好きだよ、ツイッター《プロフェッショナル・ゼミ》
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記事: 村井 武 (プロフェッショナル・ゼミ)
2011年3月11日に発生した東日本大震災。
東京に暮らし、仙台に実家を持つ私にとって、仙台あるいは東北地方の情報を得るために一番有効なツールはツイッターだった。
地震発生後、15分ほど経って流れてきたツイートを見て、破壊された仙台駅の様子がわかった。実家と連絡はつかない。すぐに復旧に少なくとも数週間はかかる。新幹線で仙台入りするのは無理だと悟った。タクシーは揺れがおさまるまで震源地近くまでは行ってくれないのではないか。東北自動車道の様子も不明。地震の規模からすると緊急車両が優先されるだろう。ならば空路か。東京・仙台間に空の直行便はないから、一旦千歳に飛んでそこから仙台に戻るか。みんな同じことを考えるだろうな。チケット争奪戦になるのか。こんな非常時なら羽田から臨時便が飛ぶかもしれない。そんなことを考えているうちに「仙台空港に津波到達」という信じがたい情報がやはりツイッター経由で入ってきた。
職場のテレビで見たNHK仙台局が送り出す仙台市街の映像は、思ったより静かで、恐れていた火災の様子もない。
「これは、初めに思ったより、大したことはなさそうだ」と考えていたところにツイッターで流れてきた「仙台空港に津波」の報。震災の被害の多くが津波によるものとなることを知った最初のニュースだった。
実家の無事はメールを通じて確認できたが、その後の情報収集はツイッターが主となった。
実家近くの情報を発信している人のツイートを見ながら、頭の中の仙台市街の地図に「ここは安全」「ここは電気が止まっている」と情報をプロットしていくことで、相当程度の情報を得ることができた。実家近くからツイートしていると思われる方には、ツイッター上で直接呼びかけることができるメンション機能を使って様子を聞くこともできた。
仙台に住むロックとプロレス好きな、面識もない男子大学生が、ツイッターを通じて仙台の情報を求める人たちの安否確認を買って出ていた。
阪神淡路大震災の際にもパソコン通信であるニフティに設けられた震災関連のフォーラムが、被災地以外からの安否確認要請と現地の人-とりあえず動けて現地の安否確認作業が可能な人-とをつなぐ役割を果たしていたが、インターネット普及前のことでもあり、ニフティ会員以外の人がこのネットワークに参加することはできなかった。
それがツイッターであれば、より多くの人が人探しを依頼し、安否確認に参加できる。件の大学生も日に数人の安否確認依頼を受け、自転車で仙台の街を走り回っては、自分の目で確認した情報をツイートで流し続けていた。
邪魔になるかと思いつつ、彼にそっと「頭が下がります」とメンションを飛ばすと「お互い様ですから」と返答があった。かっこよすぎるよ。泣けた。
震災後一週間ほど経った頃か、彼の働きは現地入りしたアメリカのテレビネットワークabcのクルーの目に留まり、取材を受けていた。「アメリカの放送局から取材を受けた。何を言ってるのかよくわかんないけど」というツイート。urlの先には彼がロック少年として震災前にライブハウスで歌う姿と寒風の中をチャリに乗って仙台の街を駆け回る姿とが映し出されていた。初めて見た彼の顔と姿。余計なお世話かと思いつつabcのレポーターの語りの概要を訳して送った。君がロックを歌っている姿も全米に流れたんだね。「お腹が空いている」という大学生に、持ち合わせの食料を分け与えるabcのスタッフ。ホットドックか何かだった。水もなしにかぶりつく彼の姿をiPadで見ながら、テクノロジーが人と人をつなぐ凄さに、不謹慎だったかもしれないけれども、感動していた。今も彼のことはフォローし続けている。一応の日常に戻った今、彼の音楽活動やその後にほとんど関心はないし、それにどれだけの意味があるのかわからないけれども、あの時のつながりを維持したくて。
流言飛語の類もあった。私自身が騙され、ついリツイートして、わずかなフォロワーに広めてしまったデマは「仙台の大学に留学している外国人学生が避難所となった学生会館に搬入された食料を自分たちのものだと誤解して、全部持って行ってしまった」という趣旨のもの。結果的に根拠のないデマだったのだが読んだ瞬間、かっとなってリツイートしていた。
私自身、その数年前まで仙台の大学院で社会人学生をやっていた。同じ研究室に留学生もいた。冷静になれば彼ら、彼女らがそんな無思慮なことをするはずはない、とわかるはずなのだけれど。このデマは後に震災時の有名で悪質な流言飛語のひとつとして、書籍にもとりあげられた。私のリツイートに対しては、ごく冷静にそれを諫めてくれた、やはり見ず知らずの人がいて、すぐにそれを取り消したけれども。
同じSNSでありながらFacebookと比較すると匿名性が高く、第二のにちゃんねるとも揶揄されるツイッター。だからこそ、信頼できる情報をより分ける選球眼が必要になるツール。
あれ以来、地震が起きるとまず、ツイッターを起動して情報を得るのがクセになってしまった。ひとりでいるときにやってくる軽い揺れだと、地震なのか軽いめまいなのかわからないことがある。ツイッターで他の人たちが「揺れた」「ゆれ」「ゆ」と言っているのを見て、あぁ、やっぱり地震だったんだ、と思うことも度々。
そんな行動に出る人を見て「地震はツイッターに集合の合図ではありません」などというツイートも現れるけれど、私の場合、当分この行動パタンはおさまらないだろう。
安否確認だけであれば、既読、未読があきらかになるLINEに軍配が上がるかもしれない。しかし、外に開かれている度合いでツイッターには固有の存在感がある。
かくして、ツイッターは私の生活に不可欠の情報インフラとなった。
さらにツイッターをおもしろツールにしてくれる機能がハッシュタグだ。
#天狼院書店 のように言葉の前に#を付けることで、このタグのついたツイートだけを集めて見ることができる。
なでしこジャパンが初優勝したときの優勝決定戦。私は風邪をひいてテレビのない部屋のベッドにひとりで寝ていたのだが、#なでしこ のハッシュタグのついたツイートを眺めているだけで、試合の一進一退が手に取るようにわかった。ものすごい勢いで流れていくタイムラインの文字列を眺めていると、選手ひとりひとりの動きが浮かんでくる。テレビ、要らないよね、と思った。勝利の瞬間のタイムラインの激流のような速さが忘れられない。
スポーツ中継のみならず、テレビドラマを見ず知らずの人たちと一緒にみるためのツールにもなる。
広く知られたところでは2013年の朝ドラ「あまちゃん」 ツイッター上の「#あまちゃん」を通じてリアルな知り合いになったという人たちも少なくない。朝ドラでは必ず専用のハッシュタグが作られ、ドラマ好きの、漫画家さんたちが名場面を描いてタイムライン上に流すことも当たり前になった。
テレビドラマの登場人物がツイッターを使うシーンも増えた。実際に、おそらく番組制作側が作ると思われる登場人物のアカウントが出現することも少なくない。密やかに、ドラマの進行どおりのつぶやきをするのだ。それを見つけた人たちがハッシュタグを付けて広めることで、虚実の狭間があいまいになる。これ、本物? ドラマの登場人物がツイートを消すと、実際にそのアカウントのツイートも消えたりして。
テレビでアニメ映画「天空の城 ラピュタ」が放映される日は、ツイッター民大騒ぎの「バルス」の日となる。劇中のクライマックス、主人公の少年の発するキーワード「バルス」の瞬間を待ち構える。どうやって計算するのか「バルス予測時刻」が流され、その瞬間、ツイッター上が「バルス!」で埋め尽くされる。真偽のほどは定かでないが、ツイッター社はこの瞬間をサーバーの負荷試験として用いているとか。あってもおかしくない話だ。
11月3日は、映画シン・ゴジラの脚本上、ゴジラが蒲田に上陸した日だという。この夏、爆発的にヒットしたシン・ゴジラ。報じられている興行成績からすると、おそらくこれまで怪獣モノや従来のゴジラには興味のなかった人々にも訴求し多くの人々がこの映画を見て、夢中になったことだろう。
実際の11月3日にはツイッター上に「シン・ゴジラリアルタイム実況」なるアカウントが登場した。このアカウントは、映画の時系列と同時進行で、シン・ゴジラにまつわるイベントをツイートする。誰がやっているのか、どれだけこの映画が好きなんだよ、と驚くが、ゴジラの足取りはもちろん、自衛隊の活動や日本政府の動向、世界各国の対応、ファンの間で有名になった名台詞に至るまで、事細かにリアルタイムでツイートし、2016年11月12日現在で8万4千人のフォロワーを擁する自称「非公式」アカウント。これまでに353のツイートを律儀に時系列で発信している。
驚くのは、このアカウントを中心にして、#シンゴジ実況 などのハッシュタグを使い、自分の身の回りの実際のできごとを「シン・ゴジラが出現し、関東を荒していたら」を前提にしてつぶやく人がやたらと多かったこと。
「うちからはまだゴジラの影が見えない #シンゴジ実況」
「京浜東北が止まったので○○駅で足止め。タクシー使うか #シンゴジ実況」
「京急だけ運転再開しないの、なんなの? #シンゴジ実況」
「多摩川沿いのマンションです。河原に戦車が集まっているのが見えます #シンゴジ実況」
「東京の皆さん、頑張ってください #シンゴジ実況」
スポーツ中継やドラマの共同視聴ですらない。ここでは、この夏、映画を見た人たちが、「リアルタイム実況」(非公式だ!) が打ち出す時系列のツイートを手掛かりとしてシン・ゴジラを自分たちの脳内で再生しながら、これを現実世界に投射して楽しんでいる。
誰が仕掛けた訳でもない、ある種壮大なゲームだ。リアルとバーチャルを融合させるゲームはPokemon Goを始めとして少なくないが、このシン・ゴジラごっこには、「運営側」がいない。
非公式の「リアルタイム実況」に刺激されて、映画を見た人たちが勝手にシン・ゴジラごっこを始めたのだから。シン・ゴジラが上陸したとされる東京の人たちは特に地元として実況を面白がることができる。私の自宅は大田区の、ゴジラが上陸したとされる蒲田とその後暴れまくった北品川との中間地点にあるので「大田区○○は無事です。蒲田と五反田を結ぶ池上線も無事のようです」みたいな、エキストラ的発言をしてまったく独りよがりに面白がることもできる。実際、私のような泡沫アカウントのつぶやきは映画のエキストラみたいなものだ。さらに、フィクションの中の未曽有の国難を共有することで、日本中どこにいても、映画を見ていれば「ごっこ」に参加できる。
なんなのだ、この妄想共有感は。
おそらく、既にさんざん指摘されてきたように1ツイートあたり140文字の制限が、ユーザーによるメッセージのカジュアルな作成-面白いアイディアの表現-と瞬読を可能とし、みんなの「面白い」が大量に可視化されて多くの人々の共感と共鳴とを生むのだろう。
シン・ゴジラは震災がなければあのリアリティを生まなかったはずだ。その裏返しか、震災のときの経験をもとに実況に参加する人も少なくなかった。
私自身も震災の時の気持ちを思い出しながら-それを想起することはラクではなかったのだけれど-「義援金詐欺に気を付けてください #シンゴジ実況」とツイートした。震災のとき、実際に騙されてしまったもので。
さて、そんなみんなに愛されるツイッター。業績が思わしくなく、売り先を探しているなんていう話が聞こえてくる。ちょっと元気がない。
震災でその大きなメリットを示し、日常、非日常のおもしろゲームのインフラにまで育ったツイッター。かつて洋の東西を問わず「電話」がポップスや物語の素材として使われたように、ツイッターが歌の歌詞や小説にどんどん使われればいいのに。
「変化を模索している」とか言われるけど、そのままでいいんだよ! ツイッター! 投資家へのウケはよくなくとも、今のままで、大好きだよ!
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