この歳になるとたまには思い出したい恋の話がある
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:鹿内智治(ライティングゼミ・日曜コース)
「ぼくと同じ苗字になってください」
「……はい」
まさか彼女と結婚できる日が来るなんて。
この言葉を言うのに、最高に緊張した。
でも言えて良かった。
それは本当に幸せな瞬間だった。
社会人2年目に入り私は焦っていた。
彼女いない歴が6年目を迎えて、自己ワースト記録を伸ばし続けていた。
20代後半に差し掛かり、周りの友人はどんどん結婚している。
取り残されているようで、少し焦っていた。
合コンには何度か参加しているが、どうも馴染めない。
自己紹介して、趣味のことを話して、好きなことを話す。
たった2,3時間で何が分かるのだ?
気を使い、お金を払い、緊張する飲み会なんて何が楽しい?
成果が出ないやるせなさを、合コンのせいにしていた。
仕事が恋人かと言うくらい、朝から晩まで働く生活を送っていた。
そんなときに電話が鳴った。
中学の同級生からの連絡だ。
「今日夜空いている?」
「空いてるけど何?」
「突然なんだけど、今日の夜、合コンどうかなって」
どうやら今夜4対4の合コンがあるらしい。
でも男子で急に1人欠席者が出て、代わりを探しているとのこと。
人数合わせかよ。
ただ、この同級生には以前「出会いがほしいから合コン誘って!」とお願いしていた。
断るのは申し訳なかった。しかも今日は予定はない。いいよと返事をした。
「男は、誰が来るの?」
「オレの高校の同級生だから、お前の知らない奴ばっか」
「マジかよ!」
女子は初対面なのは普通だが、男子も初対面は初めてのパータンだった。
こりゃ期待薄い。
「じゃあ19時に駅の東口ね」
「了解~」
そう言って電話を切った。
夕方になり、駅前で幹事の同級生と合流した。
すぐに他の男子と女子のメンバーとも合流した。
雰囲気のいい居酒屋の個室に通され、合コンがスタートした。
最初は8人での会話が続いたが、だんだんと共通の話題もなくなり、会話の人数が4人になり、2人になり減っていった。
この日も全く期待はしていなかった。
でもどうしても1人だけ気になる女の子がいたのだ。
自分からは話さない奥手そう。
でも話かければ、しっかりと答えてくれて、自分の意見を持っている芯のありそうな子だった。年齢は1つ下だという。職業は保育士。子どもが好き、自分と同じだ。
どうやら、巨人が好きで、野球観戦が好きだと言う。
自分は野球は好きではない。でもデートにはうってつけだ。
温泉も好きだと言う。もし付き合えて2人で行ったら?妄想は膨らんだ。
この子の連絡先を聞きたい。
「連絡先、交換してもらっていいですか?」
「いいですよ。」
なんだろう、理由ははっきりしない。でもなんとなく気になる。
合コンが終わり、解散してからもその子と頻繁に連絡をとった。
ありったけの野球情報を頼りに話をしたり、お互い仕事の話で盛り上がった。
二人きりで、居酒屋で飲みに行ったりもした。
それから何度かデートを重ねて彼女と付き合えることになった。
話はここで一気に飛ぶ。
それから付き合い始めて2年ほど経つ。
そのころには、「この人しかない」と思うようになっていた。
彼女の誕生日にプロポーズしよう。
プロポーズするならば、あのレストランしかない。
二人で初めてデートしたレストランだ。
せっかくならばお店の人に花束を用意してもらおう。
お店の人には、本当の目的は伏せて、彼女の誕生日を祝いたいと伝えた。
なんだか、恥ずかしくて。
プロポーズ当日。
コース料理をひとしきり食べ終わった。
私はいつ言おうか迷っていた。
お店の人が察してくれて、花束を持って来てくれた。
彼女は花束を見てとても喜んでくれた。
さあ、プロポーズしよう。そう思った。
そうしたら、店長がビックリすることを言い出した。
「今日はこのお客さんが誕生日なんです! 良かったらみなさん、集まりませんか?」
集まりませんか??
どうやら、お客さんはみなお店の常連客だった。
ノリの良い店長のおかげで、そこにいるお客さんがみな集まって話すことになった。
こんなところで、プロポーズなんてとても言えない。恥ずかしすぎ。
店長には感謝を言いつつ、早々に店を出た。
「どこで言えるか?」と頭のなかはフル回転。
歩きながらの帰り道、電車のなか。良い場所がな思い付かない。
二人っきりになれるいい感じの場所がない!
そうこうしている間に、家の前まで来てしまった。
もうここで言うしかない。やっと言葉がでた。
「ぼくと同じ苗字になってください」
「……はい」
そう答えた彼女は泣いていた。
あとで聞いたら、この日、プロポーズされると秘かに期待していたらしい。
レストランで言われると思っていたが、当てが外れて、諦めていたときに、急に言われて余計に嬉しかったようだ。良かった。プロポーズ成功である。
こうして、偶然出会った女性と結婚して、今年で9年目に入る。
今では当時の初々しさはない。
日々の仕事や育児にお互い追われて、余裕のない日々を送っている。
出会ったころのことも忘れて、いつも側にいるのが当たり前の存在になっている。
それはそれでいい。
でもたまには、僕らは偶然に出会った存在なのを思い出したい。
あの日、あの時会ってなかったら、もしかして今はないのかも、なんて。
僕らは運命と言えるほど、強い赤い糸で結ばれていることを。
ときには、僕らがあのとき恋に落ちたことを思い出しくなることがあるのだ。
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