メディアグランプリ

崖っぷちミュージシャンの決意


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記事:たーぼー(ライティング・ゼミ平日コース)

「もう生活ができない」

大学を中退してまで志した道で、僕は苦戦していた。10年もの年月を音楽に費やした結果、もうとうとう諦めるしかないギリギリの局面にまできていた。そう、もうお金がつきそうだったのだ。

周りの友人のSNSをのぞけば、多くの者は会社でキャリアを重ね、結婚をして家族を持っている。きっと年収も500万円くらいはあるのだろうし、なんならマイホームだってあるのかもしれない。正直友人たちがうらやましかった。

こんな卑屈な人生を過ごすために僕は生まれてきたのではない。ただ、音楽をしている時が幸せだったのだ。その幸せを掴むために、親にも相談せずに有名大学を中退した。

大学を中退した時期は就職活動の時期だった。自分がどのような人生を歩みたいのか、いやでも考えさせられる就職活動。

この就職活動を通して、僕は「サラリーマンにはなりたくない」ということが分かってしまったのだ。そして、中学時代から続けていた音楽の道で生きることを決意し、大学を中退した。

生半可な気持ちでは音楽で食っていけないと、自分自身に負荷をかけて追い詰め、成功するしかないという状況を自分で作り出すためだ。

路上ライブを毎日こなし、曲作りをした。割がいいので、夜間の危険なアルバイトにも手をそめた。それでもCDが全然売れなかったので、アルバイトをやめて音楽に専念して3年の月日が流れた。

その結果は、こうだ。

CD販売数1,563枚。

音楽活動をしてから始まる夜間のコンビニバイトで食いつなぐ日々。

そして、一発逆転を狙って仮想通貨へ投資したなけなしの52万円が、パーになり貯金1,339円となった。

さらに、家賃の支払いを明日に控え、これからどうやって家賃48,000円を支払うのか、考えなければいけなくなってしまった。今までも家賃を滞納したことはあるが、2,3ヶ月はなんとかなるだろうと高をくくっていたが、先日大家さんに今度ばかりは払ってもらえないと強制退去するとおどされていた。

文字通り絶体絶命の状況となってしまった。そして僕には頼ることができる親戚もいない。なぜなら、勝手に大学を中退して親子の縁を切られたからだ。

「俺の人生、終了だな」とふと思った時、あの有名なバスケットボール漫画のセリフが思い浮かんだ。

話は変わるが、僕には7年前、熱狂的なファンがたった一人だけいた。そのファンは僕の歌を愛し、僕自身も愛してくれる女性だった。

路上ライブが終わったあと、ふとペットボトルの水をそのファンは僕に差し出して「今日もあなたの歌で元気になれました。ありがとう」とありがたい言葉を投げかけてくれた。あまりに毎日の路上ライブにそのファンがきてくれるので、連絡先を交換し、プライベートの関係になった。

僕が作った曲の歌詞を覚えてくれていて「あのフレーズが良い」「この曲はサビまでもう少し引っ張ったほうが良い」などと、たくさんのアドバイスをくれた。やがて僕は、その女性のことを愛するようになった。

作る曲も何か恋愛っぽい曲が増えたし、それに応じて女性ファンが少しずつ増えた。

ただ、その女性はその出会いから半年で、遠い場所へ転勤してしまい、しだいに連絡がつかなくなってしまった。このギリギリの状況を少しでも忘れることができる大切な思い出だ。

そして、ギリギリだからこそ、久しぶりにその女性に会いたくなった。今どこで何をしているのか、7年もたったのだからもしかしたら結婚しているのかもしれない。元気なのだろうか。連絡先が変わっているのではないだろうか。

そんなことを想像しながら、その女性に電話した。

「もしもし」

あの懐かしい声が聞こえてきた。次の言葉が見つからない。ただ、何も言わないわけにもいかなかった。

「もしもし。久しぶり」とだけ僕が話すと、女性から「私も連絡しようと思っていたの。やっぱりあなたが忘れられなくて」と言われるかもと妄想していたのだが、出てきたのは意外なセリフだった。

「私、ユーチューバーになったの」

むむむ! と思い、女性が言われるがままユーチューバーを検索してみるといるではないか。彼女が顔を出して、化粧品の使い方をレクチャーしているではないか! しかも、チャンネル登録数はなんと2万を超えている。

「きっとあなたもユーチューブで曲をアピールしたほうが良いわよ」とアドバイスをいただき、電話を終えた。

今まで、路上ライブをこなし、それでファンを増やし、ライブハウスでライブをする。そんな音楽活動は昔のスタイルだったのだ。僕は何かのヒントを得たのだ。

そういえば、ピコ太郎もユーチューブ動画をジャスティン・ビーバーが紹介したことでブレイクし、今では俳優業なんかもしていたりする。これはきっとチャンスだ。

明日までの48,000円を作るために、ユーチューバーになり、音楽活動をする。

どうすれば48,000円稼げるのだろうか。現実問題、消費者金融に駆け込むしかないだろう。借りられるかどうかはさておき、借りられたとしたら返さなければならない。

僕が音楽活動をユーチューブでしていることを昔の友人たちが知ったら、きっと笑うだろう。でも、そんなことを気にする必要はない。

ユーチューバーとして稼いだお金できっと返してやる!

これが僕の人生だ。僕が決めた道を僕の責任で歩むのだ。

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2018-11-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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