは天女を1人死に至らしめてしまったのです。スサノオの乱暴に耐えかねたアマテラスは、天岩戸に引き篭ってしまいました。太陽神アマテラスのいない世界は闇に包まれ、八百万の神様達はどうにかしてアマテラスを連れ出そうとしました。そして岩戸の前でお祭り騒ぎをしてアマテラスの気を引き、自分がいないのに楽しそうにしている神々を不思議に思ったアマテラスが顔を出した瞬間、彼の神を引きずり出してしまったのです」
アマテラスの逸話としてもっとも有名であろう天岩戸引きこもり事件。
これ大体スサノオのせいですよね?
アマテラスは肉親の情と公儀への責任で板挟みです。
お姉さんなのだから我慢しなさい。
下の子の面倒はお姉ちゃんが見てあげなさい。
何事にも限度があるのでは…?とあずま家・長女(妹が1人)の私としてはアマテラスに同情を禁じえません。
スサノオとしても内心思うところがあっての行動なのかもしれないのでしょうが、このエピソードのおかげか彼って、不作法で荒くれ者なイメージが強いですよね。ナイフみたいに尖ってるぜ。
しかし、ここで小さな疑問をおぼえます。
スサノオってこの後どうしたんだろう?
ここまで暴れておいて、高天原(アマテラスや八百万の神々のいる世界)に居続けたの??
そんなわけで、今回は「アマテラスの弟神・スサノオについて」引き続き講師の大杉日香里先生にお話を伺いました。
さて、先生はそんな疑問も見逃さず、スサノオの後日談を詳しく教えてくれました。
「高天原を追放されたスサノオは、出雲の国で一人の娘を囲んで泣いている老父と老婆を発見しました。話を聞くと、八岐大蛇(ヤマタノオロチ・一つの胴体に8つの頭、8つの尾の怪物)が愛娘・クシナダヒメを食おうとしているとのこと。そこでスサノオは「あなたたちの娘・クシナダヒメをくれるなら、ヤマタノオロチを退治してやろう」と言います。そして、オロチの出てくる川のほとりに8つの棚を置き、その棚ごとに酒を置いておくように指示をしました。そこにヤマタノオロチがすさまじい地響きを立てながら現れ、8つの門にそれぞれの頭を入れて、ガブガブと辺り一帯に響き渡る豪快な音をたてながら、酒を飲み始めました。すると、酔っ払ったオロチはすさまじいイビキをかきながら眠り始めました。これ幸いとスサノオは刀を振りかざし、オロチに切りかかり、体を切り刻みます。刀がオヤマタのオロチの尻尾に差しかかった時、何かが刃先に当たり、中を裂いてみると、なんと剣が。この剣は、俗にいう天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)で、スサノオは、姉・アマテラスにこの剣を献上したと伝えられています。」
おお、なんというヒーロー感。
苦しむ老夫婦と娘を救うなんてスサノオも良いとこあるんだなあ、と思っていた矢先、先生から思いがけない1言が。
「高天原にいたスサノオと、ヤマタノオロチを倒したスサノオって人格違うと思いませんか?高天原のスサノオは荒くれ者でしたが、オロチを相手取ったスサノオはまるで英雄じゃないですか?」
確かにそう言われると、心境の変化にしても急すぎますし、たとえクシナダヒメに一目ぼれしてお嫁さんにもらうためにオロチを成敗したとしても、高天原にいたころのスサノオならオロチから強奪ぐらいしそうです。
つまり、スサノオは2人、ないしは複数人いるのでは。
まるで推理小説のようで書店員としては非常にワクワクしますが、どうやらそのようなトリックじみた話ではないようです。
先生曰く、「スサノオ」というのは人名ではなく、何かしらの役職なのではないかという見解があるそうです。
そう言われるにはいくつか理由があり、まず、スサノオの宛漢字の1つである「素砂
王(スサノオ)」、これ、どうやら砂の字は砂鉄を表しているそうです。
古事記・日本書紀の編纂された当時は砂鉄から水銀を取り加工するという技術が大変重宝されており、つまりスサノオ=何らかの技術職???
さらに、スサノオの英雄譚であるヤマタノオロチ伝説は、支配者としてのスサノオを表しているという見方があるようです。
これは、ヤマタノオロチという怪物を、当時もっとも危惧すべき自然災害の1つであった、洪水や川の氾濫などの水害に見立て、その地を治める者の役割の1つであった水害の予防・処理などを熟す姿をスサノオがオロチを倒す、という形で表しているというもの。
これを役職にあてはめるとスサノオは、砂鉄から水銀を取り出す技術をもって、いずれかの国を治めた権力者の象徴なのではないかと考えられる、というわけだそうです。
占いで邪馬台国を治めた卑弥呼や、合戦で国を築いた徳川将軍のように、古来より技術は権力に直結する例が多々あります。
つまり、スサノオはその人格に加え、技術を伴い語り継がれるべきだったのかも知れませんね。
そう考えると、アマテラスは姉役でありながら、部下を持て余す上司といったところでしょうか?
しかし、今回も例に漏れず真相は闇のなか。
以上!今回の本当にあったかもしれない神様の話でした。
そして、この記事をお読みになって気分を害された全国の弟さん・末っ子さん。深くお詫び申し上げます。
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