ピアノ V.S フランツ・リスト
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記事:渡辺美幸(ライティング・ゼミGW特講)
「それは……確かにピアノが壊れるかも」
久しぶりに行ったクラシック音楽のコンサートでそう思った。演奏されていたのは、ピアノとオーケストラが一緒に演奏する、ピアノコンツェルトというもので、クラシック好きは「Pコン」と呼んだりする曲だった。
「フランツ・リスト」という、当時アイドル級の人気を誇った作曲家の作品だ。
なぜ壊れると思ったのかと言えば、勿論、その曲の激しさだ。
大の大人が、それも男性のピアニストが、全身の力を使って鍵盤を叩きつけるように、かつ物凄いスピードで弾いている。1~2で終わるような曲では勿論ない。当時の楽譜をもとに弾いているわけだから、今聞いているこの曲も当然作曲家と同じくらいの力で演奏されているであろう。こんな力で当時のピアノを弾いたら確かにそう長くはもたないかもしれない。そう思った。
さて、この「フランツ・リスト」とは何者だろうか。
彼が生まれたのは1811年。185cmという高身長に端正な顔立ち。パリの社交界で彼の名を知らないものは無いというくらいの人気ピアニストであり、作曲家だった。ヨーロッパを回る演奏旅行にも出ている。その人気は演奏会中に失神者が出たり、お風呂の残り湯を盗まれたりしたくらいという。ちなみに、「ソロリサイタル」という言葉を作り、初めて使ったのもこの「フランツ・リスト」だと言われている。現在のコンサートのスタイルを確立した演奏家と言ってもいい。
それにしても、お風呂の残り湯って……。
彼は、演奏の激しさがまた有名で、2~3曲弾いただけでピアノがダメになった(1曲を弾いている間という話もある)とか、壊れることを見越してピアノを3台は用意しておいたという話が残っているほどだ。1曲でピアノが壊れるとはどういうことなのかもう訳がわからない。
演奏の激しさと関係があるのか、自身も演奏中に倒れたことがあるとか無いとか。
この激しさは勿論、彼の作曲した作品の中に恐らくそのまま残っている。
だからこそ、ピアノが壊れるのも無理は無いのかもと私は思ったわけだ。
一方、ピアノの方はどうかと言えば、起源を辿るとなかなか古い。現代のピアノの原型になるものが出てきたのは1700年頃で、その頃はまだ4オクターブ、つまり、「ドレミファソラシ」を1セットと考えると、それが4セット分しかなかった。かなりコンパクトだ。今のピアノは88鍵盤ある。1オクターブの中に含まれる鍵盤の数は白と黒を合わせて12鍵。
だから、7オクターブ+4鍵だ。倍近くになっている。
材質や、ピアノ内の構造も今とは異なる。ピアノの中には何本もの弦が張られていて、この弦1本に対して1つ羊毛で包まれた小さなハンマーがある。
そのハンマーで弦を叩くことで音を出している。このハンマーを動かすために操作しているのが鍵盤だ。
ピアノは鍵盤を叩く力の強さで音の強弱をつけるわけだが、要するに、強く叩けば叩くほど、大きな音が出る。もちろん限度はあるが。
リストが活躍した当時のピアノは材質など構造上の問題からか、今ほど大きな音は出なかったという。当時のピアニストたちが現代のピアノを弾いたら驚くだろうし、今聞いている音楽は当時の作曲家たちがイメージして作ったものとは違うかもしれないとどこかで読んだ気もする。
ところで、彼の曲は「フォルテ」で弾く箇所が多いように思う。「フォルテ」とは音楽記号の名前だが、「強く」という意味がある。つまり、「フォルテ」と楽譜に記載がある場合は、その箇所は強く弾かなくてはならない。
まして、それほど音が響かないピアノなのであればなおさら強く弾いていただろう。力を入れて弾くのだから、鍵盤やハンマーにかかる負担は確かに強かったに違いない。
ところで、車にもメーカーがあるように、実はピアノにもメーカーがある。
当時、1曲か2~3曲でピアノを壊していたリストでも、壊れなかったと言われる頑健なピアノが存在した。
ウィーンの「ベーゼンドルファー」というピアノだ。
このピアノは今も製造が続けられている。
とても頑健で、リストは好んでこのピアノを弾いたと言われている。
練習中に何度もピアノが壊れたらその度に練習を中断しなければいけないわけだから、壊れないピアノを求めたのも当然だろう。
さて、途中にも出てきたが、現代のピアノならリストが弾いても壊れないだろうか。
当時の物に比べればだいぶ丈夫にはなっているだろうが、試す手段は無い。
現代のピアニストたちが彼と全くおなじ力で弾いているという保証もないのだ。
いま彼が生きていたとしたら、現代のピアノでどんな音楽を奏でたのか聞いてみたいところだ。
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