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ドラマ『カルテット』を観て、ここに「究極の読書」の答えがあると知った。《海鈴のアイデア帳》


「来て? ……うん、来て」

落ち着いた低い声で手招きする高橋一生。
てててっと小走りで駆け寄る、満島ひかり。

ああどっちもカッコイイし可愛いなちくしょう、と惚れ惚れしながら、私は「ん?」と、思わずにはいられませんでした。

「どうしても、これは確かめなければならないことがある」と思ったのです。

それはドラマ『カルテット』での一節でした。
2017年1月から放送している、松たか子・松田龍平・満島ひかり・高橋一生が出演するドラマです。

正直、私は演技経験があるわけではありません。
演技についてそこまで詳しいわけではありませんし、むしろ演じることなんて私にはできない、苦手だなと思っている部類です。

けれど、そんな私でも、ドラマを見ていて、出演者の輝きにどうしても目がいってしまうのです。
キャラクターの息遣いがテレビを通して直に伝わってきて、息をのんでしまうくらい引き込まれるのです。
セリフの掛け合いや、頭の先から眉の毛一本までつかうキャラクターの姿に「生きてる!!!」と感じずにはいられないのです。

ドラマを見進めながら、私は「これだけはどうしても確かめたいことがある」という気持ちがふつふつと膨らんでいくのを感じていました。

たとえば、高橋一生が

「来て? ……うん、来て」

と満島ひかりに呼びかける場面があります。
セリフ通りに文字を起こせばこうなるわけですが、正確にいえば、この表記の仕方は間違っているかもしれません。
それは、どちらかというと

「来て」
「……ぅん、来て」

と表記した方が、圧倒的に正しいような感じがする言い方なのです。
「来て」と言ったあとに、少し間があいて、満島ひかりの様子を見る高橋一生。
「うん」というよりも、「ぅん」というように語頭がぼそっとしている口調。2回目の「来て」は、あくまでも付け足したような印象がする言い方なのでした。

そりゃあ、そうだよな、と私は納得しました。
あれだけのキャストがそろっているんだもの、きっとこれはアドリブなんだろうと思いました。

まるで、打ち上げの飲み会で周りの大勢が盛り上がっているところ、意中の人をトイレの方に呼び寄せ「ねえちょっと、先に帰らない?」とコッソリ提案するときのような、個人的な匂いのする呼び掛け方だったのでした。
それくらい、その「来て」は会話をつなぐ中で発せられた自然な感じがする言い方でした。

きっと脚本の中には

   「来て?」

とだけしか書いていないのでしょう。
即興で発せられた「……ぅん、来て」というアドリブによって「生きている感」が増し、このドラマの全体の雰囲気が特別なものに作られているんだなと思いました。

そのシーンだけでなく、いろんなところできっとアドリブなんだろうなーと思うシーンがたくさんあったのです。
もう、どこからどこまでがアドリブで、どこからどこまでが脚本通りなのか分からなくなるほど。
いやあ、凄いな。俳優さん・女優さんそれぞれの音律とリズムが重なり合って生まれる物語。見てて最高に楽しいな、と思っていました。

だから、このアドリブに見えるシーンは脚本のなかではいったいどんな風に書かれていて、どんな風に現場で作られていったのか?
実際の脚本を何としてでも見てみたい、と思わずにはいられなかったのです。

『カルテット』の脚本が書籍になって発売と聞いて、私はすぐさま手にしました。
実際のドラマでの演技と脚本との違いを見比べて、それを楽しむつもりで購入したのです。

結論から言うと、それはただの思い込みにしか過ぎませんでした。
「まさか」と思いました。

私がアドリブだろうと思っていた「来て」シーンの脚本には、しっかりと

   「来て。うん、来て」

と、2回の「来て」が書き記されていたのです。
「うん」という場つなぎの相づちのようなセリフまでも、はっきりと。

それだけではありません。
4人がわちゃわちゃと会話をするシーン、日常会話のような自然な受け答え……すべて脚本に準じていました。

これを見て、私はマンションのベランダから落ちてしまったような、階段から転げ落ちてしまったかのような衝撃を受けたのです。

アドリブのように見えるセリフや、演技は、すべて、脚本通りだったんだ。
脚本の坂元裕二さんは、あえてこんなセリフ回しにしているんだ。
それを、どこまでがアドリブで、どこまでが脚本通りか分からなくなるほど、出演者が自然にキャラクターを生きているだけだったんだ。

けれど、脚本で書かれているのは基本的にセリフだけで、「事細かに説明がされていない」のです。
それなのに、ドラマでは、生きている人の真に迫る演技とストーリーが描かれている。

いわばただの「文字」である脚本が、どうしてあんなに生き生きと立体的になるのだろう?

ふしぎな文字面をまじまじと見ながら、俳優さんこそ「究極の読書」をしているのでは、と思わずにはいられませんでした。

小説であれば、限られた文字数の中から、自分の頭の中に情景やキャラクターの心情をリアルに起こす。
ビジネス書であれば、自分のビジネスモデルにどのように有用できるかをシミュレーションしてみる。

けれど脚本には、ト書き以外、基本的にはセリフしかないとすると、小説のように登場人物の心情や、行動に至った動機を事細かに文章で説明するわけにもいかない。圧倒的に、情報量が少ない。
それなのに、私が見ている『カルテット』というドラマでは、一人ひとりのキャラクターが生き生きと動き、悩み、葛藤し、そして前に進んでいく。

限られた情報量から、自分がどう感じて、どう答えを出すのか。
そして「演技」という方法でアウトプットしていく。

そのアウトプットに至るまでに、俳優・女優さんは、どれだけのことを考えたのだろうと思うのです。

「読書」は、「読んで」「書く」と書きます。
読んで終わりではなく、書く=アウトプットまでをしてはじめて、「読書」は完結するのではないかと思います。

セリフだけという限られた情報から、3次元に起こすだなんて、どれだけフルで想像力を働かせるのでしょうか。

すべて事細かに説明されつくしているものを読むより、

「どうしてこのキャラは、こんな言葉を発したのか?」
「どうしてこのキャラは、こんな行動に出たのか?」
「どんなふうにこのキャラは、この言葉を言っているのか?」

ことばとことばの間に存在する「気持ち」を読み解き、自分なりの結論を出してアウトプット=演技することは、究極の「読書」なのではないか。そう思うのです。

そして私は普段、それだけ一つの物事に対して考え、答えを出すことができているか?
自問自答せずにはいられませんでした。

ドラマでは、高橋一生ふんする家森というキャラクターが、「『行間』って、わかる?」と熱弁していました。
それでいえば読書だって、最強の「行間案件」だったのです。
いや、読書のみならず、人間はそもそも「行間案件」なのかもしれない。

未だにどうしてあの人はこんな行動に出たのだろう、とか、なんでこんなことを言っているんだろう、とか、わからないでいます。
完全にわかるようになるなんて、自分じゃない誰かに入れ替わらない限り、有り得ない。そんなことは、わかっている。
けれど、その裏側に何があるのか、何を感じているのかーーーそれを積極的に想像しようとすることが、人を理解し、自分を理解することになるのだろうと思います。

だから私は「読書」をするのだろうし、こうして『カルテット』というドラマを毎週楽しみにしていたのだろうと、ふと、思うのです。

ここに出てくる俳優さんたちのように、すべてを意図して物語をつむぐ脚本家のように、
私も、「行間」を想像し、考えて考えて考え尽くして、常に自分としての答えだけは持っておきたい。そう思わずにはいられないのです。

 

* * *

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