【11/5、11/12 Sat】『青空どろぼう』劇団天狼院~咲~2016年秋公演 《小説家養成ゼミ受講生作品が初の舞台化!》
福岡天狼院店長、川代です。
ああ、めんどくさいことになったーーーー。そう私はため息をつきました。
私は知っているのです。もうここまできたら、逃げられないことはわかっているのです。面倒なことになることは間違いないのです。今までの傾向からして。
彼が「劇団をやりたい」と言い始めたら、それはもう止められないのです。私たちに、「やらない」という選択肢はないのです。この大波に飲まれない方法はないのです。
私はなかば諦めに似た気持ちを抱きながら、これまでのことを思い出しました。
劇団天狼院ができたのは、まだ福岡天狼院もできていなかった頃。東京に「天狼院書店」がオープンしてから、半年くらいのことだったと記憶しています。
その頃から、常に「劇団」の二文字は私たちの頭のなかにあって、東京でも豊島公会堂で演劇を行い、そして、福岡天狼院ができてからも、福岡天狼院で演劇を行いました。常に、天狼院は劇団と共にある。本屋がやるからこそできる、「全く新しい形の劇団」を目指して、劇団天狼院は常に動き続けてきました。
私もそれを、劇団天狼院が結成されてからずっと、働きながら見てきました。けれど、私には演劇というものは、よくわからなくて。なにせ、私は幼稚園の頃、「不思議の国のアリス」をやって以来、舞台の上に立ったことなど一度もないのです。芝居というものをやってきたこともなければ、演劇のレッスンを受けてきたこともない。
だから、劇団天狼院も、あくまでもサポート側としてやることしかありませんでした。常に私は運営する側。目立つ方じゃなくて、縁の下の力持ち系の仕事でいい。
そう思ってきたし、これからもそうなるんだろう。それは福岡に来ても同じ。みんなが頑張っているのを応援しながら、私はサポートする側に回る。劇団天狼院のことを、ある程度冷静な目で見ていたのだと思います。
けれど、そんなときでした。あの爆弾が落とされてしまったのは。
劇団天狼院主宰であり、天狼院書店店主である三浦の、いつも通りの突拍子もない一言からはじまりました。
「あ、そうだ、あの小説、演劇にしませんか?」
それは、天狼院で行われたとあるイベントでの一言でした。まるで「ちょっと今からコンビニ行かない?」くらいの調子でそう言われたので、にわかには、それが重大な選択を決定する一言だとは、その場にいた誰も認識できていなかったと思います。突然の言葉に、言われた当の本人も、口をぽかんと開けて三浦の顔を見ていました。
「えっ……と……え?」
「あれ、演劇にしましょうよ! 劇団天狼院で」
「え、本気で言ってるんですか?」
これほど軽い調子で、何かのついでみたいに言われたのだから、彼女が疑うのも、無理はないと思いました。
ああ、めんどくさいことになったーーーー。そばにいた私は、そうため息をつきました。
もう、わかりきっていました。こうなったら、もう逃げられない。やる以外の選択肢はない。
私は、三浦は冗談を言わないということは、これまでの経験から、よくわかっていたからです。
どんなに冗談のような軽い口調でも、本気でやりたいと思わないことは、口にしない。
そして、私は必ず、その大波に飲み込まれる。しかも、そこから逃げ出すことはできない。
どんなにめんどくさくても、大変だろうとも、私は逃げ出すことはできません。
なぜなら、それがとてつもなく面白いことになるだろうということが、直感的に、わかりきっているからです。
もしかしたら、彼女もそれを感じ取ったのかもしれない、いや、本当のところはわからないけれど、こんなチャンスを逃すわけにはいかない、と彼女も思ったのかもしれません。
「は……はい、やります」
少しまだ、不安そうではありましたが、彼女は強く、こぶしを握りしめました。
それが、今回の演劇で脚本を務める、谷口愛子さんでした。
谷口さんは、小説家養成ゼミでずっと小説を書いてきた方です。
顧問であり、文芸編集者歴25年の関根さんのアドバイスを全て素直に受け入れ、そのまま小説に生かしてきました。
そんな谷口さんの小説は、有名作家さんたちの数々の作品を見てきた関根さんも太鼓判の一作。
そしてその才能を、三浦が逃すはずはありませんでした。
「谷口さん、脚本書いてください。小説をそのまま、舞台にしましょう。で、さきも舞台に出て。演出もやって」
「ええ!?」驚きのあまり、立ちくらみがしそうでした。
「えっ、でも、私、演劇とか、何も知らないですよ?」谷口さんも、動揺したように胸に手を当てています。
「いや、そんなことは関係ないんです。僕はね、演劇の面白さというのは舞台経験とは別のところにあるんじゃないかと思うんです」
「え? どういうことですか?」
私と谷口さんは、顔を見合わせました。
「今までなんども劇団天狼院で演劇をやってきてわかったことだけれど、僕は、劇団を面白くできるかどうかの分かれ目というのは、本をいかに読んできているかどうか、だと思うんです」
三浦は真剣な眼差しで言いました。
「たとえば台本を読んで、このキャラクターはどう動くかな、と想像をして、それを表現できるのは、読解力があるから。台本の『行間』を読む能力があるかどうかだと思うんです」
それに、と三浦は続けます。
「たぶん、今までに演劇をやったことのない人は、すごくリアルで面白い演劇を作れる。まるで芝居じゃないかのように、リアルな演劇が」
確信を持って言う三浦に、気持ちが高ぶるのを感じました。
「谷口さんもさきも、文章が書けるので、新しい、面白い演劇が作れると思います」
たしかに、私も谷口さんも、演劇のことは素人。何も知らない。
けれど、とにかく、書いてきました。
本が好きで、文章を書くのも好きで、表現をするのが好き。
書く以外の表現方法を知らない私たちが、アウトプットする場を舞台にしたとき、一体、どうなるのか。
どうなるのか、わかりませんが、何か、革命的な何かが起こるのではないかという予感はしていて、私の口角は勝手に上がっていました。
ああ、めんどくさいことになったーーーー。
だから嫌だったのです。劇団に関わるのは。
一度その沼にはまってしまえば、その面白さと快感から抜け出せなくなってしまうだろうことが、容易に想像できたからです。
また新しい「面白いこと」を知ってしまったらもう、知らなかった頃には戻れなくなるのは、わかりきっているからです。
さあ、この11月、新たな劇団天狼院が、この福岡天狼院で、花を咲かせます。
「劇団天狼院〜咲〜」それが、新しい劇団の名前。
まさに、数々の才能がここで花を咲かせるような、そんな思いをこめた、劇団です。
谷口さんの原作は、小説家養成ゼミ顧問の関根さんが太鼓判を押すほど、文句のつけようがなく、面白い。間違いなく谷口さんは、これから世に出て行く作家になるだろうと思います。同じく小説家を目指している身としては、こんなことを言うのは本当に悔しいのですが、嫉妬するほど面白いのです。
そんな谷口さんが今回、その小説を自分の手で、脚本化します。
僭越ながら、その作品を、私が演出させていただき、しかも、主演までするという、とても光栄な役割をいただきました。
もちろん、演劇は素人ですから、本当に不安で不安で仕方がないのですが、やるからには、徹底的に面白いものを作りたいと思っています。
いよいよ、この10月から始動する「劇団天狼院〜咲〜」。
はたして、満開の花を咲かせられるのか、どうか、それはまだ、わかりませんが。
とにかく今、私が、心のそこからワクワクしているのは事実です。
ご興味のある方はぜひ、この大波に乗っていただければと思います。
【「青空どろぼう」あらすじ】
夫の借金癖がもとで闇金に追われた加奈子は、仕事をやめ、人目を避けるように古いアパートに辿りつく。 博多に建つ、築60年のそのアパートには、100年前、この地で遊女として暮らしたお福が、幽霊となって住みついていた。 15歳で遊郭から逃げだして自分の人生をつかんだお福は、死後、かつて暮らした場所で、困りごとに悩む人をのんびり助けながら過ごしていた。 ーー逃げてもいいとよ。 おせっかいでいながら、どこか呑気なお福と過ごしながら、加奈子は少しずつ前進していく。
【チケット】
日時:
① 2016年11月5日(土)10:30 開場/11:00 開演 定員40名
② 2016年11月12日(土)10:30 開場/11:00 開演 定員40名
会場:天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021
福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階(TEL 092-518-7435)
チケット:2000円(店舗もしくはPEATIXページから)
*CLASS天狼院プラチナクラスの方は参加費半額にてご参加いただけます。
*別途1ドリンク頂戴いたします。
【原作・脚本】
谷口愛子
【主演・演出】
川代紗生
1992年生まれ。福岡天狼院店長。2014年、大学生のときから天狼院書店で学生インターンとして働き、2016年より本格的に合流。天狼院では主にライティングを担当。これまでにWEB天狼院で書いてきた文章量は合計約40万字に及ぶ。演劇経験はないが、文章を書いてきて得たスキルを使って演出を行う。
■お問い合わせ先:担当 川代紗生
・Facebookメッセージ 川代紗生
・電話 092−518−7435
・メール tenroin@gmail.com
(メールは件名冒頭に【劇団天狼院~咲~11月公演】と記載頂けると大変助かります)
天狼院書店「福岡天狼院」2015.9.26OPEN
〒810-0021
福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL 092-518-7435 FAX 092-518-4941
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