fbpx
記事

離婚を考えるほどヒマじゃない〜若女将に学ぶ運の掴み方《週刊READING LIFE Vol.78「運は自分で掴め」》


記事:ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
結婚生活が円満な夫婦と、うまくいかない夫婦、その違いはなんだろう。
 
新型コロナウイルス対策による政府の緊急事態宣言からはや3週間がたち、日本のみならず、世界のあちこちで文字通り世界が変わった。諸外国ではロックダウンで家から出られず不安を抱える人たちが増えた。日本でも自粛で外出を避ける人が増え、そのため自宅に籠る時間が増えると、自ずと家族と向き合う時間も増えた。
 
そこで起こっているのが、コロナうつ、コロナ離婚だ。
 
普段家にないはずの夫が家にいて、リビングの片隅でテレワークをしている。
学校が休校となった子どもたちもリビングで遊んでいるから、当然夫は仕事に集中できるはずもなく、イライラが募る。妻にしても、普段家にいないはずの夫や子どもが家にいるから、生活のリズムが狂う。家族全員がこの非常事態で生活そのものを変えざるを得ない状況になっている。
 
イクメン、家事メンがほぼ死語となるぐらい浸透した今でも、まだまだ女性の家事負担は大きい。テレワークで夫が家にいることで、普段はいないはずの夫や子どもの昼食までつくるはめになり、妻の負担とともにストレスが増していく。
 
それでなくても日本の離婚率は約30%、つまり3組に1組の夫婦が離婚をする時代である。もしかしたらすでに長年にわたりすれ違ってきた夫婦の溝は深く、そこに最後のクサビを打ち込んだのがコロナウィルスなのかもしれない。しかしそれだけでなく、これまで安定しているように見えていた夫婦も、コロナウィルスのおかげで離婚を考えるという。
 
残り70%の夫婦が離婚はしていない、ということになるが、それでも最後まで幸せで円満でありつづける夫婦はどれぐらいいるのだろう。「あなたと同じお墓に入りたいの」なんて思う相手に出会うことは、本当に可能なのだろうか。そういう相手に巡り合えることは、ものすごく奇跡的な幸運に恵まれない限り、無理なのではないか。

 

 

 

かくいう私も、バツイチである。
 
今では再婚して一人息子にも恵まれ、3人家族でまあまあ円満に暮らしてはいるものの、最初に結婚した相手とは2年で破局を迎えた。
 
離婚の原因を一言でいうならば、それは夫のうつ病だった。
今であれば、「うつ病ぐらい、がんばって支えてやれよ!」と自分に言いたいぐらいだが、当時若干30歳だった私にとって、うつ病をかかえる夫の存在は重すぎた。今のようにインターネットで様々な情報が得られる時代ではない。うつ病は遥か彼方の、「一部の人だけがかかるヤバい病気」だった。
それでもまだ、もし結婚する前からわかっていたのなら、それはそういうものだと受け入れられたのかもしれないが、私が夫の病気に気づいたのは、こっそりと隠していた薬の袋を見つけてしまったからだった。夫は隠れて薬を飲んでいたのだった。
 
私は、夫がうつである、という事実よりも、自分に話してくれなかった、という事実のほうにショックを受けたのだと思う。なぜ結婚を考える相手に、そんな大事なことを話してくれないのか。もちろん話したら私が離れていくだろうと思ったのかもしれない。相手も同い年、結婚したのは28歳のとき、お互いまだまだ若かった。結局は隠していたことが裏目にでて、その結婚は破綻した。私から離婚を切り出したら、夫はむしろほっとしたようだった。
 
子どももおらず、持ち家もなかったので、離婚はあっさりと成立した。
本来ならこちらが慰謝料などをもらうこともできたのだろうけれど、傷は浅いうちに塞ごうという両親のアドバイスをうけて、後腐れなくきれいさっぱり別れた。
その判断には何も後悔はしていない。
 
うつ病であることを隠していた相手と結婚した私は、運が悪かったのだろうか。
相手が悪かったから、自分の結婚はうまくいかなかったのだろうか。
少なくとも当時の私は、そう思っていた。

 

 

 

仕事で、とある女性をインタビューさせていただいた。
老舗料理旅館の若女将である。
江戸時代末期から続く料亭の、6代目の女将さんだ。
 
「相手の顔もよくわからないのに、結婚を決めたんです」
 
と、若女将になった経緯を話してくださった。
 
福岡出身の彼女は、前職の関係で出会った若旦那と、知り合って1週間で結婚を決めたというのだ。一度なにかの会食でご一緒したのち、とんとん拍子に話がすすみ、気付いたら結婚が決まっていたという。関東と九州、遠く離れた場所に住む二人は電話のやりとりをして過ごし、会食から1週間後に再会したときは、相手の顔など覚えてはいなかった。
それでも結婚を決めたというのだ。
 
二人に何があったのかはわからないが、きっと何か運命的なものがあったのだろう。
でなければいくらなんでも、顔も覚えていない相手と1週間後に結婚は決めないだろう。
料亭の若旦那という立場に目が眩んだのかも、とも思ったが、女将はそのような玉の輿狙いの打算で動く人ではない。
 
彼女の結婚生活はやはりとても変わっていて、夫婦で仲良く、とか、家族で仲良く、という家族らしいことがほとんどないらしい。若旦那はいつも自分のしたいことだけをし、自由気ままに暮らしているという。
 
料亭のお店は若旦那の母親である大女将と6代目若女将が切り盛りしているから、若旦那は一切出る幕もなく、もちろん店には出てこない。
仕事という仕事をあまりしている様子はなく、ふらっと旅行にでかけてはしばらく帰ってこないことも多いらしい。
 
もちろん妻としては、いろいろと心配だろう。
どこかで倒れていやしないか、いやむしろ、誰かと浮気しているんじゃないか。
連絡もなく家に帰らない夫など、離婚されても当然ではないか。
 
しかし若女将は、離婚を考えたことは一回もなく、これからもないと断言している。
それは一体なぜなのだろう。
 
「料亭の女将に、なりたかったんですか」
と単刀直入に訊いてみた。しかし答えはノーだった。
「別に、女将になりたかったとか、そういうのは本当になくて」
 
ますますわからない。
 
「ただ、そのとき、そうすることが絶対に正しいと、自分のなかで直感のようなものがあって、それを手を伸ばして掴んでみただけ。そしてその直感は、間違ってない」
と女将はいう。
 
「だいたい、自分がよく考えて動いたことは、大抵失敗する。自分の頭で考えることなど、たかが知れているから。それよりもチャンスを掴むことが大事。チャンスは常にものすごいスピードで目の前に落ちてきているけれど、それを掴める人が本当に少ない。なぜなら、もっといいチャンスがくるんじゃないか、とか、今じゃない、とか、いろんな理由で目の前のチャンスを掴まないから」
 
若女将が嫁いできてから、もう18年になる。
子どもを2人産み育てた。子どもが小さいうちはお店の仕事はそこそこに、子育てに専念していたという。なぜなら夫、つまり若旦那が全くあてにならなかったからだ。いつもどこかにふらりと行ってしまう夫には、子育てに参加してということも言うだけ無駄だった。そのため若女将はがむしゃらに、全力で子育てに取り組んできた。
 
教育として子どもとしている約束がある。それは「20歳になったら、母親に一人20万円ずつ仕送りをすること」である。
20万円ものお金を毎月仕送りするとなれば、相当の稼ぎがなければ無理である。しかし若女将はそこをスタンダードにすることで、自立して生きる力のある子どもに育てようとしていた。子どもたちも長年の経験で、母親が嘘やハッタリを言わないことをよく知っているので、そうなれるように必死だという。
 
子育てに全力の若女将は、家業にも全力だった。
まだ現場で最大の実権を握る大女将のもと、常に渡り合って店を切りもりしてきた。
老舗の料亭が長く続けていけるのは、古いものを断固として守るからではなく、時代に合わせて常に変化変容してきたからである。その新しいアイデアを生み出すのが若女将の仕事で、常に大女将と喧嘩しながら、店を発展させてきた。
そのことを大女将もわかっているから、二人は喧嘩しながらもお互いを信頼しあい、実の親子よりも強い絆で結ばれるようになった。
 
もはや若女将は、夫と別れるとか別れないとか、そんな次元では生きていないのである。
彼女は自分の人生を全うするために全力で生きていて、そのために必要なことをただやり続けているだけなのだ。夫婦関係がどうのこうの、と言う前に、自分の人生を真正面から真剣に生きているだけ。
 
自分の人生を生きることで忙しいから、離婚とか考えている暇がない。
ご縁があったから夫婦になっただけのこと、そこに基本的な愛情があることはむしろあたりまえのことで、それを確認しなければ夫婦生活が続かないことが、むしろおかしいのではないかと、若女将は私に思わせてくれた。

 

 

 

私は再婚してから、もうすぐ9年になる。
今の夫と出会ってからならもう12年、別れる気配は全くない。
 
100%夫に満足しているかと訊かれたら、少し答えるのに苦労する。
なぜなら満足はしていないからだ。
 
家事をろくに手伝ってくれず、万が一洗濯でもしようものなら、しわくちゃになって出来上がってしまうし、洗い物をしようものなら、必ずお皿の1枚が割れてしまう。
大企業に勤めているけど出世欲は一切なく、休みといえばサッカーばかり見ている夫に、もうちょっとしっかり仕事したらと言いたくないと言えば嘘になる。夫に足りないところを見ようと思えば、そりゃ際限なく見つけることができる。
 
しかしそこに、どんな意味があるというのだろう。
100%完全な人間など、存在するはずがないではないか。
 
そもそも、人にかけているところを見つけて指摘するほど、自分は完璧な人間なのだろうか。そんなことは絶対にない。
 
相手に欠けているところばかりをみる人は、いつも何かが足りないと感じている。
自分が不幸だと思う人は、それを誰か人のせいにしている。
自分がうまくいかないのは、何かが悪いからだ、誰かが悪いからだ、何かが欠けているからだと、常に自分以外のナニモノかのせいにしているからだ。
 
どんなご縁を掴むか、それをどう扱うか。
結局全ては自分ごと。自分だけが自分の人生の手綱を握っている。
 
世界は自分が作っているという世界観で生きること、また全ては自分に帰するという価値観で生きること。そう生きる人だけが、運を引きよせることができるのではないかと、若女将の生き方を見て確信した。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)

食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、現職は食べるトレーニングキッズアカデミー協会の代表を勤める。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」《5/3(日)までの早期特典あり!》


2020-05-04 | Posted in 記事, 週刊READING LIFE vol.78

関連記事