映画『世界で一番美しい死体〜天狼院殺人事件〜』脚本ver.0《ドラフト》
◯天狼院書店・エレベーター前(夜)
暗闇の中、階段を駆け登る足音、乱れた息が聞こえる。
ドンドンドン、ドンドンドンと鉄扉が拳で叩かれる。
中から微かに聞こえていた話し声が、急に聞こえなくなる。
ドンドンドン、ドンドンドンと鉄扉を叩きながら、佐伯は扉の向こうに向かって言う。
佐伯「おれだ。おれだよ。大変なことになった」
しばらくの間、暗闇の静寂の中で、佐伯の乱れた息だけが聞こえる。
やがて、扉の向こうから声がする。
女性「当店はもう閉店していまして」
被せるように、
佐伯「知ってるよ! それで今やっているのが秘密結社ラボで、実態は本当の秘密結社なんだろ? いいから、早く開けてくれ。急を要することなんだって、マジで。佐伯が来たって店主に伝えてくれ」
女性「パスワードをお聞かせ願えますか。いかなる場合もパスワードをお持ちでない方はお入れできない規則となっております」
佐伯「そんなのいいって! 遊んでいる場合じゃないんだって!」
女性、抑揚を抑えた声で、ゆっくりとした口調で、
女性「パスワードを、お聞かせ願えますか。いかなる場合も、パスワードをお持ちでない方はお入れできない規則となっております。いかなる場合も、です」
くそ、めんどくせえな、と佐伯がつぶやく声が闇に響く。携帯電話を取り出し、電話をかける。
「あ、ひかるか、おれだよ。なんだかさ、パスワードを言わないと入れないとかって言ってるんだけど、おまえ、知らねえよな? ん? 知ってるのか? だから、どっちなんだよ、知ってるのか? 知らないのか? ん? 言えない? おまえ、それ知ってるってことじゃないか。で、パスワードは? あれ? 切りやがった、あのくそ・・・・・・」
持っている携帯電話が暗闇で明滅しながら、振動する。
開くとLINEの着信画面が出てくる。
ひかる『周りに人がいたので言えませんでした。パスワードは2629(34)です』
佐伯「なんだ? 電話番号か?」
と、その画面を見て言う。
佐伯「ちょっと! 中の人!」
扉を拳で叩く。
佐伯「パスワード、わかったよ!」
女性「承ります」
佐伯「その前に、いいか? パスワード、まさか、数字ってことはないよな? 普通、合言葉って・・・・・・」
女性、苛立った様子で、
「いいから、おっしゃってください」
わかったよ、と呟きながら、携帯電話を再び確認する。
佐伯「えっと、2・6・2・9・カッコ・・・・・・」
そこまで言ったところで、扉が開かれる。
佐伯の顔が中から溢れるオレンジ色の光で照らされる。
目の前には、ドレス姿の女性が立っている。
逆光で顔が定かには見えない。
女性、佐伯の耳元でささやくように、
「3・4です。ようこそ」
◯天狼院書店・店内(夜)
入り口以外の電気が消されているので、中にいる人の顔ははっきりとは見えない。
それでも10人以上がこたつを中心に集まっているのがわかる。
プロジェクターから光が射している。その光の先、北側には100インチのスクリーンがある。
どこからか、水が陶器を打つようなかすかな音が連続して聞こえている。
こたつの上には、空になったビール瓶が数多く乗せられている。
男性「佐伯恵太か」
その中のひとり、奥から、男性の声がする。
「脱がせ屋がなんの用だ。店主からはおまえが来るとは聞いていない」
マカダミアナッツを口に放り込み、咀嚼しながら、佐伯の方を睨みつけながら言う。
佐伯「怖いな、自己紹介しなくてもすでに筒抜けかよ」
と苦笑する。
男性「お前なんぞの小者の考えていることくらい、100年先まで読める」
佐伯「そんなこと、言っちゃっていいのかな、特ダネを持ってきたのに」
余裕の表情で言ったつもりが、顔がひきつっている。
背の高い、セクシーな女性中沢が茶化すように、
「それなら、丁重にもてなさないといけませんね」
違いない、とその場が嘲笑に包まれる。
セクシーな女性「でも、脱がせ屋がいつから情報屋に転職したのかしら? 脱がせ屋のときのように、今回も腕がいいんだったらすごいけど」
佐伯「まずは店主に見せたい。それで、店主は?」
見渡すが、その場には店主がいないようである。
水が陶器を打つようなかすかな音が連続して聞こえている。
佐伯、入り口のドレスの女性に目配せする。
「店主はまだ帰って来ておりません」
「あれ、だって、夕方、福岡から戻ってきたはずだろ? すぐに店に向かうって話しじゃ・・・・・・」
ドレスの女性、詰問するように、真摯な表情で、
「それ、誰から聞きました?」
これには、誰も茶化したりしない。沈黙してその回答を待っているようだった。
水が陶器を打つようなかすかな音だけが連続して聞こえている。
「いや、そのほら、情報源だよ。そうだ、おれの情報源だよ」
すかさず、マカダミアナッツの男性が言う。
「ひかるだな」
佐伯、何も言えなくなる。
セクシーな女性「とにかく、坊やのお遊びには付き合ってられないの。こっちは結構忙しいんだから。もうお引取り願えません? ゆきちゃん」
と、入り口の女性を見る。
はい、と入り口の女性ゆきは、ドアを開けて佐伯に笑顔で出るように促す。
佐伯、開き直ったように、
「仕方ねえな、わかった! わかったよ、あんたらに駆け引きするようなことをして悪かった。うん、おれが悪かった。こっちから手札を見せるよ。店主に最初に見せようと思ったんだけど、いないんなら仕方ない。見れば、急を要することだってわかるはずだ。あんたがたの存在意義に関わると思ってね」
マカダミアナッツの男「我々の存在意義だと?」
佐伯「そうさ、まず、これを見てくれ」
そう言って、手に持っていた封筒から、A4大に印刷した一枚の写真を取り出す。そしてゆきに手渡す。
それに映しだされているのは、眠ったか、あるいは死んだように見える、ウェディングドレス姿の美しい女性だった。
まず、ゆきはその写真を目を見開いて見ていた。そして、笑いがこみ上げるのを押さえながら、振り返り、セクシーな女性の方に持っていく。その場の面々が目を通すと、一斉に笑いに包まれた。
呆然とする佐伯、
「なにが可笑しいんだよ。ここで、人が殺されたのかも知れないんだぞ」
みろよ、と中のひとりが事も無げにスクリーンを指す。
そこには、佐伯が持ってきた写真とまったく同じものが映し出されていた。
セクシーな女性「わかってるわよ。だから結構忙しいって言ってるでしょ」
マカダミアナッツの男「お前なんぞの小者の考えていることくらい、100年先まで読める」
佐伯「でも、これがもし、インターネット上で拡散されたら・・・・・・」
マカダミアナッツの男「おい、我々を脅すつもりか。そんな脅しは通用しないぞ」
佐伯「試してみるか?」
そういう佐伯の顔はひきつっている。
いつしか、水が陶器を打つような音が聞こえなくなっている。
いや、とマカダミアナッツの男は溜息ながらに言う。
「その必要はないってことだよ。もうすでに拡散されている、爆発的にな」
スクリーンに投影されていた画面が切り替わる。
Twitterの画面にはリツイート、お気に入りの欄に「999+」が示されている。
佐伯「だって、この写真が撮られたのって・・・・・・」
貯められていた水が流される音がトイレの方からする。
本棚の向こう、トイレのドアが開く音がする。足音が向かってくる。
声「そう、今朝のことだよ。彼女が何者なのか、なぜ殺されたのか、ありていに言うと、我々は何一つ掴んでいない。我々が、だよ」
その姿を見た瞬間、佐伯の表情は固まる。
佐伯「どうして、あんたがここに・・・・・・」
声、その質問は斬新だね、と笑う。
「僕もその答えが聞きたいよ」
(フェード・アウト)
(フェード・イン)
「世界で一番美しい死体」の写真
タイトル:「世界で一番美しい死体〜天狼院殺人事件〜」
3月22日(日)上映
豊島公会堂
『世界で一番美しい死体〜天狼院殺人事件〜』
【お申込はFacebookページか問い合わせフォーム、もしくはお電話でもお受けします】
【3/22sun】天狼院映画部上映&劇団天狼院「春公演」【世界で一番美しい死体~天狼院殺人事件~】Facebookイベントページ
TEL:03-6914-3618
【天狼院公式Facebookページ】
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