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プロフェッショナル・ゼミ

年増のリボンちゃん《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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  記事:小堺 ラム(ライティング・プロ)

「プロジェクトチームの東課長、いつもリボンがついた服ばかり着てるなあ」
「あ、俺もそう思ってた! さすがに年増のリボンは反則だろ」
「反則? いやいや、違反だろ。犯罪とまではいかんけど……さすがに40近いだろ、東課長。いつまで女アピールするつもりなのかな」
「知らないよ。誰も、あんなおばちゃん相手にしないよ。ブラウスにもリボン、髪留めにもリボン! あの様子じゃ、きっと下着もヒモで結ぶリボンタイプだぜ」
「ちょっと! やめてくれよぉ~、想像しちまったじゃないか。東課長のヒモパン……エグいなあ」
「でもさあ……意外とアリだったりしてな、緩んだ下腹とか何かリアルな感じでさあ」
「ちょ……やめろよお前!!」

俺が所属するプロジェクトチームが入る15階のフロアまで、エレベーターに乗ってるシステム課の後輩達がけっこうな声の大きさで話していた。
あいつら、このエレベーターに東課長が乗ってたらどうするつもりだったのか。
もとより、直属の部下である俺が乗ってることも気にしないで、あんな話して。
でも、無理もないかもしれない。
東課長は40歳近い年齢だった。
40歳は40歳でも、東課長が女優の中谷美紀とか、菅野美穂とかそんな感じの女だったら、さっきのあいつらもあんなこと言わなかったはずだ。
女の40歳って、何かの分かれ目な気がする。
これは男の勝手な想像だけど。
体型とかスタイルとか見た目のことでいうと、腰回りに変な妖怪が1匹憑りついているような人も多い。
かと思えば、毎朝朝食はスムージーでホットヨガに通っているんだろうなあというライフスタイルが伝わってきそうな人もいる。
更には、子供を育てながら、笑顔で仕事もして、「明日はパパの誕生日だからケーキ買わないといけないんで、お先に失礼するね! これ、頼んだよ」って鮮やかに年下の男の俺たちに甘えて、ライフワークのバランスを取りまくっている人もいる。
その一方で、東課長のように、職場から女性の管理職として期待され明らかに「ごく一般的な女」の人生として不利になる程に仕事の重圧をかけられている、そんな人生を強いられている人もいる。
女の人生って、何やら複雑だなあ……。
それでも俺の母の抑圧された人生より、幾らかマシなんだろうけど。

そう思いながら、席につこうとした。
「ちょっと、木村君、いいかな? 来週の取引先へのプレゼンの件なんだけど」
「あ、はい!」

ゲッ、東課長だ。
昨日提出してたプレゼンの資料、なんかまずかったのか?
あれ程確認したから、大丈夫だと思ったのに。
きっと、女のねちねちした感覚で重箱の隅をつつくような指摘をしてくるんじゃないか?
俺は、上司に仕事のことで呼ばれていささか怯んだ。
俺の仕事が至らなかったんじゃないかというまっとうな不安と、完璧にやったつもりだった仕事にケチがつくんじゃないかというちっぽけなプライドがガタガタと不安定な音をたてていた。
そして、俺は年増のリボンに仕事のことで呼びつけられたことに関して、根拠のないむかつきを覚えた。

「この辺の説明があいまいになっているんじゃない?」
東課長は案の定、俺が調査不足なため曖昧な表現で逃げていた説明のページを指摘してそう言った。
俺は、灰色になった心でぼんやりと立っていた。
俺のこれからにも関わる大切なプレゼンだから、全方位的にどこからもなんのケチもつかないようにした方がいい。
それはわかっている、頭では。
だけど、東課長に指摘されているこの状況に納得がいかなかった。
東課長は、紺色のワンピースを着ていた。
ワンピースのウエストの部分は、リボンをちょうど臍の位置で結ぶデザインになっていた。
ウエストをリボンできつく結ぶことで、腰のラインをさりげなく強調するデザインになっている。
大人びて上品なデザインだった。
百貨店のちょっと上のフロアに売っているブランドの服って感じ?
ミーハーな若い女が買い求める量産品ではなくて、シンプルで本質的な上にさりげなく流行を取り入れているような。
男の俺が見たってその品の良さはなんとなくわかる。
だけど、さっきのエレベーターで「年増のリボンの犯罪性について」の会話を聞いていたせいもあり、何のためにこの人は大きなリボンがついたデザインをいつも選ぶんだろうという憶測が飛んだ。
俺は、東課長の机の前に立って、課長の説明をうすぼんやりと聞いていた。
肩までのセミロングのストレートヘアーの東課長。
サイドの髪を後ろにもっていって、バレッタっていうの?
髪留めでとめていた。
髪留めのデザインは、白いリボンだった。
全く……またリボンかよ。
リボンリボンリボン……
一体、何をそんなにアピールしたいのか。
そして、誰にアピールしてるんだろう。
ハッキリ言って年増のリボンは、本当にきつい。
仮にそれが今年の流行だったとしても。
自分の年齢考えて流行を取り入れようよ。
じゃないと、流行のファッションも立派な公害になってしまうんだよ。

「ちょっと、木村君、聞いてるの?」
「あ、は、はい。」
俺は慌てて返事をした。
「とりあえず、この箇所は全然使えないからやりなおして」
東課長は冷たくそう言い放って、俺に資料を突き返した。
静かなフロア内に俺が「年増のリボン野郎」から極めて冷静に指摘されている声だけが響く。
俺は、にわかに自分の顔が熱くなっていくのを感じた。
くっそー、なんだっていうんだ。
お前のリボンを全て引き裂いてやろうか
皆の前で恥をかかせやがって!!!

あいつ、男を顎で使っていい気味だろうなあ。
だけど、どうせプライベートでは全く男が相手をしないだろう。
そうだ、あんな女誰も相手にしないに決まってる。
欲求不満で解消する術もないから、あんなに調子はずれなリボンをつけまくってるんだ。
私は女なのよ、誰か気づいて!!
そんな声に出せない気持ちをリボンで表しているんだろう。
あのリボンはあいつの心に潜んでいる欲求不満と焦燥感のサインに違いない。
だいたい、あいつのリボンを解こうという輩がどこにいるというんだ。
誰からも解かれた経験もないだろうから、解く男の立場も想像できないはずだ。
だから、あいつのリボンは誰にも解けないように意固地になって、固く固く、きつくきつく結ばれているに違いない!!

実際のところ、俺は、東課長の何を知っているという訳でもなかった。
40歳近いという年齢。
会社のイメージアップのための飾りみたいな女性管理職ではなく、誰もが口を出せない圧倒的な実力で今の役職についていること。
やたらとリボンがついている服やアクセサリーをいつも身に着けていること。
この3つだけしか俺は東課長のことを知らなかった。
殆ど何も知らない年上の女上司のことなんて、俺の人生にほとんど影響を与えないはずだ。
あくまでも仕事だけの関わりだから、言われたことをドライに仕事で打ち返せばいいだけだ。
それなのに、俺は年増のリボンに仕事で指摘されると、突然火が点いたような怒りがわくのだ。
俺の心の底に静かに沈んでいる積もった澱に、点火するようだった。

俺の父は、エリートサラリーマンだった。
聞けば誰もが知っているような世界的な一流ホテルで長く支配人をしていた。
父の実家自体は裕福でなかったらしく、猛勉強して有名な国立大学に入り、自力で語学も習得し、世界展開しているホテルグループに入社したらしい。
そんな父と従順で優しい母の一粒種である俺は、父からは厳しく接された思い出しかない。
物心ついた小学生のころから、父は勉強していい学校に入るように俺に言った。
小学生の俺は勉強よりも、外で友達とサッカーしたり、プラモデルを作ったりするほうが好きだった。
だから、誕生日はサッカーボールやプラモデルキットをねだった。
だけど、父から贈られるのは、百科事典や伝記などの本だった。
もちろん、父なりの愛情だったことは今では理解している。
だけど、サッカー好きの小学生が百科事典をもらっても、心の底から喜ぶことなんてできない。
プレゼントにはカードもついていて、角ばった父親の筆圧の強いボールペン字で「きちんと勉強するように」と一言だけ書いてあった。
俺は、父からのプレゼントには大した期待ができそうにないから、クリスマスのサンタクロースに期待することにした。
父から百科事典を貰ったのは確か小学校3年生。
俺が9歳の年のクリスマス。
俺はエヴァンゲリオンのプラモデルをサンタクロースに頼んだ。
母がいつもサンタクロースにつながるホットラインで俺の注文を伝えてくれるということを聞かされていた。
だから、いつものように、母に対してプラモデルをサンタクロースに頼んでほしいと伝えた。
サンタクロースの正体を暴こうと思って頑張って夜遅くまで起きていたつもりだったのに、いつのまにか寝てしまい迎えたクリスマスの朝。
俺は、目を覚ましてすぐに枕元の包を見た。
緑色の包装紙に、真っ赤なリボンがかけてある長方形の包だった。
やった!!
プラモデルの箱だ、エヴァンゲリオンだ!!!
俺は喜び勇んで包を手に取る。
ん??
プラモデルにしてはやけに重い。
わずかに感じた違和感は一瞬のうちに、今からキットを組み立てられるという興奮でかき消された。
目の前の包にかけられた、神聖なまでに赤いリボンを見つめる。
わーい! エヴァンゲリオン!!!
わくわくしながら、真っ赤なリボンに手をかけた。
スルッ……
スムーズに解かれたリボンの衣擦れの感覚。
リボンに手をかけた時の緊張感、そして、リボンが解かれた瞬間の弛緩。
あの感覚は大人になった今でも忘れない。
小学生の当時は、わくわくして緊張しながらリボンを解いたという思いしか表すことができなかった。
でも、今の俺ならあの瞬間をうまく説明できると思うのだ。
それは、ずっと秘められ隠されていた物が、今まさに解かれ、目の前に現れるためのセレモニーだったのではないかと思う。
ただ包装紙をびりびりと開けるのではなく、その前にかけられたリボンを解くという工程がある。
それは、自らが欲する物を今から開披させていただく、閉じていた隠されたものを今から、この手で開いていくという気持ちを昂ぶらせるものであったように思う。
そんな聖なる昂ぶりに小さな胸を躍らせた小学生の俺がリボンを解いた後、どうなったかのか?
リボンを解き、包装紙を破ると、出てきたのはプラモデルの箱じゃなかった。
「小学4年生の算数」という参考書と、計算ドリルが2冊、俺の目の前に現れた。
そしていつも見慣れた角ばった筆圧の強いボールペン字で「冬休みにがんばりなさい。サンタクロースより」と短く書かれたカードが入っていた。
小学校3年生のクリスマス、俺はサンタクロースがこの世にはいないことを知った。
そして、この日以来俺は父に対して強い反抗心を抱くようになった。

俺の父に対する反抗的な思いは、勉強を殆どやらないということで現れた。
小学校の時はまだよかった。
勉強しなくても、学校には毎日通うだけで乗り切っていけたからだ。
しかし、成績が重視される中学生となり、勉強した方がいいことはわかっているものの、意固地になって勉強しなかった。
当然成績は良くなかった。
あの日エヴァンゲリオンのプラモデルじゃなくて参考書を贈ってきた父に対する反抗心だけで生きているようなものだった。
低空飛行を続ける俺の成績を見て、父の俺に対する縛り付けが余計に強くなった。
父の俺に対する憤りに反比例して俺の成績は下がり続ける。
優しい母は胸を痛めていた。
だけど、精神的に荒れ気味だった俺には何も言わなかった。
「お父さんの言うとおりにしなさい」ということ以外は。
母はいつだって父のいいなりだった。
俺はそんな母が不憫に思えた。
いつも目立たないように地味な服を着て、父の世話をかいがいしくしている。
若くはないし結婚しているとはいえ、母も女だから、もっとお洒落したいはずだ。
だけど、父を大隊長とする軍隊のような俺の家ではそれが許されないような雰囲気が前提にあった。
父の言うとおりに従う、そんな空気が充満していた。
母はこんな人生で満足なんだろうか……母を見ながら、俺は、大人になったらあんな男には絶対にならないと思った。
そして、一刻も早く父を越えたい、そう思っていた。
だから、父を越えるようなステイタスの仕事について父を見返すことが俺の目標だった。

しかし人生とはそんなに甘くないもので、勉強をしてこなかった俺はろくな大学に入れなかった。
名前だけの三流大学にしか合格しなかった時の父の蔑むような視線を受けた時には、既に慣れっこになりすぎていて俺の感情は微動だにしなかった。
大学はダメでも、実力で世に出ればいい。
これからは行動できるやつが強いはずだ。
大学時代の俺は、あの忌まわしい実家を出てアルバイトに精を出し、自活した。
そして、世界中をバックパックを担ぎ、バイクで遊学したりした。
父と違うやり方で父を越えたい、俺は広い世界を自由に見たい、漠然とそう思っていた。
卒業後は起業する道も考えた。
だけど、その前に大きな企業で働いてノウハウを身に着けたいと何となく考えていた。
だから、その他大勢の大学生と同じように就職戦線に加わった。
俺の就職活動は難航した。
今考えると三流大学だったから当然の成り行きだろう。
秋を過ぎて何とか内定をもらった今の会社は、就職時はそんなに活躍していない企業だった。
就職が決まった時、祝ってくれたのは母だけだった。
リボンも何もついていない、飾り気のない包に包まれた本革の名刺入れを母は俺にプレゼントしてくれた。
俺は、母からもらった名刺入れをいつも持ち歩いた。
そして、今度こそ絶対に父を越えてやる、いつか母に旅行でも、服でもプレゼントをして母には女としての人生を堂々と楽しんでほしい、母を助け出したい、そう誓った。

最後のチャンスと思い、仕事は死ぬ気で取り組んだ。
俺は勉強もせず大学も三流で就職活動もそれなりの結果だった。
だからこの組織で考えられる限り最高の結果を出さないとこのままズルズルといってしまうと思った。
後がなかったから、頑張れた。
しんどいこともたくさんあったが、その度に父の顔がちらついて必然的にファイトがわいた。
上司からの評判も、同期の中で一番良かったと思う。
だから、自由な雰囲気で仕事ができるプロジェクトチームに入社5年目で迎えられることになった。
このプロジェクトチームで仕事ぶりが評価されれば、出世コースに乗れるのが定番の流れだった。
全霊でやってやる。
このように意気込みまくっている俺が配属されたチームの上司、それが東課長だった。
俺は拍子抜けした。
お、女?
確かに評判はいいと聞いているけど、女に何ができるの?
そんな思いが頭いっぱいに広がった。
俺のよく知っている女は、二種類しか存在しなかった。
ひとつは合コンであっけらかんと下ネタにも応じ、誘えばほいほいとホテルについてくるような人種だ。
それと、いつも従順に男や世間に従い自分の思考は何も発動できないかわいそうな女だった。
いずれにせよ、女に重大な決断は下せまい。
いくら、目の前の東課長が圧倒的な実績を誇っていて、社会的に認められていたとしても俺の本能がそれを受け入れられなかった。
女に何ができるのか。
そんな思いしか浮かんでこなかった。
だけど、日々仕事をする中で、東課長の指示は的確だった。
しぶしぶ東課長の指示通りに手直しをした仕事は、社内で評判となった。
俺の手柄だと東課長は、朝礼でみんなに披露した。
だけど、それがまたムカついた。
クールに仕事もできて、人格も非の打ちどころがなさそうだ。
俺は、父親はおろか、東課長を越えられるのだろうか。
女に負けてどうするんだ、俺。
そんなことを考えていると、東課長に仕事では頭が上がらないので、無意識のうちにあら捜しをしていた。
「年増のリボン」そんなニックネームも、課長を越えられない悔しさから、若手の飲み会でうっかり口を滑らせて命名し、俺が名付け親なのだった。

プロジェクトも佳境に入ったある日、俺はプレゼンの内容をひたすら手直ししていた。
何度課長に提出してもOKがもらえなかった。
仕事人としての悔しさと焦りを感じる。
同時に、俺が何で年増のリボンにそんなことを言われないといけないのか!! という憤りも抱えていた。
他のチームメイトも手伝ってくれたが、終電間際になっても終わりそうになかったので帰ってもらった。
俺は東課長と二人で残って膨大な資料の修正をかけていた。
ふと資料から目を上げて、課長を見ると黙々と手を動かしている。
何の迷いもないように資料を書き換えているだろうけど、わずかな中に様々な決断を下しているはずだ。
単なる資料作りといえども、表現の一つ一つが相手への印象を変えることになり非常に神経を使う。
難しい仕事だということは十分にわかっている。
そして、その仕事を東課長は俺の何倍、いや何十倍にも有能にこなすことができる。
完全に俺の負けだ。
だから文句言わずに俺も課長に従っているんだけど、やっぱり心は抗ってしまう。
すごい勢いで仕事をしている東課長の今日の髪留めは紺色のリボンのバレッタだった。
ジャケットの下に来ているワンピースには、やっぱりリボンがついていた。
どんなに仕事ができても、やっぱり年増のリボンはきついよなあ。
女は別にそんなに頑張らなくてもいいんじゃないか?
だいたい、どの男がどんな顔であのリボンを解くんだよ
そう考えていると、東課長が近づいてきた。
課長が着ているワンピースについたリボンが俺の目の前に迫ってきた。
「木村君、この辺でいったん小休止にしようか?」

声の方向を見上げると、東課長の笑顔がそこにあった。
よくわからないけど、なんだかほっとした。
張り詰めていた仕事の緊張が、いっきに溶けていく。
あ、俺、今リラックスしてる、癒されてるわ。
そう感じながら東課長の笑顔をぼんやり見つめる。
視界に入る顎のたるみが課長の年輪を見事に語っていた。
なんかいい匂いがするなあ~。
いつもデスク越しで指導を受けていたので、こんなに課長と近く話をすることもなかった。
若い女がつけている、ドンキホーテで売っているような安臭い香水の匂いなんかじゃない。
何だろうか……
そう、例えるなら甘酒の麹のにおいだ。
課長のどこからか立ち昇る、発酵したような匂いを、俺はこっそりと十分に嗅いだ。
とたんに実家にいる母のことを思いだした。
この仕事を成功させて、俺は父を越えたい。
そして、母にこれまでの人生を取り戻すように楽しんでほしい。
そう誓って、一生懸命仕事をしてきた。
目の前にいる、東課長の年増のリボン。
白いワンピースの下腹部についている大きなリボン。
俺が小学生の時のクリスマスのあの日、リボンをシュッと解いたように、今晩、俺が東課長の年増のリボンを解くのだ。
リボンの下には、何があるんだろう。
下腹部に結わえられた年増のリボンをぼんやりと眺めた。
このリボンを解いて、この下に隠されている何かを俺が味わえば、俺は何かを越えられるのだろうか?
俺は父を越えたかった。
父を越えて、自由に生きたかった。
年増のリボンは、俺を誘っているのか?
きっとそうに違いない。
年増のリボンをしゅるっと解いて、俺が課長を征するのだ。
そうすれば、俺は父を越えられる。
開けていた窓から不意に風が入り、デスクに乗せていた資料がハラハラと床に落ちる。
「木村くん?」
眼を見開いている東課長の表情が、俺の母の顔とタブる。
俺はゆっくりと右手を伸ばした。
年増のリボンを解くために。
課長を征するために。
そして、父を越えるために。
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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