【天狼院で記事を書き始めてから一年】今日も私はスケッチブックを彩り続ける《ありさのスケッチブック》
ここは池袋。東口のとあるカフェ。
私はスケッチブックを広げてひたすら色を塗っていた。
ここは、赤だな……そうそう、この明るい赤色。やっぱりこの色。
そしてこっちは青。屋根の色が赤と青って普通すぎ?
いやー、ずっと下向いてると肩凝るなあ……
こんなところでスケッチブックに色塗りしている私は外から見るとどう見えるんだろうな……
……まあいっか。よし塗るぞ……ってわあああ、思ったより濃い色だった。
うーん、しょうがないな、消しゴムで消してもう一回塗ろう。
私は消しゴムに手をかけようとして、ふと顔を上げた。
その時。
ワイシャツ姿ですらっと背の高い男性客の後ろ姿が目に入った。
その隣には、またもワイシャツを着たのぽっちゃり体系の男の人。
ぼっちゃリ体系の男の人が上司なのだろうか。
背の高い男の人がええ、そうですね、としきりに頷いている。
二人は揃ってワイシャツを腕まくりして、青いネームタグを首からかけていた。
仕事、なんだろうな……
そう思った時に、私はなんとなくもやっとした気持ちになった。
何だかいけないものを見た気分になり、私は慌てて顔を背ける。
私は手元のスケッチブックに消しゴムをかけて、また色鉛筆を手にする。
そして無心で色塗りの続きをしようとする……のだが。
もやもや、もやもや、もやもやもや。
私の頭の中で先ほどの男の人たちの様子がやたらと気になってしまう。
聞きたくない、と思っているのに近くで座っている彼らの会話に耳を傾けてしまう。
「今度は仙台、次は名古屋までいくよー」
「ええっ大変ですねえ」
「そうだろ、でも今この案件で俺しか動ける奴がいなくてさ」
斜め前に座っている彼らの話を聞いて、私はひとりでもやもやし続けていた。
なんでだろう。
全然私に関係ない人なのに。
何も知らないのに。
……私は、一体何にもやもやしているの?
何が原因かなんてわからなかった。
ただただ、もやもやしていた。
同時に、焦っていたし、悲しくもなったし、不安にもなった。
なにこれ。なにこれ。なにこれ。
ひたすら自問自答を繰り返す。
なんで私はこんなにふたりのサラリーマンを見てもやもやしてるんだろう?
なんで私は聞きたくない話を聞いて勝手に傷心しているんだろう?
そもそも、何に傷ついているんだろう?
わからない。わからない、わから……ない。
だって。
サラリーマンが二人でカフェに来ているだけの話。
二人が次の休みの予定を話しているのを聞いただけの話。
大きな案件を任されたと嬉しそうに背の高い後輩風の男の人が言っていただけの話。
ぽっちゃり系の上司が自慢げに新しく買った車を見せているのがちらりと見えただけの話。
なんでも、ない。
私には、関係ない。
関係ないのに何で……
男の人たちを見た途端、私は、自分が今やっていることが恥ずかしくなっているんだろう。
つい先ほどまで夢中になっていた色塗りを中断してしまっているのだろう。
今回の絵、いい感じじゃん、と思っていた自信が消えていくのだろう。
何ともいえない焦燥感から、次の電車が来る時間を調べ始めているのだろう。
ちょっと先のことを考えて、悲しくなっているんだろう。
どうして、私は今スケッチブックを広げて絵なんか必死になって描いているの?
……それこそ、わからない。
そうすべきだと思っているからやっている。
そうしたいと思ったからやっている。
そうしないといけないと思っているからやっている。
それなのに、私はものの三分ほどの出来事で手を止めてしまった。
わかっている。どうして私がもやもやしたのか。
私は、焦っている。
私は、悲しくなっている。
私は、怖がっている。
私は、不安に思っている。
私は、その場から動きたくないと思っている。
そう、数か月後もすれば自分もそうなるであろう「働く」姿を見た私は、
今やるべきことややりたいことをしなければと焦り、
でもそうするには時間が足りなすぎると悲しくなり、
自分も社会人になったら仕事ばかりの普通の人になってしまうかもと怖くなり、
今やっていることが本当に自分のためになっているのか不安になり、
ぬくぬくと自分の好きなことを目指したい夢に向かってやり続けている現状から動きたくないと思ったのだった。
実は私は、夢に向かって絵を描き続けている。
鉛筆で下書きを書いている時、
色鉛筆で色を塗っている時、
デジタルで描きたいと思ってアマゾンでペンタブを検索している時、
一緒にいるチームメンバーと話をしている時、
本当に楽しくて、幸せで、嬉しくて、
どんなに今の自分がいる環境が恵まれているかを強く実感する。
しかし、ふとした瞬間に言い表すことのできないほど大きな不安が私を襲う。
どうして今自分が絵を描いているのかがわからなくなってくる。
どうして美術部でも美大でもない私が必死になってスケッチブックを彩り続けているのかわからなくなってくる。
これが、本当に私のやりたいことなのかわからなくなってくる。
もし、このまま挑戦を続けても何も残らなかったら……?
もし世の中に出せたとしても誰にも相手にされなかったら……?
そんな可能性を嫌でも考えてしまいそうになる。
普通にオフィスで働いて、
普通に定時で帰って、
普通に華金は職場の同僚たちと飲んで、
普通に休日は遊んで、
また普通の一週間が始まる。
そうやって、世の中の普通の働き方に収まってしまうことは簡単だ。
そういう普通の働き方が一番幸せだとも言う人がいるのもわかっている。
普通に働けば普通に生活できるだけの時間とお金は得られるであろうこともわかっている。
そんな時、私は手が止まってしまう。迷ってしまう。勇気が出せなくなってしまう。
今、一生懸命になってやっていることに、自信がなくなってしまう。
だって、今やろうとしていることは普通じゃない。
大学で学んだことに関連しているわけでもなければ、
これからの進路に関係のある分野でもない。
収入が確実にあるなんて言いきれるものでもない。
そんなことを、余暇の時間を使ってでもやろうとしている。
失敗したくないから。
上手く行かなかった時の時間が無駄になるから。
絶対に上手に出来ないから。
そう言って絵を完成させることから逃げることだってできる。
今の挑戦を止めたって、誰も困らない。
……でも、最後まで描き通さないと、スケッチブックから生まれるものは何もない。
夢は夢だと切り捨てて、「昔はあんな理想像も持っていたなあ……」なんて言いたくない。
絵は最後まで描かないと成功か失敗かなんて誰にもわからない。
それだったら、多少無理をしてでも自分の理想像に近づく挑戦をしていたい。
もし一度完成したものを見て納得がいかなかったら何度でも描けばいい。
何度でもやり直せばいい。
ちょっとずつ修正して、自分の理想像に近づけていけばいい。
人生が一度の失敗で終わる、なんてこともない。
人生で挑戦する機会は自分で創るしかない。
やっと見つけた自分の理想像。
今は、ぼんやりとしか頭には浮かばない。
でも、その理想に向かって進む以外の選択肢は考えられない。
今の挑戦をまた余裕がある時にいつかやる、なんて後回しにしたくない。
理想の姿になるために、やるべきかどうかなんて迷っている時間なんてない。
そのために、まずは自分なりにこの絵を完成させようと思う。
絵を何枚も描いて、ストーリーをつけて、素敵な表紙で飾ろうと思う。
絵本を、作ろうと思う。
泣いて、笑って、怒って、悲しくなって、それでも頑張り抜いて。
そうやって、自分のストーリーは自分で創っていくしかない。
どんなことがあっても、きっと自分の望む理想に近づくために必要なことだ。
そう信じて、絵も文章も他の何もかも、自分で創っていくしか未来を描く方法はない。
一度絵本が出来上がってしまったら、もしかしたら創ることを止めてしまうかもしれない。
もう頑張ったから後は他の人の人生に乗っかろう、なんて思い始めるかもしれない。
ここで完成でいいや、と自分で人生を描くのを止めてしまうかもしれない。
でも私は、人生半ばでそんな風に思いとどまりたくない。
私は自分の人生の描き方が他の人と比べて少し変わっていたって構わない。
少し不格好でも、完成度が高くなくても、「これは、自分で創ったものだ」と胸を張って言える人生を描き続けたい。
天狼院で働き始めてもう一年が経とうとしている。
自分の書く記事が、自分のストーリーと絵を詰め込んだ絵本のようになるように、と付けたサブタイトル。
《ありさの絵本》
これは、私が自分の思いを綴り始めた初めての記事に付けたもの。
お気に入りのサブタイトルだった。
しかし、絵本は終わりがあるものである。
このサブタイトルではそのうちここで完成、と書くのを止めてしまうかもしれないと思った。
それだと物語は自分で創る、ということを忘れてしまいそうで嫌だな、と思った。
それを、自分のストーリーを真っ白な紙に自分で何枚も描き続けていけるように、という思いを込めて、サブタイトルを変えた。
《ありさのスケッチブック》
これが、私の今の記事のサブタイトルである。
今まで私は、何枚このスケッチブックに絵を描いてきたのだろう。
プロの作家さんみたいに綺麗な作品にはできないけれど、
私の日常、決意、喜びと驚き……そんなものがぎゅっと詰まっている。
ある友達のことを描いたり、
自分の過去を描いたり、
衝撃的だったことを急ピッチで描いたり、
時には恋愛の話を詰め込んだり。
本当に色んな絵を描いた。
どんなに拙くて、不格好で、不出来なものでも、
私にとってはどの記事も大切な思いが詰まった宝物である。
初めての記事は、絵本の表紙。
今書いている記事たちは、間に入っている絵やストーリーの数々。
次に《ありさの絵本》という裏表紙がつけられるときは、きっと人生を存分に楽しんだ頃だろう。
物語の最後にたどり着いたとき、私はどんな大人になっているだろうか。
私が自分のために一生懸命作りました! と今の自分にプレゼントできるくらい、
胸を張って人生を描けるように、今日も私はスケッチブックを彩り続ける。
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