チーム天狼院

「みんなと同じ」は怖くない


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記事:秋田珠希(チーム天狼院)

何を話そう、と困惑していた。
一ヶ月の短期留学から帰ってきて、「どうだった?」と聞かれた時のことだ。
自分ではたくさん大切な時間を過ごしてきたつもりなのに、いざ誰かに聞かれると答えられない。
何を話しても、どこかで聞いたような言葉になってしまう。
こんなこと言ってもつまんないよなあ。もう知ってることだろうし。よく聞くことだし。そう思って口をつぐむ。

思えば、感想を言う時や意見を言う時もそうだった。
他の人が何か感想を言っていて、「うわ被った」と思った時の焦燥感ときたら。同じだなと思いながら言うか、少しだけ細部を変えてごまかすか。
同じ意見を言っても意味ない。
普通のことしか考えられない自分に、嫌気がさしたことは一度や二度ではない。

そう、普通。普通が嫌だ。
昨今のご時世、こう思う人は多いんじゃないかと思う。私は少なくともそうだった。
褒め言葉としてもよく使われる。
「ここの人たちって変わってる人多いよね」とか、
「あなたって個性的だね」とか。
みんなと一緒のことをしている人のことを馬鹿にしたりとか。
「大量生産女子」なんて、そのいい例だ。
女子大生が、みんな似たような格好をしていることを揶揄する。

だからこそ、自分が「普通」であることに劣等感を持つ。自分にも何かがあるはずだと思って探す。
「個性を伸ばす」ということが盛んに言われる今日だ。
何か自分を表せるものを探すのに必死になる。
特徴がない、ということに恐怖を感じる。
表立っては言わなかったけど、私はずっと焦っていた。

みんなと同じであることは価値がない。
けど私にも何かあるはずだ。探さなきゃ。

確か、中学生くらいからだった。
散々探して、結局自分には何にもなくて。何かしなきゃと焦る。その繰り返し。
痛いなあと自分でも思う。
何かしなきゃと焦っても、凡人は凡人の発想しかできない。「人と違うもの」と言われて思いつくものなんて、既に「個性的」という型にはまっている。
「あ、これかも!」と思っても、「これは自分の考えだ」と思っても、必ず同じことを考える人はいる。下手すると、他の人に影響されているだけで、自分の方が2番煎じだったりする。2番煎じどころか10000番煎じだったりして。
そして大体その10000人の中に、遥かに能力の高い先駆者がいる。これだけ人がいるのだ。誰かしら同じようなことを考えている人はいて、誰かしら実行している。
大学生なら、論文を考えてくれればわかりやすいかもしれない。自分の意見なんて誰かしら言っている。しかも自分より遥かに論が通った状態で 。
もう自分の言うことなんて、残ってないような気がしてくる。

「私だけの」なんてない。
そんなものは私にはない。

そう気がつくのは、敗北宣言も同然で、嫌だけど認めざるえない。
私に特別な意味なんて、価値なんてない。みんなと一緒だ。

留学の話は、そんなことを思ってから数年後のことだった。
「なんか、私が話す意味ない気がするんだよね」
私は母につぶやいていた。
その日は留学生の人が集まって体験談という形で話していく会があり、私も話す機会があった。聞けば聞くほど共感はできるけど、自分の話せるネタは無くなっていく。
留学の話聞きたい!と言ってくれるのは嬉しいけれど、話すことがない。
「それはそうでしょ」
母は、当然のように言った。まあそうだよな、と思った。多くの人が言うことは、私も思うであろうことなんだから。

「でも、みんなと同じことを言っていても、それがわかった経緯は違うんじゃない? その経緯が大事なんじゃない?」

ああ、そうかも。

例えば、「友達は大事だと思った」という単純極まりない感想。
でもこれを、
「空港で置き引きにあって、全財産失った。でもそんな時に友達が助けてくれて、現地に着くまで色々貸してくれた」
という経験から話すのと、

「海外で暮らすのが怖くて仕方がなかったけど、部屋に帰ったら友達がいて安心した」
という経験から話すのでは全然違う。

ここにさらに詳しい情報が入ると一気に変わる。各自の細かい感覚の差異や話し方によって、かなり印象が違う話になる。安易にまとめるとありきたりになってしまうけど、細かく話せばちゃんとオリジナルになる。

確かに、みんな似たようなことを考える。その中で、ごくごくたまに一部の分野で変わった発想ができる人がいる。
たくさんの人に「変わってるね」と言う方がおかしいくらいだ。
世間一般の多数派が考えることから大きく外れる人がたくさんいると、多分みんなが困る。
でも、それぞれに「個性がない」というのもまた、嘘だ。
だから大丈夫、「みんなと同じ」は怖くない。

「あなたの視点から、あなたのしてきたことを話せばいいんじゃない?」
母は言った。
私はそうだねと言った。
何か面白いことを話さなきゃ、と思っていたが、力が抜けた。
自分の普通の感覚で、普通の話をすればいい。
そう思って話したら、「え?」と驚かれたのはまた別の話。

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