勝率を引き寄せる、超じゃんけん術《週刊READING LIFE Vol.78「運」は自分で掴め》
記事:吉田健介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
じゃんけん。
その歴史は意外と浅い。
唐の時代に、原型となる拳遊びが日本に伝わり、様々な形を辿りながら人々に受け継がれてきた。
今のタイプになったのは昭和初期だと言われている。当時の子供たちによって今の形となり、世代へと受け継がれて現代に至る。
じゃんけん。
グー、チョキ、パーの3つを使って勝負をする。
公平で公正で、フェアで、白黒はっきりつきやすいゲーム。
勝っても負けても文句の言い合いはなし。だって、手の出し方は3通りだから。
1/3。33%。
相手がグーを出すか、チョキを出すか、パーを出すか。
それは本人にしか分からない。いや、本人にも分かっていないかもしれない。
「じゃーけーん、ほい!」
直前まで頭を空っぽにし、寸前の寸前で本能に任せてじゃんけんを繰り出す。もはや運。運命。巡り合わせ。
運。
そう運。
運?
運なのか?
じゃんけんは運なのか?
「何を言っているのだい? 手の出し方は1/3の確率。どちらが出るかは、もはや運でしょ」
果たしてそうだろうか……
もしじゃんけんが運というのであれば、その運、操作できたら面白くないだろうか。次に何を出すか、相手を操ることができたら、予測することができたら、それは卑怯だろうか。詐欺だろうか。インチキで罪なことだろうか。否。
人間のすること。そこにははっきりとした癖があり、明確な心理が働く。そこに確率が掛け合わさり、自分に勝利を引き寄せる戦術となる。
「最初はグー」
この一言にみんなは騙されていないだろうか。
「騙される?」
そう、騙される。騙されているのだ。まんまと。
「最初はグー」から始めた時点で、すっかり術中にハマっているのだ。
次に出す手を読まれているのだ。
「え、そんなこと可能なの?」
可能だ。
そう、じゃんけんは運ではないのだ。じゃんけんは心理と確率が組み合わされた明確ではっきりとした勝負。運という未来からやってくるものに身を任せるものではない。運という別世界から降ってくるものでもない。じゃんけんは、実力が存在する正真正銘の戦いなのだ。
グー、チョキ、パー、この3種類のうち、最も多く出やすいものは何だろうか?
「え、3つの回数に差があるの?」
ええ、実は差があるのだ。3つとも同じ確率で登場するわけではない。確かに、理論上は33%。だがもう一度言う。人の成すこと。そこには癖や心理状態が加わる。均等に振り分けられたはずの33%が、33%でなくなってしまうのだ。分配された数字が偏っていくのだ。
桜美林大学の芳沢教授によると、最も出やすい手はグーであるという。
その理由は諸説あるが、1つに人間の手の構造にある。
グーは最も出しやすい形なのだ。つまり出る確率が最も高いパターンと言えるのだ。
また、緊張したり、意気込んだり、高揚したりすると、その思いは手に宿る。グーという形に。
心理学的に、感情的になったり、考えることを避けたい時に、人はグーを出しやすいのだ。
そう考えると「最初はグー」の導入は、ウォーミングアップの肩慣らしなのかもしれない。互いの緊張をほぐすためのアイスブレイク。軽いジョギングのような動作。
つまり、ここから戦術が生まれてくる。いきなり「じゃんけん、ほい!」と始めると、相手はグーを出しやすいということ。
ここでポイントなのが、いきなり始めること。
「うわずるい!」
「卑怯者ー!」
そう非難されても困るので、じゃんけんの心づもりだけさせてあげよう。せめてもの慈悲だ。そして「じゃんけん、ほい!」をなるべく早く、迅速に言うのだ。ゆっくり言って相手に考える余裕を与えてはならない。隙を与えはならない。
それもこれも、自分に勝負を引き寄せるため。
なんたって、じゃんけんは運ではないのだから。戦いなのだから。
芳沢教授によると、人間は同じ手を次に出す可能性は25%以下だと言う。
これは興味深い。
つまり、グーを出してから次にグーを出す可能性は33%ではない、ということ。
つまりのつまり、次に相手が出す手は自ずと絞られてくるということ。そう、チョキかパーだ。
では自分は何を出せばよいのか、作戦が見えてくるはずだ。
あえて言うまでもない。チョキだ。チョキが一番勝率が良い。最悪でも引き分けにしかならない。少なくとも負けはない。
同じことが他のパターンでも言える。
「待って待って。それを瞬時に連続で判断できないよ」
そう、ぶっつけ本番で相手の手を読み続けることは至難の技だ。
では簡単にまとめよう。
自分が出した手の「負けパターン」を次に出せばよい。
自分がグーを出したら、次はチョキ、という具合に。
そうすれば、全パターンを網羅できる。理解していただけただろうか。
しかし、多少じゃんけんに心得がある方ならすでにお気づきかもしれない。
「負けパターン」を出す方法は、メジャーな必勝法だよ、と。
そう、この方法はすでに多くの方に知られている戦略なのだ。
さて、ではどうするか。
それは人間の手の構造に注目すること。そこで次の戦略が見えてくる。
興味深い報告がある。桜美林大学の芳沢教授によると、グーとチョキ、チョキとパーを素早く繰り出すことは難しいというのだ。
つまり、グーの次はパーが出やすく、チョキの次はグーが出やすいということだ。
「最初はグー」で誘導。相手はパーを出す可能性が高くなる。
またはチョキを出してきた場合、次はグーが出やすいとう結論が導かれる。
そこまで頭に入れておけば、勝利の女神をほとんどこちらに引き寄せたも同然。
では、あとは実践あるのみだ。何事も訓練は必要。誰かを捕まえてじゃんけんをしてみよう。
方程式の練習問題を解くように、演習は必須。成功と失敗を重ねて、腕を上げよう。戦いの先には、じゃんけんで恐ろしい勝率を叩き出す達人の域が待っている。
ここでもう1ポイント。
じゃんけん、ほい! と言う瞬間、人の手はグーで準備をしているはずだ。
最初からチョキのフォームでじゃんけんをスタンバイする人はあまり見たことがない。
つまり最後のスパイス。
観察だ。ギリギリのギッリギリまで目を光らせ、集中力を尖らせ、視野を広げ、相手の手の動きを観察するのだ。もし、出す寸前に手が開こうとしたら、それはチョキかパーを出そうとしているサイン。何も動きがなければ、グーの可能性大。
じゃんけんは運ではない。限りなく勝率を自分に引き寄せることのできるゲーム。そこにはきちんと「上級者」という称号が存在する。
日本じゃんけん協会。
ホームページにはじゃんけんの必勝法10カ条が載せられている。
そこには、今述べたことも載っており、更に奥深いテクニックが惜しげもなく公開されている。
グー、チョキ、パー、それぞれの確率は33%ではない。
時間と空間を操作し、相手の手を読んでいこう。自在にじゃんけんを操り、勝利を我がものとするのだ。
最強の遊びであり、人生そのものだと日本じゃんけん協会は語っている。
ただ、決して勝率100%ではない。「運」という言葉も残している。
完璧ではないのだ。だからこそ面白いのかもしれない。
その余白があるからこそ、楽しく未だに私たちの生活に溶け込んでいるのかもしれない。
さあみんな、じゃんけんしようぜ!
□ライターズプロフィール
吉田健介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
現役の中学校教師。1981 .7.22 生まれ。
関西大学卒業、京都造形芸術大学(通信)卒業、佛教大学(通信)卒業。『オトナのための中学校数学』執筆中
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