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オリンピック会場で繰り広げられる「スモールビジネス」〜「冬季五輪に魅せられて」——天狼院書店特派員ライター・関谷智紀が行く! ピョンチャン五輪紀行〜


 

チケット代が200円!?

 

連日、世界中から平昌(ピョンチャン)五輪を目指してやってきたスポーツファンで、江陵(カンヌン)にあるオリンピックパークは大賑わい。
五輪グッズを扱う公式ショップも多くのファンで長蛇の列となり、お店に入るだけでも2時間待ちという状況になっていました。

そんな混雑にさらに追い打ちをかけるのが、スポーツファン、スポーツ観戦目的ではなく「ただ単にオリンピックが見たい」という人たちの存在。

韓国国内のさまざまな地方から、数十人単位の地方団体やグループがバスで乗り付け、小旗を掲げたガイドさんの後をキョロキョロしながら集団で歩いて行きます。その様子はまるで修学旅行や団体旅行といった趣です。
また、明らかにスポーツファンとは思えない、黒い革ジャンを着た男性グループもある時期からよく見かけるようになりました。これは、中国から春節の休みを利用してオリンピック見学に訪れた人たちのようです。
ルールがわからないのか、興味がないのか、試合中もスマホを見てばかりの彼ら……。試合終了を待たずに、これで満足したとばかりに笑顔で帰って行きます。

大会側も心得たもので、そんな「ただただ、会場を見たい」人たち向けにオリンピックパークに入る「だけ」のチケットを販売しています。その値段は2000ウォン(約200円)。公共動物園並のお手頃なお値段です。

というわけで、大会も中盤になるとパークは大盛況。広場を埋め尽くさんばかりの人で溢れていました。

そんな人たちのお目当ては、お土産のお買い物とオリンピックの公式スポンサー各社が用意しているパビリオンの見学。
世界的企業のロゴを誇らしげに掲げたパビリオンがずらりと軒を連ね、どのパビリオンの入口にも観客の行列ができていました。

このようなスポンサーになるためにはIOC(国際オリンピック委員会)によって、大会パートナーとして認められなければなりません。
世界中から注目を集めるオリンピックという場。
その宣伝には、おそらくマーケティングの専門家に言わせれば、「数千億円は下らない絶大な効果」があるのでしょう。

最近はその原則も崩れている部分はあるようですが、大会パートナー企業は基本的には1業種1企業だそうで、大会パートナーとなればその業種でオリンピックでの独占的な地位をキープできることとなります。

そのことを一番実感するのは、パーク内で買い物をするとき。クレジットカードはスポンサー企業のV社のマークの付いたもののみが使用可能で、その他ブランドのクレジットカードで払おうとすると、やんわりと「このカードはダメなんです」とお断りされてしまいます。

 

日本のパビリオンvs.韓国のパビリオン

 

また、韓国国内だけのスポンサーもあり、そういった企業もパーク内にパビリオンを設けて、世界中から来るファンにアピールしていました。

パビリオンの展示内容は、凝った展示が多い万博などとは違って、試合の合間に見られるよう配慮したのか、時間を使わないで見学できるあっさりした展示が中心。
ある韓国自動車メーカーのパビリオンに入ったときは、ひたすら自社の車の展示がされ、一番奥に申し訳程度にアイスホッケーのゲーム(棒で人形を動かして遊ぶアレです)が置いてあって子どもが遊んでいるという、「ただのショールームやんけ!」とつっこみを入れたくなるシンプルさでした。

そんななかで一番おもしろかったのが、韓国「Team Korea」のパビリオン。選手のユニフォームなどが展示されているのはよくあるパターンなのですが、なんと中には小演劇が!
私が見たときの演目は、主人公の消防士が仲間と共に火事と闘う熱血感動ストーリー。これが、また韓流ドラマ顔負けの熱い演技で、ほとんどのセリフが大声。とっても密度の濃い舞台でしたが、150人ほど入れそうな会場から廊下まで溢れんばかりの立ち見客という人気ぶりでした。

では日本のパビリオンはどうたったでしょうか?
次の夏のオリンピック開催地となる東京、頑張っていました。TOKYO2020のパビリオンでは、バーチャル映像(VR)を使ってオリンピック選手になりきれたり、自分の身体をスキャンして映像に取り込み、東京旅行が疑似体験できるような展示に人気が集まっているようで、長蛇の列となっていました。日本らしいテクノロジーを前面に推した展示が功を奏したようです。

 

小旗、カフェ、ピンズ……人が集まるところにビジネスあり

 

人が集まるところにはいろいろなビジネスの種も集まるもの。
非公式というか、思わぬ角度での需要が生じるようで、さまざまなスモールビジネスも会場近辺で展開されていました。

まずは、各国国旗や小旗の販売ビジネス。
ヨーロッパ系とおぼしき男性が、大会初日から会場入口近辺に現れ、毎日、
「応援フラッグどうだい?」
と声をかけてくるのです。小旗1本は3000ウォン(約300円)。なんと大会最終日は4500ウォン(約450円)に値上げしているのを発見しました。開催国韓国はもちろん、日本、アメリカ、カナダ、ドイツ、スウェーデン、ロシア……と種類も豊富に取り揃えていたようです。見ていると、けっこうな本数が売れていたので、おじさんもそこそこ稼げたのではないでしょうか。

それから、ご存じの方も多いと思いますが、各オリンピックごとに大会組織委員会やスポンサー企業が配る「ピンズ」というネジで留めるバッジのようなものの交換と販売。
このピンズ集めは、世界でもかなりの数の愛好家がいるそうで、マフラーに何十個ものピンズをつけて、誇らしげに歩く人もよく見かけました。オリンピックごとに愛好家の間で情報が口コミで広まり、自然発生的に交換会が開催されるとのこと。
ピンズ交換が趣味の人に話を聞くと、「これ、いろいろな人と交換していって、わらしべ長者みたいに大会が終わったときにどれだけレアなピンズが手に入っているかが楽しみなんですよ」と言っていました。前回ロシアのソチ五輪のときには、会場から1つ隣の駅前にある小さな橋の上が交換会の場所でしたが、今回はなんと堂々と会場内に。
各競技会場にたどり着く前の陸上競技場脇の広いスペースに各国から訪れたピンズファンがまるで市場のように布を広げてピンズを置いていました。
基本的には「交換」というのが本来の趣旨なのですが、店を広げている髭もじゃの東欧系らしき「店主」に話を聞くと、「このピンズは買えるかって? もちろんだよ。値段? まあものによるけど、5000ウォンから10万ウォン(約500〜1万円)くらいまでいろいろあるよ。ほしいものがあったら声かけてくれよな」と商取引もできるコトをあっさり教えてくれました。

また、会場周辺のパーク北口から出てすぐの場所は畑というか空き地のような土地が広がっているのですが、そこにポツンポツンと真新しい建物が建っており、それらのほとんどがおしゃれなカフェ。
カンヌンは、韓国国内の中でも、人口に対する喫茶店の割合がとても高いそうで、コーヒーの街とも呼ばれているそうですが、オリンピック後をにらんだ店舗戦略が繰り広げられているようです。

そして、オリンピックのような大きな大会にはつきもののちょっとうさんくささを漂わせた人たちが……、あっ、やはり入口の近くにいましたよ。チケットの買い取りと再販売を行っている人たち。いわゆる「ダフ屋」という人たちですね。

今大会はチケット発券のシステムが洗練されていて、ネット上でクレジットカードを使いチケットを購入すると、「会場のチケットブースで発券」「自宅でプリントアウト」「スマホアプリにモバイルチケットをダウンロード」と3種類の方法でチケットを入手することができます。モバイルチケットはパスコードを友人へ伝えれば、アプリ上でチケットの受け渡しができるという優れもの。
とはいえ、モバイルチケットだとデータ上にしかチケットが残らないので味気ないと感じるのは世界共通の感情なのか、けっこう多くの人が、チケットの発券を希望しているようで、午前中などはチケットブースにも長い行列ができていました。

そして紙のチケットなら、買い取りも簡単にできます。
オリンピックパーク入り口に続く一本道には、毎日、「I want tickets.」と書かれた紙を手にして、道行く観客たちに声をかけるがたいのゴツい男がいました。
よく観察してみると、その男の元にまた別の男たちが時折集まっては散っていき、それぞれが「I want tickets.」とやっているようでした。一方、韓国のファンと値段の交渉をしている別の人物も……。どうも彼らはグループを組んでダフ屋行為を行っている模様。世界中のいろいろな大会に出没しているのでしょうか。

オリンピックという数兆円、数千億円といったお金が動くビッグビジネスが行われる傍らでは、スモールビジネスもいろいろと生まれていくようで、オリンピックという非常に強力なコンテンツの引き寄せるパワーと、「スモールビジネスで儲けてやろう」という世界の人たちのたくましさを、今大会でも目の当たりにすることになったのでした。

 
【プロフィール】
関谷智紀(せきや・ともき)
フリーライター。大学卒業後、TV制作会社にてスポーツ中継や情報番組などのディレクターをしていたが、会社解散にともない紆余曲折を経て情報誌のライターになり、グルメのお店情報から経済関係まで記事を執筆。その後、単行本・ムック本の企画・ライティングも担当。スポーツライターとしては、アイスホッケーをはじめとした冬季スポーツ、バスケットボール、野球などを中心に取材を続けている。
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