チーム天狼院

富士山中毒


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:土居りさ子(チーム天狼院)
 
「平成最後の夏だし、富士山登ろうよ!」
「……いいよ!」
 
今年の夏休みに入る直前のことだった。
以前から、人生で一度は富士山に登ってみたいなぁと思っていた。それに「平成最後の夏」は何かタイミングを逃し続けていることをやるにはちょうど良いような気がしたのだ。だから私は友人からの突然の誘いに二つ返事で頷いた。
 
その後すぐに1泊2日の頂上で御来光を見るツアーに申し込み、誘われて約1ヶ月後に富士山に登ることが決まった。
 
しかし私たちは完全に、日本一の高さを誇るあの山のことを甘く見ていた。
 
富士登山当日。
早朝からバスに乗り込み、登り始める富士山の5合目を目指す。5合目に到着すると、早めの夕食をとるように言われ、お弁当を渡された。しかしゆっくり食べる時間がなく、友人とともに慌ててかき込んだ。
その後も慌ただしいまま着替えの時間になった。
そこで私と友人は登山用のスパッツがないことに気がつく。レンタル用具の中に入っていると思い込んでいたのだが、それは各自で用意しなくてはならなかったらしい。自分たちの準備不足さをひしひしと感じたが今さらどうしようもない。
結局レインコートの長ズボンがレンタル用品の中にあったので、それを履いて登ることになった。
他の登山者は短いズボンにオシャレなスパッツを合わせ、さわやかな「山ガール」というファッションなのに、私と友人だけ、ド派手な蛍光色のもっさりしたズボンを履き、かなり暑苦しい格好で登ることになってしまった。
 
そんな中、いよいよ富士登山がスタートした。ここでもトラブルは続く。登り始めて数分後。
私は「あれ? なんかおなか痛いかも。いやでも気のせいだよね……」と自分に言い聞かせながら、もくもくと歩いていた。
すると友人が突然「おなか痛い……」とつぶやいた。
友人のその言葉で、私も猛烈におなかが痛いことをようやく認めた。おそらくお弁当をかき込んだことが原因だろう。
トイレはまだ先。もし間に合わなかったらどうしよう。おそらく友人も同じ気持ちだったはずだ。
途中からは「やばい」という言葉を発することもなくなり、トイレを目指してひたすら歩いた。
ようやくトイレに入ると、間に合ったことに安堵し、私は泣きそうになった。
「ここにトイレがあって良かった」と心の底から感謝をし、入り口の料金箱にコインを入れた。(富士山のトイレはすべて有料)
 
私も友人もすっきりとした表情で、再び登り始めた。もう心配事は何もない。
しかし次第に山道は険しくなっていく。軍手をした手で岩を掴み、よじ登る。「あぁ。今すごい山登りっぽいことしてる」とぼんやり考えながら、上へ上へと登っていく。
ひたすら岩の山をよじ登り、真夜中には山小屋に到着した。そこで2,3時間の仮眠を取ることになっていた。男女関係なく雑魚寝という富士山の山小屋ならではの経験ができ、短時間だったが、爆睡できてとてもすっきりした。
 
仮眠のあと、再び歩き始めてしばらくすると頂上が見えてきた。頂上は思っていた以上に近い。しかしここからの道が本当に苦しかった。
風はどんどん強くなり、帽子をかぶっていられなくなった。目に砂粒が入ってくる。頂上が見えているのに登っても登っても近づいていないような気がする。
最後はほとんど気力だけで登り、「ここが頂上です!」というガイドさんの言葉で、ようやく登り切ったという実感がわいてきた。
 
頂上はたくさんの登山客でごった返していた。
それを見かねてガイドさんが「頂上だとゆっくり日の出が見られないので、下山ルートで見ましょう」と言ってくれ、少しだけ山を下りたところで日の出を見ることになった。細い道に一列に並び、日の出を待った。しばらくすると、ピカーっと急に光が差し込んで目を開けていられないほど眩しくなった。
オレンジ色の太陽が少しずつ顔を出し、次第に明るく、暖かくなっていく。私の目からは、風で乾燥したのと、あまりの綺麗さに感動したのとで涙が出てきた。
日本一の高さから見た日の出は、一生忘れられない光景だった。
 
帰りのバスで、到着の直前にガイドさんが「皆さん登っているときの辛かったなぁという気持ちはすぐに忘れるのに、あの日の出の綺麗さは忘れないんです。だからしんどいのに、皆さんなんだかんだ何回も登っちゃうんですよね」と言った。
まさにその通りで、帰りのバスの中で私は友人と、「レインコートのズボンでもぜんぜんいけたね!」「おなか痛すぎてマジでやばかった~あのときが一番辛かった」と笑いながら話していたのだ。辛かった出来事は全て笑い話になり、楽しかった思い出になった。
私たちはもうすでに、富士山の中毒者だ。またいつか、必ず登りに行きたいと思う。
 
***

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2018-11-25 | Posted in チーム天狼院

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