プロフェッショナル・ゼミ

「お母さん」が息子にとっての1位から陥落する日《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:中村 美香(プロフェッショナル・ゼミ)

「世界中でいちばんかわいい女の子は、メイちゃん!」
7歳の息子のコウが、そう言ったのは、昨日のことだった。

メイちゃんとは、人見知りのコウにも、気さくに話しかけてくれる数少ない同級生のひとりで、コウと同じクラスの女の子だ。メイちゃんの家とは少し離れているけれど、うちの近所の同じ年の葵ちゃんと、幼稚園の時から仲が良かったから、小学校入学の時から、コウとメイちゃんと葵ちゃんの3人で、一緒に登下校している。違う幼稚園出身のコウが、後から仲間に入れてもらった形だ。登校の様子を見ていると、メイちゃんと葵ちゃんが並んで歩き、その後ろをコウがついて行く感じだった。

コウが、メイちゃんのことを好きなんじゃないか? というのは、だいぶ前から薄々気づいてはいた。だけど、それが、お友だちとしてなのか? 女の子と意識して好きなのかはよくわからなかった。それは多分、私だけじゃなく、コウ自身もわかっていなかったと思う。

「クラスの女子たちは、よく、誰が誰を好きなんだという話をしているんだよ!」
と、小学2年生になってしばらく経った頃、教えてくれたのは、葵ちゃんのママだった。
コウも、時々、メイちゃんと葵ちゃんと遊ぶこともあったけれど、そんな話は全く聞いたことがなかった。どうやら、メイちゃんと葵ちゃんを含めた女の子だけで遊ぶ時に、好きな男の子の話になるらしく、葵ちゃんのママは、
「私も一緒にその輪に入って、女子トークをすることもあるんだよ」
と言っていた。それは、女の子のママの特権だ! さすがに、私は、コウの前で、メイちゃんと葵ちゃんに、好きな男の子の名前を聞き出す勇気はない。

「葵ちゃんには、誰か好きな子いるの?」
気になって聞いてみたら
「うん。それがさ、両想いみたいなの! 相手は健ちゃん!」
両思いだなんてすごいことを、小学2年生で、すでに味わっているなんて、羨ましすぎる! 私なんて、20代後半になってようやく両想いになったのに! 
「え? どうやって、わかったの? 告白したとか?」
「『好きな子いるの? 誰?』と聞き合って、お互いの名前を言ったみたいよ!」
「キャー! 素敵!」
なんだか、ドキドキした。
「メイちゃんは、誰か好き子いるのかな?」
やはり、気になって聞いてみた。
「その時は、『いない』って言ってたよ」
そう言われて、少しホッとした自分に気づいた。
それから、その時に、会話に出てきた男の子の名前を聞いてみたら、残念ながら、コウの名前は出てこなかった。
「コウは蚊帳の外だね。同級生の女の子に、コウはどう思われているんだろう?」
つぶやくように言うと、葵ちゃんのママが
「いつかの女子トークの中で、『この男子はどんな子?』みたいな話をした時には、コウくんは『真面目』って言われてたよ」
と教えてくれた。
「そっか……真面目か……確かに……。それに、よく泣くもんな」
コウが蚊帳の外で、ちょっとガッカリしたような、ホッとしたような気持ちになり、私は苦笑いした。
もう少しの間、
「お母さんがいちばん好き」
と、言ってくれていてもいいかな? と思いながら、月日は流れた。

あの女子トークの話を聞いてから数ヶ月経った昨日、
「今日、学校で、健ちゃんが面白かったんだよ」
と、珍しくコウの口から、健ちゃんの名前が出た。葵ちゃんと両想いの健ちゃんのことを、実は、コウは少し苦手だった。健ちゃんは、悪気なくストレートにものを言ってしまうタイプ。だから、そっとしておいてほしい気持ちの強いコウは、圧倒されて煩わしいと思うことが多かったらしい。
「健ちゃんのこと大丈夫になったの?」
「うん、だいぶね」
「葵ちゃんと健ちゃんって仲いいんだって? お互いに好きみたいだね」
「うん。そうだよ。いつも一緒にいるよ」
そっか、わかってるんだ。そう思って、流れで、あの質問をした。本当に気軽に聞いただけだった。
「コウは、好きな子いるの?」
すると……
「うん。メイちゃん」
そう言った。やっぱり、そうか! そうだったか!
「ふーん。そうなんだね」
そう言って、終わるはずだった。

だけど、コウが思いがけず、話を展開させてきた。
「どれくらい好きだと思う?」
「どれくらいって……例えば、何メートルとか長さ的な?」
コウの言う“どのくらい”の意味がよくわからなくて聞き返すと
「そうじゃなくて!」
とイライラし始めた。
「単位がわからないよ!」
こっちも少しイライラして答えると
「メイちゃんがいないと生きていけないくらい好き!」
と言った。
なんじゃそりゃー! その単位は! ある意味、最上級の好きじゃないか!
正直驚いた。
「えー! それって、すごい好きじゃん!」
「そうだよ。すごい好きなんだよ」
「へー」
不覚にも、胸がチクっとした。そして、それは、心のどこかで
「お母さんがいちばん好き」
とコウが言ってくれると思っていたからだと、気づいた。
よせばいいのに、気づいたら、こんなことも聞いていた。
「お母さんが、いなくても生きていける?」
いやー、馬鹿な質問だ。
「お母さんがいなくても困るよ」
よしよし! そうだろう! 少しホッとした。そして、本当に、また、よせばいいのに聞いてしまった。
「お母さんと、メイちゃん、どっちかしかいられないとしたら、どっち?」
本当に、馬鹿だ! 何を、ムキになって聞いてしまったんだろう?
そして、コウの答えは即答だった。
「メイちゃん」
ひぇー、まさかの裏切り発言! ショックだった! ショックを受けている自分にもまたショックを受けていた。
「そっか! お母さん、ちょっと寂しいな」
正直にそう言えただけよかった。だけど、コウは
「しょうがないよ。だって、メイちゃんがいちばん好きなんだもん」
と、とどめを刺してきた。

傷ついたまま、洗濯物を取り込んだ。コウは、何事もなかったかのように、Youtubeを見ていた。

洗濯物を取り込み終わって、それを畳みながら、こんなことを聞いてみた。
「メイちゃんのどんなところが好きなの?」
すると、コウは、Youtubeを一旦止めて、
「僕のことをほめてくれるところ! それから、話しやすいところ! それからね……」
少し間をあけて
「もてあそばれてると感じるところ」
と言った。
えー! コウは、Мか!?
「もてあそばれてるのがいいの?」
「うん。そうだよ」
嬉しそうに言うコウ。
「だけど、キツイところもあるよね? それはいいの?」
嫉妬なのか、よくわからないけれど、悪口にも似た質問をしてしまった。
「そんなところないよ。優しいんだよ!」
庇うように言うコウ。
「ふーん」
いやー面白くないもんだ。
そして、極めつけに
「世界中でいちばんかわいい女の子は、メイちゃん」
コウは、そう言い切った。

昼間の会話はそれで終わった。もうそれでいいのに、また寝る直前になって
「世界中でいちばんかわいい女の子は、メイちゃん。メイちゃんがいないと、僕は生きて行けないんだ」
と言いやがった。
うるせぇ! 早く寝ちまえ! そう思いながら、愚かにも最終確認をしてしまった。
「コウの好きな人ランキングさ、ずっと、お母さんが1位だったじゃん? それは、変わらないの?」
「変わったよ! 1位はメイちゃん、2位がお母さん、3位が練馬のおばあちゃん、4位がお父さん、5位は川崎のおじちゃん、6位が川崎のおばあちゃん」
ランキングがひとつずつ下がって、血のつながらないメイちゃんが1位に飛び込んでいた。そして、キラキラ輝いていた。
「へー、そうなんだ! お母さんちょっとショックだな」
ランキングが入れ替わらないか、ちょっと拗ねてみたけれど、変わることはなかった。
くそー、もうさっさと寝ちまえ!
「もう遅いから寝よう!」
普通に言ったはずなのに、耳に聞こえてきた私の声は、少し尖っていた。
「お母さん、ギュウしよう!」
コウが、2位の私にハグを求めてきた。
そんなの1位とすればいい! そう一瞬思って、自分の苛立ちに戸惑った。メイちゃんに嫉妬しているのか? そんな馬鹿な! 打ち消すように、ハグをして
「もう寝るよ。おやすみ」
といつもするように、コウの背中を摩った。
背中なんか摩らなくても眠れるようになってから、他の女を1位にしろ!
そう思った自分が滑稽に思えた。

コウが寝たのを確認して、リビングに移動した。なんとも言えない寂しさとやるせなさに包まれて、冷蔵庫から出した麦茶を一気に飲み干した。

異性の子どもとの関係は、疑似恋愛のようだと、何かで聞いたことがある。私の場合も、それに似た感情なのだろうか? ということは、ある意味、失恋なのだろうか?

考えてみれば、私は、今まで失恋はしても、そもそも好きになってもらっていないか、あるいは、付き合ってもいないのに、自分が片思いの相手に勝手に魅力を感じなくなったというような失恋だった。
両想いの後に、その人のいちばんじゃなくなることは初めてだった。
そういった意味で言うと、初めて本当に失恋したのかもしれない……。
いや、別に、嫌いになられたわけじゃないから、失恋ではないのかな? 
だけど、もし、これが本当に付き合っている人が相手だったとしたら
「嫌いになったワケではないけれど、他に好きな人ができた」
と言われたら立派な失恋だ! 

なんて、馬鹿みたいに考えて、悶々としていた。

ああ! これが本当の恋愛だったら、さっさと別れてしまうこともできるけれど、悲しいかな、息子だから、育てないといけないし、ギュウしようと言われるし、時にはチュウもされる! そして、どれだけメイちゃんのことが好きなんだと聞かされるんだ! 全く厄介だ!

やりきれない気持ちと、そんなことで落ち込む自分が嫌でたまらなかった。

遅く帰ってきた旦那に
「コウの好きな人ランキングの1位から先ほど陥落しました!」
と報告した。
旦那が
「え? 1位は誰?」
と聞いてきたので、事の顛末を話したら、
「コウはメイちゃんがいないと生きて行けないくらい好きなんだってさ」
には驚いていたけれど、ニヤニヤ笑って
「まあ、またランキングは変化するさ」
と言った。そして
「俺はスライド式に4位に転落か」
と、また笑った。

3位が4位になるのは、1位が2位になるよりも、気楽なんだなと思った。

今までに見聞きした、友だちの話や、ドラマなどで、主人公たちが愛し合っているのに、障害として登場する、男性側の子離れできていない母親の姿が浮かんだ。
あれは、もっと大きな子どもの話だから、コウと私には当てはまらないと思ったけれど、もしかして、今の私の嫉妬の方が異常かな? と不安になった。

ドラマに登場する子離れできていない母親は、息子を自分に縛り付けようとしたり、泣き落そうとしたりする。息子は、一度は、母親の方に戻っても、ラストでは、主人公のヒロインのところに帰ってきてハッピーエンドになることが多いような気がする。 

13歳年下の彼と、彼が20歳の時にできちゃった結婚した私の友だちも、彼の母親に、
「あんたが、たぶらかしたんでしょ! 息子を返して!」
と、罵られたらしい。彼は、まだ大学生で、彼女と別れなければ、大学の費用をストップすると彼の両親に言われて、どうするのかな? と思ったら、彼は、彼女を選んで結婚した。驚いたことに、彼女の実家が、彼の大学費用を負担して、大学を卒業させようとバックアップしていた。

あれからどうしただろう? 元気にやっていればいいけれど……。

そう思って、ハッとした。

ハッピーエンドって何だろう?

彼が大学を卒業して、ちゃんと働いて、生まれてきた子どもの父親として、しっかりやっていくことだろうか? 

あの時の私は、彼女の友だちとして、彼の母親の振る舞いを聞き
「おお、こわ」
と思って流していたけれど、もし、私が彼の母親だったら、やっぱり同じことを言ってしまったかもしれない。兵糧攻めにして、帰ってくるかと思ったら、彼女の実家にバックアップされて大学に行かせてもらっている。そんなことになったら、きっと怒り狂う。一方で、こんな形でも、孫が生まれたと聞いたら、やはり見てみたい。抱っこしてみたい。もしかすると、そんな風に思ってしまうかもしれない。

子育てのゴールは、子どもの自立だ。
母として、子どもの自立を願い、願わくは、子どもが、好きになった人と愛し合い、家庭を持って、命をつないでいって欲しいと思う。

男というのは、母というエネルギーの源から、思春期に、恋人という新たなエネルギーの源にうまくバトンタッチできることが理想なんだと聞いたことがある。もしそうなら、そのためにも、私という母以上に好きになる人が、コウに取って必要なんだ! 

「お母さんがいちばん好き」と、子どもが言ってくれる時期は、実はそう長くない。
2位にいられる時期も、もしかすると、あっという間に過ぎ去って、表向きのランキングには全くかすりもしない、圏外になる日もそう遠くないかもしれない。

だけど、むしろ、それが健全だ。

胸がチクっとしたのは、きっと、それだけ、コウのことだけを見ていたからだ。

いちばんじゃなくなっても、まだまだ、弱い部分を見せてくれるのは私だけかもしれない。
メイちゃんには、かっこいいところみせたいものね。

メイちゃんがコウのこと、好きだったらいいね! 両想いだったらいいね!

お母さんは、コウがメイちゃんと仲良くなれても、もし、喧嘩しても、いつでもコウの味方だからさ! 

なぜか涙は出てきちゃうけれど、コウのこと大好きだからね。
たくさん、話をしようね!
たくさん、お出かけしようね!

そう、コウの寝顔に向かって、つぶやいた。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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