秘密のままでなんて、終わらせない。~帰ってきたホームズくん~【12/26(土) 劇団天狼院 5代目秘本『秘本劇』】
*こちらの記事は5代目天狼院秘本舞台化のお知らせです。
『秘本』のルールに従い、もちろんネタバレはございませんが、読後だとさらに楽しんでいただけます。
ぜひ5代目秘本とご一緒に、記事に隠された秘密を暴いてみてくださいね。
『5代目天狼院秘本』は天狼院書店店頭もしくは通販にてご購入いただけます。
スッ。
懐かしい。
ふと、手に取ったミステリー小説を見て回想する。
こんな騒ぎもあったっけなあ。
ここは池袋にある天狼院書店。
書店員の一人が本を並べ、棚を整理している。
気のせいだろうか、どこか動きがぎこちない。
やれやれ、この本のせいでどれだけ困ったことか。
タイトルに『天狼院』の名が入ってるからおもしろいって、店主が陳列したものだ。
私を含めスタッフの皆は反対した。
物騒だからやめましょうよ。それに「殺人事件」なんて変なイメージが付いちゃいますから、と。
しかし、一度言い出したら聞かない店主は、本を発注し売り出した。
おかげで店舗の業務は滞った。
殺人事件って本当ですか!? と問い合わせが殺到し、まるで都市伝説のように怖いもの見たさで全国からお客様が押し寄せた。
スタッフいち動きの鈍い私は、殺人犯として疑われたりもした。
よりによってなんで私が。おどおどしている人が殺人なんて不可能だと、普通に考えればわからないものかね。
作者も作者だ。天狼院で事件が起こる設定なんて、小さな書店の成功に対する恨みとしか思えない。本当に。
とはいえ、今は落ち着き、平穏な日常である。
当時はパニックだったが、今となってはゆかいな思い出のひとつだ。
私は本を棚に戻す。
背表紙にはこう、書かれている。
『世界で一番美しい死体~天狼院殺人事件~』。
これも殺しに関わる本だ。
つい、隣にあるビジネス書に手を伸ばす。
「殺し」と「ビジネス」が結びつくなんてありえない。
誰もが疑問に思うだろう。私もそうだった。
が、それを逆手にとって、非常にわかりやすくマーケティングの仕組みを解説しているのだ。
初心者にもとっつきやすく仕上がっているのだ。
ビジネス本を読んだことない私も夢中になって一気読みしてしまった。
ロングセラーの一冊である。おそらく、これからも。
パラパラめくった本を閉じ、改めて表紙を見る。
この表紙……
思わず笑みがこぼれた。
ピストルを持ってポーズをとる、スーツ姿の美人女子大生。
店主の趣味だな、うん。
正義とは、いったい、なんだろう。
棚に飾られたポップの言葉を呟きながら、『殺し屋のマーケティング』を定位置に置いた。
あれ? こんな本あったっけ?
奥に隠れている本に目が留まった。
真っ黒なカバー。いかにも怪しげである。
物好きな店主のしわざか……?
カランコロン。
「いらっしゃいませ。あ、ホームズくん」
ドアの前に現れたのは、かつて一緒に仕事をしたホームズであった。
「お久しぶりです。天狼院殺人事件の時はお世話になりました」
「久しぶり、ワトソンくん。髪を切ったね、声をかけられるまで誰か気付かなかったよ」
「ホットコーヒーでいいかな?」
「うん。ブラックで、よろしく」
最後に会ったのは、いつだったか。
確か、改装前……
「えっと、実はリニューアルしてからフードメニューも提供できるようになって。
ジャーパフェとかデザートも……」
ホームズの目がキランと輝くのをワトソンは見逃さなかった。
興奮を隠せずホームズは言った。
「食べる!! スイーツ、食べる!!」
「かしこまりました」
「糖分は脳を活性化する……あ」
同じタイミングに同じ言葉を発した二人は顔を見合わせた。
そして、同じように微笑んだ。
「甘党なのは昔から変わらないですね、ホームズくん」
「ハハハ。そんな君は最近どうなんだ? ワトソンくん」
「いろいろ楽しませてもらってますよ。『サイレンス・ヘル』として殺し屋をやっていた時期もありましたし」
「殺し屋? おもしろい。感情の起伏がない君にはぴったりだ。じゃあ、殺人を頼み……」
すかさずワトソンは言う。
「殺しのご依頼は、エージェント七生を通してから」
「君にしては珍しく流暢だな」
「ハハハ。ところで、今日はなにしに?」
「そうだった。捜査の依頼があってね。秘本っていうんだが、あ、それだ! 君が今手にしているそれだよ!」
「え、この真っ黒なカバーの本?」
「うん。この本には謎が凝縮されている。世間を騒がせているようだし、気になっていてもたってもいられなくてね。販売元をたどったら天狼院に行き着いたってわけだ」
いつの間にかホームズの顔は真剣になっていた。
「僕は、どうしても知りたいんだ。本のタイトルでも内容でもない。
なぜ、泣けるのか。なぜ、人々を魅了するのか。
それが、知りたいんだ」
ホームズが秘本に向けるまなざしは、鋭いほどにまっすぐであった。
かつて天狼院書店を訪れた一年前とは明らかに違う。様々な経験と磨かれた感性を携えて再びやってきたのだ。
仕事としてではない。
謎を解明できない悔しさ、もどかしさ、そして覚悟が彼を突き動かしていた。
その視線が、ワトソンに向けられる。
「僕は秘本に隠されたすべての謎を解き明かしたい。
……演じることで」
ワトソンは一瞬驚き、ふっと表情を緩めた。
「では、この設定は終わりですね。
……佐伯さん」
佐伯さんは肩の力を抜き、微笑んで言った。
「はじめにホームズくんと声をかけられたから、『世界で一番美しい死体』のときのように僕もなりきりましたよ。ひかるさん」
「即興劇は演技の基本ですからね。あと、一度ハマると楽しすぎて抜けられなくなっちゃうんですよ、舞台の世界観から。ハハハ。
改めまして、今回もよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。さっそくだけど、舞台をやるには人手が……」
カランコロン。
「いらっしゃいませ!」
スタッフひかる、まるで反射のように声を出す。
なんでこの人はいつもビクッてするんだ? と目の前の俳優に疑問をもたれていることには全く気付いていない。
「あ、うさぎさん」
おいおい。本屋にうさぎが来るわけないだろ。
いったい、頭の中はどうなってるんだ?
良く言えば想像力豊か。悪く言えばただのバ……
と彼が振り向いた先にいたのは、40代くらいの男性であった。
常連さんなのだろう、慣れたように一番奥のカウンター席に座った。
それにしても、変わった名前の人がいるもんだなあ、世の中には。
うさぎさんと呼ばれる男性客はひかるに向かって言った。
「コーヒー、おかわり」
「あの……
まだ一杯も頼んでないと思うのですけど……」
「あ、ああ、すまない。つい、口ぐせで。物忘れかな、ハハハ」
いや、物忘れ、とはちょっと違う気がするのですけど……
とコーヒーを淹れる店員が不思議に感じていることには全く気付いていない。
カランコロン。
「いらっしゃいま……」
「ちょっと! どういうことよ! なんでこんな売り方するのよ!」
ビビットカラーの派手な露出の多い服装で勢いよくドアを開けたのは、30代くらいの女性であった。
ああ、どうして人と話すのが苦手な私がシフトの時に限って、対応に困るお客様がいらっしゃるのだろう……
私は自分の不運を恨んだ。そして、直観した。
こういうタイプの人とは仲良くなれない。
女性はまくしたてた。
「どうしてよ! 秘本だなんて! 気になるじゃないのよ!
気になって、気になって、夜も眠れなくて、やっと天狼院で買えた!
と思って読んだら、おもしろいじゃないの! 泣けるじゃないの!
泣いて、泣いて、夜中に読み始めて気付いたら朝になってて、結局寝れないじゃないの!
こんなに『秘密』を愛したの、私、初めてよ!」
「え……」
「だからね、たくさんの人に読んでほしいのよ! 舞台化もするべきよ!
でもね、タイトルを明かせないから検索もできないじゃない!
もどかしくって、もどかしくって、仕方ないからどうしてもオススメしたい人たちをここに連れてきた!
実家の妹と、知り合いのOL!
ほら、二人とも早く早く!」
訂正します。
仲良くなれます。
いや、仲良くさせていただきたいです。
「お姉ちゃん、外まで声が響いていたよ」
妹らしき女性が店内に入ってきた。
「お騒がせしてすみません。姉は秘本の熱狂的なファンでして。いや、ファンより、秘密を知った共犯者、とでもいうべきでしょうか」
「いえいえ、大丈夫です。気に入っていただけてうれしいです」
続いて、コツコツとヒールの音を響かせながら現れたのは、スタイルの良いスーツ姿の女性だった。
「こんにちは。タオルが必要なほど泣けると有名の秘本が気になって買いに来ました。それと……
遠くにいる友だちにプレゼントしたいのですが」
「彼氏よ」
「お姉ちゃん、黙ってて」
「つ、通販も承っております」
「あら、そうなの?」
「ほら、お姉ちゃん、言ったじゃないの。通販でも販売してるから店舗に来なくても……」
「いいじゃない! 私、コーヒーがないと本を読めないのよ。天狼院書店はカフェとしても利用できるって。それに……」
「それに?」
「秘密を握っている本屋がどんな場所なのか、気になるじゃない?」
「確かに」
カランコロン。
「いらっしゃいませ」
タイミングを見計らってドアを開けたのは、仲の良さそうな夫婦だった。
「あの、初めて来たのですが、ここで秘本が手に入るって本当ですか?」
「はい! そうです!」
「お姉ちゃん、黙ってて」
夫婦、戸惑う。
スタッフひかる、さらに戸惑う。
なにか、言わないと。
「えっと、こちらが秘本コーナーです」
「これが、秘本なのねえ。
実は、近所の奥様がこちらの秘本を大絶賛していて。あなたたち夫婦にお似合いの本っていうものですから、主人と来たんです。
ね、あなた」
「うん、そうだな」
カランコロン。
今日は秘本日和なのか。
秘本を求めて次々にお客様がいらっしゃった。
それも、年齢も職業も様々な方たちである。
書籍購入の会計が一段落し、ドリンクを片手に本を読むお客様を見まわして、私は思う。
これだけ人がいれば。
これだけ個性豊かな人がいれば。
「舞台ができる」
「ん?」
一連の流れを見ていたのだろう、佐伯さんは私の呟きを聞き逃さなかった。
その場にいた誰もが聞こえるように、私は声を響かせる。
「みなさんで秘本を舞台化しましょう!!」
秘本を手にしたすべてのお客様が私に振り向いた。
と、同時に近所の男子大学生が駆け込んできた。
カランコロン。
「いらっしゃいま……」
「ここで殺人事件が起きたって本当ですか!?」
「そっちかい!!!!!」
振り向いたお客様が全員、同時にツッコんだ。
ナイス、チームプレー。
この一体感があれば。
この本があれば。
「最高の舞台になる」
私は確信した。
「あの、その事件はずいぶん前に解決しまして、つまり、過去のことなのでもう大丈夫です。
天狼院書店は未来を生きてます」
学生の納得のいってない様子に気付いた私は、すぐに話をそらす。
「あ、よろしければ秘本劇に参加しませんか?
劇団天狼院で5代目秘本を舞台化するんで、ぜひ!」
おもしろそうな人はすぐに誘う。
ずっと聞き耳を立てていたであろうカウンター席の彼にも。
「もちろん、うさぎさんも」
「コーヒー……」
佐伯さんが声をかけた。
「あ……」
私は慌ててコーヒーを持ってきた。
「あつ! このコーヒー、あつ!」
「ホットコーヒーなんだから、熱いほうがおいしいでしょう?
それに、冷めたら困りますから」
「ん?」
「簡単に冷められたら困りますから」
「え……」
「冷めそうになったら、私が、私たちが温めるしかないですから」
つまり、コーヒーも温まるくらい舞台に燃えてるってことだな。
演出家の彼女はたまに変な表現をする。
相変わらず不思議な人だと思いながら、彼は一気にコーヒーを飲み干した。
*この物語はフィクションです。
こんにちは、劇団天狼院マネージャーであり、今回の秘本劇演出の岩田ひかるです。
なんと、女子大生が演出をします!!
演目は『秘本劇』。
涙なしでは読めないと大人気の天狼院5代目秘本ですが、一度読んだことのある方には納得してもらえるでしょう。
舞台にぴったりだ、と。
本を舞台化できるなんて、本屋の私たちにとってこれほどうれしいことはありません。
本好きの人たちが生み出す秘本劇。
「天狼院」らしい、そして「天狼院」にしかできない最高の舞台をお届けします。
12月26日(土)豊島公会堂、年末に今年一番の夜を一緒に過ごしましょう!!
そして、劇団天狼院出身の彼が帰ってきました。
俳優・タレントとして活躍する佐伯恵太さんです!!
映画/舞台『世界で一番美しい死体~天狼院殺人事件~』に出演し、舞台上では私と探偵コンビを演じた彼ですが、今回の劇団天狼院秘本劇に出演が決定しました。
プロデューサーも務めてくださいます。
進化した佐伯恵太さんをぜひ見にいらしてくださいね。
また、秘本劇ですので、公演前に本を読んでいただきますと確実に舞台がおもしろくなります。
みなさま、秘密を手に入れた秘本共犯者として舞台を味わってみませんか?
『5代目天狼院秘本』は12月12日(土)にご開帳予定です。
ご開帳までの間に公演チケットを購入される方は今だけの特別価格でお買い求めいただけます。
【5代目天狼院秘本『秘本劇』】
日時:12月26日(土)
19:30 開場
20:00 開演
21:10 公演終了
21:20 漂流書店 『5代目天狼院秘本』に関連したスペシャルイベントを開催
21:50 終了
場所:豊島公会堂
〒170-0013 東京都豊島区東池袋1-19-1
アクセス:「東京メトロ池袋駅」(東口)より徒歩5分/「JR池袋駅」(東口)より徒歩5分
チケット:
・前売り 4,000円(12/12以降に販売開始)
・早割(12/12までにお買い求めの方)3,000円
*『5代目天狼院秘本』をお買い求めの方は1,000円引きとなります。
当日『5代目天狼院秘本』をご持参いただくか、会場にてお買い求めください。
早割チケット購入特設ページはこちらです。
『5代目天狼院秘本』は天狼院書店店頭もしくは通販にてご購入いただけます。
【天狼院書店へのお問い合わせ】
TEL:03-6914-3618
【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
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