1冊の本が私の目標を明るく照らす灯台になった日
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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加藤 智康(ライティング・ゼミ 木曜コース)
涙が出てくる。本の最初の数ページを読んだところで、涙がでるのは初めてだ。
「なんだ、この本」と思わずつぶやいた。
多くの人に読み込まれて古くなった1冊の本である。
わたしは別の本からの紹介で読みたくなって、図書館から借りてきた。見た目はあまりきれいではない。でも、なぜか存在感を感じてしまった。
宮崎県で有名になった新聞の社説をまとめた本である。
社説だと書いてあるからか、それほど長い文章ではない。3ページほどで1話が終わる。
しかし、この3ページの中で何度も涙がでたり、共感したりできる内容に驚く。
わたしは少しの恐怖とともに、興奮を覚えた。
最初から涙が出る本を最後まで読んだらどうなるのだろうと。
人は想像を超えるものと出会うとこわくなってしまう。
なぜなら、最初から感情を高ぶらせる本に今まで出会ったことがないからだ。
わたしが読んできた本は、クライマックスで泣いたりするものが多かった。
想像ではあるが、人は気持ちを高ぶらせてから泣くからだと思う。
感情移入をして、クライマックスで主人公に共感して、感動して泣くのだろう。
そう簡単に泣くほどまでに気持ちを高ぶらせることは難しいと思っている。
本を読む前はいろいろな感情があると思う。楽しい気持ちで過ごしてから読む場合もあれば、失恋で落ち込んで読む場合もあるだろう。そして、感情に応じて読む本も変わってくる。今回は、この本の著者の奥さんの本を先に読んでいた。その本の中で、旦那さんが新聞社の編集長であることと、社説をまとめた本の評判がいいことを知った。そこで、さっそく借りることにしたのだ。自然体の中で読み始めたのだった。
社説のイメージはどのようなものがあるだろうか。
有名な新聞社の社説はたまに読んでいるが、かたい時事問題への意見などがまとめられていると感じている。正直面白いというよりは、勉強になると思う印象である。文字数はそんなに多くないのは確かである。インターネットで調べると800字程度であることがわかった。その中で読者に向けたメッセージをまとめてくるので、内容は濃い。わたしは時事問題の理解の助けや、文章構成の参考教材にして、要約練習をしたこともあった。
感動はあまりなく、教材というイメージしかなかった。泣くなんて想像もできなかった。
ところで、映画はどうだろうか。最初から泣く映画を思い出そうとしても思い出せない。
映像や音楽や言葉の力をつかっても、最初の数分で号泣はないだろう。ましてや、最初からクライマックスを用意しては、最後まで持たないと思う。今までの経験の中で強いて言えば、豪華客船が沈む映画が近いと思う。オープニングから涙腺が緩むこともあった。友人も最初からハンカチが必要だと言っていた。でも、それは何回も見て泣けることを知っていたり、オープニングから最後の悲しいシーンを思い出しているからだと思う。多くの人が、もはや感動して泣くために映画を見ていると思えるぐらいだった。劇場内に多くの人の泣きたいという雰囲気が漂っていたと思う。
しかし、今回読んでいる本は少し違った。新しい出会いである。心の準備は社説であるのに、内容は最初からクライマックスシーンである。唐突に出会ってしまったので、思わず涙がでて、冒頭のセリフが口をついて出てきてしまったというわけだ。
「なんだ、この本」
最初は、食用の牛を扱う食肉加工センターの人のお話しである。様々な立場の人の心の動きが書かれていた。それも3ページの量であるが、文字も大きく、行の間隔は広いのでそんなに文字数も多くないと感じる。確かに1000字以内で、いわれれば社説だとは思う。
しかし、その文字数の中で深い感動と涙がでるところまでわたしの心を揺るがしたのである。1つ1つは何の変哲もないひらがなや漢字、句読点のあつまりなのに、それがおよそ800個つながると、人に涙を流させる力を発揮する。あたりまえのことかもしれないが、わたしは深い感動を覚えた。
そう考えられるようになったのも、天狼院のライティングゼミで文章を書くことを習っているからかもしれない。自分で人を感動させる文章を書く難しさを感じていたからだろう。2000字を使っても、うまく文字たちをつなげられないのに、この本は1000字以内でわたしが求めている心を揺るがすということを成し遂げている。こういうのを畏怖の念というのかもしれない。ただただ涙したのも、自分にできないことをこの社説の本が成し遂げていることに、畏怖を感じたこともあるのかもしれないなと思った。
わたしは素敵な社説に心を揺るがされた。みやざき県の新聞の社説にである。
わたしも人の心を揺るがせるような文章を書きたいと思っているし、人のためになる文章を書きたいと思っている。人を動かすような文章を書きたいと思う。
「日本一心を揺るがす新聞の社説」
その感情を与えてくれたこの本は、私の目標を照らして案内する灯台になった。
天狼院のライティングゼミが終わっても、書くことを続けていきたいと強く思う心に、あかりが灯った瞬間だった。
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