私は「魚」になった気分だった。
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記事:高宮 翼(ライティング・ゼミ平日コース)
「それでは後ほどお待ちしています」
その文章を読んだ私は、手が震え、
心臓のこどうが高まっていき、
スーツの背中に大量の汗をかいていた。
心の中では、
「あ、本当にとられるんだな……」
それまで、楽しみでしかなかった。
きっかけは些細なことだった。
だが、思ったことは実行してみないと
気がすまない性格だったためか、
準備は見事なくらい順調に進んだ。
それまでは。
スーツは立派なものが届き、
シャツとタイは悩みに悩んだ結果、
「これがよい」
というものを決めた。
カットの最中でも、話は、
そのことが中心となり、
スタイリストさんも、いつも以上に
丁寧かつ慎重に仕上げてくれた。
用意は周到に進んでいたはずだった。
さぁ、あとは現地に行って……
と思っていた際に開いたメッセージ。
冒頭のメッセージである。
とはいえ、時間は待ってくれない。
メッセージを読んだのは電車の車中。
よりによって、たまにしか駅に止まらない
特急電車に着席している。
心臓のこどう達とともに、特急電車は新宿駅についた。
考え方によっては、そこで帰ることもできる。
しかし、自然と足は、行き先に向かっていた。
普段めったに乗らない山手線に乗っている時点で、
結構自分の中では動揺が隠しきれないのは、
よくわかった。
普段は埼京線に乗るのだ。
新宿駅の真反対側にきている。
「ああ、どうしよう」
口はパサパサに乾き、いくら水分を補充しても、
身体は決して吸収しようとしてはくれなかった。
しばし、時間になるまで、近所で待つことにしたが
動揺は隠しきれないようで、
周囲の人が、不審そうにみていくのがわかった。
でも、時間は待ってくれない。
時間近くなって、心臓のこどう達とともにではあるが、
意を決し、現地に向かった。
「高宮さん、お待ちしてました〜、
あれ、今日はコンタクトなんですか?」
担当のYさんがいらした。
「あ、はい。一応、眼鏡も持ってきました」
「すごい緊張されてませんか?」
「はい、手の震えと背中の汗が止まりません……」
実際にそうだったのだから、仕方がない。
そこまで緊張する必要はないことと、
小道具的に商品を利用することができることを教わった。
小道具にはそんなに悩まなかった。
2冊の雑誌と、先に書いた眼鏡である。
さて、まな板にのるか、というような心境の中、
専用エリアに入った。
先生にご挨拶して後、
「緊張して手の震えと背中の汗が止まりません……」
と、また、言った。
「めったに機会がないですからね〜」
「そんな緊張しなくて大丈夫ですよ〜」
とおっしゃってくださったが、
目の前では、テキパキと準備が進み
専用エリアのカーテンがひかれ、
何やら、やたら明るいライトが
まぶしいくらいに私を照らしていた。
ああ、本当にとられるんだな……
「はい、テストしま〜す」
その後、言われるがままポーズをとって、
ライトのなにか数値を変えて、
と繰り返した後、
なにか吹っ切れた。
「眼鏡もってきたんですけど、使いますか?」
私から初めての提案をした。
「使いましょう」
「あ、眼鏡ありもいいですね〜」
だんだん気分が上がってきて、
緊張がほぐれていくのがわかった。
椅子に腰掛けてみたり、
机にひじをついてみたり、
言われるがまま、のなかで、
また提案をしてしまった。
「この机に腰掛けてみてもいいですか?」
もう完全に調子に乗っている。
いや、乗っているように思わされているのだ。
「いいですね〜」
「はいじゃあ視点をこちらに」
「そしたらお店でとってみましょうか?」
もうなされるがまま、という感じもしなくはない。
ただ、
最初に感じていたような異常な緊張感はほぐれ、
「ハイ」になっているようだった。
「おつかれさまでした〜」
「ありがとうございました〜」
おわって後、
別室で椅子に全体重を任せ、どっしりと座った。
「大丈夫ですか?」と担当のYさん。
「疲れました……」
諸々説明をいただき、初めて気がついたものがあっ。
実際のところ、申し込んだ時の想定以上のものだった。
そして、お店を後にする前に先生に最後にお礼を言い
担当のYさんにもお礼を言い、
なんとか、目の前のエスカレーターに乗った。
「ああ、お水飲みたい……」
地下のコンビニで、炭酸水を1L 買い、飲み干してしまった。
今回の水分は身体が吸収してくれた。
「はぁ…座って帰れるかな……」
と思いつつ、今度は「普段乗る埼京線のホーム」に向かっていた。
これが、私が「本物のプロのカメラマンさん」に
撮ってもらった体験である。
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