ファナティックであるということ《ファナティック読書家・藤塚さんエッセイ》
*この記事は、天狼院のお客様、藤塚さんに書いて頂きました。
ファナティック読書会愛好家の藤塚です。
ここ天狼院ではすっかり「熱中」とか「ドハマリ」という意味で使われ、馴染みになった「ファナティック」という言葉ですが、考えてみればここ以外ではほとんど聞いたことがないですよね。少なくともカタカナ言葉として世間で使われるようなレベルには、まだまだなっていません。今回雑誌READING LIFEさんの取材が入るということなので、ひょっとしたら僕らは「ファナティック」について、おかしな使い方をしていないかと不安になり、調べてみることにしました。なにかネイティヴの人が聞いたら印象の悪いニュアンスが含まれていたり、子どもに聞かせられないような意味合いがある言葉だったら大変だ。この機会に改めて「ファナティック」という言葉のことを考えてみました。
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まずこの単語(英:fanatic/仏:fanatique)を辞書で引くと、最初に「(ある宗教や教義に対して)熱狂的、狂信的であること」という意味が出てきます。もともとの「ファナティック」という単語は、宗教的な意味合いを持って用いられる言葉のようです。そしてその後に”くだけた表現”として、「何かに熱中している、ハマっている」という、私達がここで用いている使い方が出てきます。本来お固いイメージのある言葉を、おどけて使うわけですね。こうして調べてみると、どうやら人前で使っちゃいけないような言葉というわけではなさそうです。
そして、さらにもう少し掘り下げて英英辞典や仏仏辞典でその語源を調べてみると、これはラテン語のfanaticusという形容詞が基になっていることがわかりました。ファナティクス。なんだかラテン語っぽくていい響きですね。ところがこのfanaticusという単語の意味は「(神からの)インスピレーションを受けた…」とされています。
なるほど、宗教を信仰する姿勢にもいろいろありますが、ファナティックな信仰心を持つ人たちは「神からのインスピレーションを受ける」という特別な体験をしたことによって、その考えに至ったわけです。この「インスピレーションの体験」こそが、ふつうの「信仰」「好き」「ハマってる」を超える熱狂的な愛情、ファナティックという言葉に至る、いわば肝だったのです。
ここまで調べてみて、僕はあることに気が付きました。ファナティック読書会がなぜ面白いのか。
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ファナティック読書会は、自分が面白いと思った本を持ち寄って互いに紹介する読書会です。けれども、本の良さや面白さを紹介していると、誰でも必ず滲み出てくるものがあります。その本に出会ったきっかけ、何度も読み返してそのたびに感じること、自分がその本のどこに心打たれているのか。そう、その本を読む自分の存在です。
それは当然のことだと思います。なぜなら読書体験というのは個人的なものだからです。例えば世の中には多くの人の心を打って、名著、名作と呼ばれる本がありますが、名著や名作は全ての人の心を打つわけではありません。「名作って聞いたから読んだけど、あの本ダメダメだったよ」なんてことは誰にでもあるでしょう。年齢、性別、生活文化、人間は一人ひとりが全て異なり、世界の72億人の誰もが認める本なんてあるわけがない。だから本選びというのはいつでも難しいものなのです。
ところが、ファナティック読書会は、そんな本選びの難しさをぶち壊してしまいました。この場所で語られるのは一冊の本の中身と同時に、その本を読んで心を打たれたその人自身の話。それは、なんでもない一冊の本が、誰かにとっての名著になった瞬間--インスピレーションを受けて狂信的読者になってしまった--という、読書体験そのものなのです。
こうなると、ここで紹介される本は百発百中のホームラン、全てが名著、名作なんですよ。なにしろその本がどうやって人の心を打ったのかを、そのファナティクスな実例そのものが、目の前で語ってくれるのですから。見えない誰かにとってなぜその本が名作なのかよりも、目の前にいる人がどうしてそれを名作だと感じたのかのほうが、ずっと共感しやすくて、エキサイティングで、面白い。そして話を聞いているうちに、いつしか自分もその本を読んでファナティクスな体験をしたような気持ちにさせられます。こうなったら仲間入り、気が付くとその本を手にとって、お買い上げ。こうして信者、いえ、読者が一人増えていくのです。願わくはあなたもファナティックな読者になりますように。
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さて、ファナティック読書会も会を重ねて、初期の頃から参加している私なんかはそろそろファナティックに紹介できる本のネタが無くなってきてしまい、この頃は参加しても他の人の話を聞くだけということも増えてきました。なにしろあくまでもファナティックな本ですからね、数も限られています。きっと私以外にも同じように感じている常連さんはいるんじゃないでしょうか。けれども、人の心の数だけファナティックは存在します。より多くの人のファナティックな話が聞きたい! そういうわけで、どんどん新しい人に来て頂いて、あなたにとっての名著、名作をファナティックに教えてほしいと思っています。
ファナティックという単語を調べ勧めるうちに、それが本からのインスピレーションによって熱狂的読者となった私達を表現する、これ以上ない言葉であることが分かりました。うーん三浦さん、もしかしてここまで考えて名づけてたんですか?
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