チーム天狼院

天狼院書店「福岡天狼院」店長の私が、今の時代に書店員になるのはやめておいた方がいいと思う理由《川代ノート》


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たとえば、私はどうして本屋なんかに就職してしまったんだろうとか、そういうことをよく考えてしまうのです。
そんなことでうんうんと頭を唸らせることは、これまでにほとんどありませんでした。本が好きな私が本屋に就職することは、ごく当たり前のことに思えたし、別になんの不都合も、違和感もない事実だとかたくなに信じていました。大好きな本に囲まれて暮らす。好きな本を、もっと多くの人に読んでもらおうと発信をしていく。好きな本について語り合い、知識を深められる、最高の職業。それは私の理想の暮らしであると思っていました。
でも、最近、どうしてなのでしょうか、何で私はここで書店員をやってるんだろうとか、ふと立ち止まってしまう瞬間があります。別に書店員にならなくてもよかった。もっと別の道もあった。私の大学時代の友人のほとんどは、大企業に就職しました。インスタグラムを見ているとよく出くわします。なんだか別の世界で起こった出来事のように思えます。「有給とってLA☆」とか、「温泉なう」とか、「オフィスの近くでおいしいご飯屋さん見つけた!」とか。四角く切り取られた写真の中には、おしゃれに盛り付けされた野菜のテリーヌや、キラキラとした大都会の夜景や、ベッドの上に広げられた免税コスメ、靴、財布などの戦利品たちが並んでいました。もしかしたら私にもこんな未来があったのかもしれない、そう考えてしまうのです。もしかしたらそっちの方が幸せだったのかもしれない。今の時代、楽しむ方法はいくらでもある。わざわざ書店員のような仕事に就いて、せっせと本を読み、本を売る毎日をおくるよりも、大きなオフィスビルの中のドアにピッと社員証をかざして、かつかつとヒールを鳴らしながら歩く生活の方が、自分に合っていたのかもしれない、と。
そんなことはわかりません。今この道を選んでしまったという事実は覆せないのですから。私は、「書店員」の私として生きていくしかない。

けれども、もしも書店員という仕事に憧れている人がこの文章を読んでいるのだとしたら、私は一つ、伝えたいことがあります。

「今の時代に、書店員になるのは、やめておいたほうがいい」

真面目に、そう言いたいです。
危険な仕事だと思います。とくに、この天狼院書店は危険です。ものすごく。とても危ない。あんまり近寄らない方がいいと、いや、近寄らない方がよかったんじゃないかと、その方が幸せに生きていられたんじゃないかと、最近本気でそう思うのです。冗談で言っているのではありません。思いたくなくても思ってしまうのです。
もしもタイムマシンに乗って、四年前にタイムスリップして、まだ大学三年生だった私に助言できるのだとすれば、私はこう言いたい。

悪いことは言わないから、天狼院書店にだけは近づかない方がいい、と。

頼むから、お願いだから、あんなところには顔を出すなと、そう助言するだろうと思います。
今、福岡天狼院の店長までしている私がこんなことを言うのはおかしいかもしれないけれど、本当にそう思うのです。
本屋は、危険な場所だ。
そして、青臭い、夢見がちな、ただの二十四歳の女にとっては、危険すぎる。
なぜなら、本屋には、無限の可能性が満ちているからです。
すごい作家が店に来る。
すごい作家の書いたものが、そこらじゅうに溢れている。
情報を求め、自分の知識を深めようと、知的好奇心が旺盛な人たちが、「すごい」と世間から呼ばれている人たちが、ここに来る。
情報に溢れているこの「本屋」という空間で働き、しかも、「店長」という冠までつくと、まるで自分自身が、この大きな情報伝達の空間を、支配しているような気になってくるのです。

本に囲まれて暮らす。

その生活に、私は憧れていたはずでした。
知識が次々に自分の脳内に入ってくる感覚が、面白くて仕方ないと思った。本を読み、本を選び、好きなようにレイアウトすることこそ、自分の幸せだと思った。けれども、そんな作業を毎日、繰り返し、繰り返し、行っているうちに、いつしか、ただの純粋な好奇心は消えていって、別の認識に、支配されてしまう。

私は、すごい。

なぜなら、毎日、自分の眼の前を、たくさんの「すごい」名前たちが通り過ぎていくから。

東野圭吾。
村上春樹。
小川洋子。
伊坂幸太郎。
吉田修一。
浅田次郎。
恩田陸。

数々の作家たちの名前を、毎日毎日、何十回も、何百回も、繰り返し、見る。選ぶ。読む。棚を編集する。

そんな行為を繰り返していると、いつしか、無意識的に、こう思うようになる。

自分は、えらい。
自分は、この人たちよりも、ずっとずっと、えらい。

「選ぶ」という作業を通過することによって、「書店店長」という肩書きのついた私は、まるで、自分がこの「福岡天狼院」という一つの星を支配する「神様」であるかのように、錯覚してしまうようになりました。

たとえ私には何もなくても、私は何も持っていなくても、「すごい人たちが魂をこめて書いたもの」を、毎日、何冊も何冊も手に取っていると、私自身がすごい人間であるかのように思えてくる。何かを成し遂げた経験があるような気がしてくる。
作家たちが必死の思いで努力して、ようやく手にいれた才能を、作品を、自分には「選ぶ」権利がある。「これはいまいち」とか、「これはつまらない」とか、「これはまあまあ」とか、上から目線に判断することができる。
ときには、本の中に書いてあるストーリーに、価値観に、共感する。感動する。そうそう、私も全く同じこと考えてたんだよね! と強く頷く。
そして、ときには、おかしな、都合の良い切り替えが行われる。

これって、私が考えたことじゃない?
これって、私がしたことじゃない?
これって、私が発見したことじゃない?

気がつかないうちに、こう思い込むようになる。

私は。
私こそが、クリエイターである、と。

私は、ものをつくり、新しいものを、新しいアイデアを生み出し、人々に影響を与えられる存在である、と。
とんでもない、勘違いを、するように。

なっていました。いつの間にか。

私の手のひらには、何も握られていないのに、いかにも、確かな何かを持っているように思い込んでいた。錯覚していました。

「この書店という空間を支配している」という思い込みや、「自分には選ぶ権利がある」という上から目線な考え方こそが、いかにも「消費者」的な発想であるとは全く気がつかずに、私は、自分のことをクリエイターだと信じ続けていました。
「すごい」と呼ばれる人たちと一緒にいれば、その人たちの空気が自分の中にも流れ込んできて、自分もいつしか「すごい」人になれるんじゃないかとか、そんな夢見がちなことを考えていました。

そんなこと、あるわけがないのに。

自分の足で歩こうとしないで、もっとずっと前を進んでいる人たちをぼーっと眺めているだけの人間が、ほしいものを手に入れられるわけがないのに。

できれば、気が付きたくなかったな、と思います。別の道を歩んでいればよかったと思います。
だって、別の方向へ進んでいたら、こんな風にすばらしいものをたくさん作っている人たちが周りにいる環境に進んでさえいなければ、おそらく私はずっと穏やかに、幸せに暮らせていただろうと思うからです。
好きなものを好きなだけ吸収し、楽しみ、消費することに集中できたかもしれない。つくる側の人間になろう、だなんて思いもしなかったかも。「つくりたい」とか「表現したい」とか「誰かに認められたい」とか、そんな面倒なことは思わずにすんだかもしれないんです。
周りのかっこいい大人たちと自分のダメさを比べて、ひがんで、泣いたり怒ったり落ち込んだりすることもなかったかもしれない。もっと楽しい毎日を過ごせていたかもしれないのに。
来る人来る人みんなが、色々なものを持っている。才能に溢れている。そんな場所に就職など、決めていなければ。

ああ、でも、嘆いても仕方がありません。
私は今、天狼院書店で働いていて、福岡天狼院の店長をしている。この本屋にはたくさんの面白い人たちが来て、私に影響を与えていく。その事実は変えられないし、何より、私はもう後戻りができないところまで、来てしまったからです。

私も、クリエイターになりたい。

自分が、自分を見て、「かっこいいな、この人」と思えるような、クリエイターに、私もなりたい。
面白いものをつくりたい。面白いものを吐き出したい。アウトプットしたい。
自分に誇りを持てる、人間になりたい。

今の私には胸をはって「これだ」と言えるものは何もないけど、それでもやっぱり、もっと遠くの世界を見てみたいと、今まで自分が見たこともないような景色を見てみたいと、そう思います。

だから、私は、これから天狼院書店を訪れる人には、こう助言したい。

本当に、悪いことは言わないから、天狼院書店には、近づかない方がいい。
今の、楽しいものや面白いものがたくさん溢れているこの時代、本屋になんて行かなくても、なんとか生きていけます。
あんな場所には、立ち入らないほうがいい。

もしも行こうとしているのであれば、ある程度、覚悟をしていった方がいい。

面白い人たちに囲まれて、嫉妬し、苦しみ、劣等感に苛まれる、覚悟を。
泣きたくなり、もっともっと広い世界があることを知ってしまい、そのせいで、必死で努力しなければならない現実を、突きつけられる覚悟を。

本当に、恐ろしい場所だと思います。
ですから、どうか、訪れる人は、気をつけて。

あるいは、この書店は、人の人生を大きく狂わせてしまう、恐ろしい空間なのかもしれないから。

 

 

 

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天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021
福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

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