「おっさんずラブ」を観てよかったのか
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記事:近藤頌(ライティング・ゼミ平日コース)
2018年春期。
その最終回が終わるや否や“はるまきロス”などと名づけられた欲求不満現象が社会旋風を巻き起こし、その年の流行語にもなった恋愛コメディドラマがあった。
「おっさんずラブ」
主人公春田(はるた)のことを入社当時から一目惚れしていた部長の黒澤と異動してきた後輩牧(まき)との三角関係が主に描かれた内容で、ぼくは当時、気になってはいたものの自宅にテレビがないというのも手伝って観ないでいた。
どうせ同性愛を面白おかしく描いただけの、好きになるって尊いことですよね、的なメッセージの詰まったものだろう、と勝手に思っていた。
いや、実際、今、Yahoo!の動画配信サービス[GYAO!]で無料配信されていたのを観てもそう思ったのだった。
しかし、その“面白おかしく”の描き方が、思っていたのとまったく違う、ともう一度観終わった時に感じて、その理由はどうしてなんだろう、ということにぼくの興味は吸い込まれていった。
どうして観ていて嫌な気持ちにならないんだろう。
全てをぶっ通しで観終わると、さすが動画配信サービス。次の動画を観させようと〈もっとみたいあなたへのおすすめ〉なる項目が画面の下に顔をのぞかせる。
仕方なくその流れに乗ってながめてみると、そこに出てきたのはなんと
「おっさんずラブ(2016)単発ドラマ」
だった。
無知なぼくは驚いた。
まさかこのドラマに大元となる、いうなれば、原液「おっさんずラブ」がこの世に存在していたとは。
ぼくは無意識にもポチりと画面をタップする。
観終わってぼくはさらに驚いた。
この2016年と18年の2年間で、一体何が起こったのだろう。
2016年の単発版にはあって、18年版にはないセリフ。
「気持ち悪い」
「明日から仕事でどう接していいかわからない」
「お前となんかゼッテー付き合わないからな」
「今度は、俺が喰われる番」
「もしかして、ヤッたの?」
「私は大丈夫だよ。別にそういうの、全然偏見ないから」
……なんだろう、これ。
逆になんでだろう。
なんで18年版にはこれらの、現実世界でもよく、本当によく使われがちなこれらのセリフが、一切、本当に一切、(2回ほどぶっ通しで観ての調査なので抜けがあれば平謝りする他ないのだが)一切ないのに、違和感がないのはどうしてなのだろうか、とぼくはちょっとした喜びに叫び出したい気分だった。
だいたいこういう場合。
セクシャルマイノリティーのことをテーマに扱う作品には、大概セクシャルマイノリティーがどういう扱いを受けているか的な描写がつきものである。
例えばセリフ以外にも、2016年版には、主人公が部長ともつれ合っているのを部下に見られ、同性愛者である噂によって社員たちがジロジロと怪訝な目線を送るカットが割合長く使われている。さらには手の触れた男性が、わあ〜と拒絶し「俺そういうんじゃないんで」と逃げ去っていくところのシーンは、18年版を観た後には余計に衝撃的に胸に迫るものがあった。
逆にどうして、それらの描写がないのに、18年版はすんなり違和感なく、また教育的メッセージに付き物の胡散臭さすらも感じなかったのだろうか。
どうして18年版は、だれもが、びっくりはするけれど「いいじゃん!」と言ってくれるのだろう。
どうしてそこに嘘を感じなかったのだろう。
どうしてだれも気持ち悪がったり、からかったりしないことに、違和感を感じないのだろう。
だれもが否定しない。驚きこそすれど、否定はされない。
まだそんな世界にはなってはいないのに、どうして夢物語にも感じなかったのだろう。どうせそんなのは理想でしかないと、どうして一蹴できないのだろう。
きっとぼくは、こんな世界観を望んでいたのだと思う。
変に万全受け入れオーケーという訳ではなく、やはりマイノリティーだから驚かれもするんだけれど、それでも否定はされない世界。
ぼくはこういう社会問題とされることは、まずは事実を正確に正確に描写していくことで、こんな目に遭っているのはおかしくないかと世の中に訴えることで、少しづつ世の中が変わっていくものと思っていた。
けれど今回この「おっさんずラブ」の原液と濃縮還元されたものとを観比べてみて、別の方向性もあるのかもしれないということを考えさせられた。
それはつまり、現実に即した理想像を先に提示してみせること。
たぶん製作陣はそんなこと考えてはいなくて、ただただまっすぐ作っていただけなのかもしれないけれど、それが今回新しいロールモデルを作ったのではないかな、と勝手に考えている。
2019年8月23日金曜日。
「劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD」封切りを記念に動画配信サービス[GYAO!]では10月31日まで無料で配信中だ。
ぼくはたぶん、また観てしまう。
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