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チーム天狼院

【大人はわかってくれない?】修学旅行で5分前行動をしたせいで理不尽に正座をさせられ、怒られた話 《川代ノート》


子供

 

「この世の中は、理不尽だ。大人は何もわかってない!」
そう思うようになったのは、いつからだっただろう。

どっかのフランス映画じゃないけれど、「大人はわかってくれない」という感情は、幼い頃から恒常的に抱いているような気がする。
理不尽なことで怒る、ちゃんと事実を確認していないのに決めつける、クラスの人気者がやるいたずらは「仕方ないなー、こいつぅ」で済まされるのに、私が同じいたずらをしたら「なんてことするんだ!」とめちゃくちゃ怒られる……。

世の中は不公平で、理不尽で、思い通りにいかないものなんだ。
大人なんか、私の気持ちなんかわかってくれないんだ。
だいたい、理解しようとすら、してくれないものなんだ。

そう思い続けて、もうすぐ早、24年が経過しようとしている。

ああ、そうだ、思い出した。世の中の理不尽さに、一番腹を立てたのはたぶん、小学生の頃だった。私はあのとき初めて、「大人」という存在に、死ぬほど腹を立てたのだ。

小学三年生の、修学旅行だったと思う。あまりはっきりとは覚えていないけれど、山の宿泊施設か何かに泊まった。合宿所の貸切という形ではなくて、一般客もいる大きな旅館だったと思う。
しおりにも分単位のスケジュールが書いてあって、持ち物も、「ハンカチ」「ちりがみ」「レジャーシート」とか、とても細かいチェックシートがあった。部屋割りもはっきり決められていて、「一般のお客さんにあいさつしましょう」とか、「〇〇小学校の代表としての意識を持ちましょう」とか、そういうルールもたくさん決められていた。

そしてその細かいルールの中でも、一番先生が強調していたのが、「5分前行動」だった。
五分前行動というのは、全部の予定の、5分前を想定して動きましょうというルールのことである。

たとえば、夕食:6時(1階 つばきの間)
としおりに書いてあったら、5時55分には席についているように。
常に先を読んで動きましょう、ということである。

「みなさん、今日泊まっているところには、みなさん以外のお客さんもたくさんいます。みなさんは〇〇小学校の生徒である看板を背負っているわけですから、迷惑をかけないようにしてくださいね。さて、一旦部屋に荷物を置きに行きましょう。次の集合は、3時にロビーです。さて、注意するべきことは?」

「ごふんまえこうどう!!!」

「はい、その通り。ということは、何時に集まればいいのかな?」

「にじごじゅうごふん!!!」

「はい、そうですね。それでは、楽しい修学旅行にしましょう!」

という具合である。たぶん、こういうの、ほとんどの人が経験があるだろう。

学年の腕白坊主たちは先生から言われた5分前行動なんて、解散したその瞬間にはもう忘れていたから全く意識しておらず、平気で遅刻したりしていたのだが、大人しく、小心者で先生にも頼りにされることが多かった私は、クソ真面目に「5分前行動!!」と濃い筆圧でしおりに書き込んだ。

楽しくみんなと遊んでいてもぶれなかった私は、とにかく真面目に5分前行動を守り続けた。学年のほとんどの子の頭からすっかり抜けていても、私だけは「ごふんまえこうどう、ごふんまえこうどう」とまるで呪いにかけられたかのようにつぶやいて、本当に5分前には次のレクリエーションに取り組めるように行動していた。先生に言われたことは、絶対だからだ。

が、問題が起きたのは、お風呂の時間である。

夕方の5時からお風呂の時間、としおりに書いてあった。そのときも真面目に「5分前行動」と意識していた私は、同じ班の子達と大浴場に向かう。

4時55分に大浴場のドアを開けると、予想に反して、おばあさんたちの集団が楽しそうに湯船に浸かっていた。
「あれ? 私たちだけで入るって書いてあったような気がする……」と疑問に思ったけれど、「ま、いっか別に」と私たちはそのまま大浴場に入り、シャワーを浴び、お風呂に入った。おばあさんたちは小学生だけで体を洗ったりしている私たちを微笑ましそうに見ていた。

特に問題もなく、普通に体を洗い、普通に湯船に浸かった。気がつくとおばあさんたちはいなくなっていた。
が、しかし、はー、さっぱりしたとほかほかした体で大浴場を出たところで待っていたのは、鬼の形相で仁王立ちする学年主任の先生だったのである。

「ちょっと、こっち来なさい」

え? 私たち、何か悪いことした?

ものすごい恐怖が一気に背中を駆け巡り、風呂に入って火照っていた体も一気に冷めていくのがわかった。
何せ、小学校に入学してから一度も怒られたことがないような子供である。いつも「みんなのお手本でいてね」と言われるようなタイプなのだ。地獄に落ちるような気分だった。

私たちは、先生たちが使っているであろう和室に入らされ、そして「座りなさい」と言われ、並んで正座させられた。

「どうして、他のお客さんが入っている時間に大浴場に入ったんだ?」

眉間にしわを寄せて、先生が言う。本気で怒っているようだった。
でも、私は何も言い訳出来なかった。だって本当に何も思いつかなかったのだ。自分たちが悪いことをした意識もなかったし、どうして怒られているのかも本当に疑問だった。さっさと怒っている理由を教えて欲しいと思った。それは私の友達も同じのようで、私たちは全員、何も言えずにただ黙りこくって正座をしていた。ひたすら、この時間が早く終わることを祈っていた。

「今回は他のお客さんもいるから、注意しなさいと言っただろう。どうして一般のお客さんしかお風呂に入ってはいけない時間帯に入ったんだ? しおりにも書いてあっただろう、××組のお風呂の時間帯は5時から5時半だって」

え?
だって、そ、それは……。

「ちゃんとしおりを見てなかったのか? だめだろう、ルールを守らなければ、困る人がいる。もう3年生なんだから、しっかりしなさい」

だって、だって、それは……。
それは、5分前行動しなさいって、先生が言ったから。

言わなきゃ。言わなきゃ。言わなきゃ。

私たちは何も悪くないって、言わなきゃ。

わかっているのに、喉元が痙攣したみたいに、うまく動かなくなっていた。

「……ごめん、なさい」

そして、やっと出てきた言葉は、それだけだった。

言い訳するんじゃない、とさらに怒られるのが怖くて、何も言えなかったのだ。「いい子」でいたかったから、反抗できなかった。何も言えない自分が悔しいのか、先生に怒られたのがただ、怖かったのか、なんだかよくわからないもやもやで心の中がぐちゃぐちゃが抑えきれなくて、涙が出た。

私が、悪かったのかな。
その夜、幼い頭でずっと、必死になって考えていた。
どうして私は怒られたんだろう。
きちんとしおりを見てはいたけれど、理解できなかったのがダメだったのだろうか。「入浴時間:5時〜5時半」ということは、それ以外の時間にはお風呂に入ってはいけない、ということだと察することができなかった私の頭の悪さがいけなかったのだろうか。
先生に確認してから行くべきだったのだろうか。

ふと見ると、夕食を食べたあと、はしゃいで旅館の廊下を走っている腕白小僧たちが、先生に「こーらー。走らない!」と笑いながら注意されていて、「はーい」「ほらぁ、だから走ったら怒られるっつったじゃん」なんて適当に返事をしていた。

あの子達は怒られないのに、私は怒られるんだ。

あの子達は、「廊下を走ってはいけない」って、「悪いことをしてる」ってわかった上で走っていても怒られないのに、「先生の言う通りにしなきゃ」と思って、5分前行動してた私は、あんなに怒られるんだ。

5分前行動なんて早とちりしないで、ちゃんとぴったりに行けばこんなことにはならなかった。バカ正直に言うことを聞いていたからこうなったんだ。だったら先生の言うことなんか初めから聞かなければよかったじゃないか。

わかんないよ。6時から食事で、5時55分に食堂に行くのは「正しい」のに、5時からお風呂の時間で、4時55分にお風呂に行くのは「ダメ」なんて、わかんないよ。
ちゃんと説明してくんなきゃ、わかんないよ。

 

 

 

 

それからだと思う。
「大人はわかってくれない」と、思うようになったのは。

幼いながらに、私はひどく腹を立てた。猛烈に腹を立てた。くだらないことだと思うかもしれない。けれど、たかが9歳かそこらである。そのときに感じた理不尽さを「くだらない」と一笑に付す精神力なんか持ち合わせちゃいなかった。

そしてあのとき感じた「大人」という存在への憤りを、そして何もできない自分への悔しさを、私はいまだに捨てきることができないでいる。

だからやっぱり何かと、こう呟いてしまう。

「大人は何もわかってない」
「この世は不公平だ」
「理不尽なことばっかりだし、私は損しやすい人間だ」

今年、私は24になるので、冷静に、よくよく考えれば、もういい加減「大人はずるい」とか「大人は大事なことを全然わかってない」とか、「大人」という存在に対して、文句を言える立場ではないのだけれど、それでもやっぱりやめられないのだ。
もう社会人2年目。モラトリアム期間は終わった。大学を卒業したばかりでもなく、かといって、社会人として一人前というわけでもなく。でも、じゃあ子供なのかと言われると、それも違う。大人でも、子供でもない、曖昧な存在。

あたし、今、どこにいるんだろう。

そういうことを、最近よく考えるようになった。
大学生の頃は、あれほど「レッテルを貼られるのは嫌だ」なんて思っていたのに、今となっては、気がつけば、やたらと何かしらのレッテルを求めている。「社会人二年目」「書店員」「若者」……。そういう、一括りでは見られたくないと、ずっと昔から思っていたはずなのに、「レッテルを貼って偏見でものごとを見る大人って超むかつく」と思っていたはずなのに、今はレッテルを求めている。「これだからゆとりは」と勝手に決め付けてステレオタイプに当てはめる「大人」に、腹を立てていたくせに、今じゃ、むしろ「ゆとりだから」と言われると安心してしまっているような気がする。「ゆとり世代」として分類されることによって、居場所を感じている。
心のどこかで、分類されたがっているし、型に当てはめて欲しがっている。

レッテルを貼られるのも嫌だけど、どこにも属すことができないのは、もっと嫌。
そんな矛盾した感情がどんどん湧き出てきて、だからやっぱりまだ、世の中のせいにしていたい。「大人はわかってくれない」と言っておきたい。
もはや何に対して怒っているのかわからないけれど、とりあえず「大人」や、「理不尽な世の中」のせいにしておきたいのだと思う。

 

 

 

そしてつい、この間のことだ。

 

仕事、全然終わんない。
自分が抱えている仕事量が多すぎる。
私はこんなに頑張っているのに、誰もほめてくれない。誰も認めてくれない。
これって、不公平じゃない?
あー、なんつーか、世の中って、ほんと、理不尽だな。

 

仕事からの帰り道、疲れ切ってぼんやりとまわらない頭に、そんな言葉がふっと浮かんできた。
そして、何も考えずにつぶやく。
「大人って、なんか、ほんと、何もわかってくれないっていうか……」

口にしてから、急にはっとした。

あれ、あたし、今、何考えてた?
急に頭の中が冷めていくのがわかった。

この道、選んだのも、あたしだよな。
冷静に考えて、仕事が終わんないのも、あたしのせいだよな。努力が足りないせいだよな。

しかもあたし、別に、褒められるほどのこと、まだ全然、できてない。

冷静に考えればわかることだ。
なのに、あたし、そういうの全部、「わかってくれない大人」とか「理不尽な世の中」のせいにしようと、してた?

「うわぁ……」

嫌悪感が、一気に押し寄せてきて、ため息が漏れた。
そうか、これって、一周巡り巡って、同族嫌悪なんだ。

私の心のどこかには未だに、あの鬼の形相のベテラン教師が仁王立ちしていて、そして、私はことあるごとに、そいつを心の中でグーパンすることによって、自分を納得させていたのだ。

本当は心のどこかで自分が悪いってわかっていて、でも自分の責任だって認めたらキツいので、認めたくない。だけどその状態を放置しているのも気持ち悪いから、あの鬼教師を引っ張ってきて、グーで殴りつける。

「大人ってほんと、わかってくれないよな」と言いながら、そいつが動かなくなるまで、ボコボコに殴る。

子供の頃、何も確認せずに「どうせちゃんとしおりを見なかったから、こういうことになったんだろう」と決め付けで話す大人が許せなかったはずなのに、今じゃ私も「こんなクソみたいな老害ばっかりいるせいで、私たち若者が活躍できないんだ」「どうせ大人はわかってくれないんだから」「どうせ世の中は理不尽だから」と、ぶあついフィルターをかけてものごとを判断していた。

やりゃー、いいんだよ。文句ばっか言ってないで、ただ、自分ができないなら、できるようになるまで、やりゃーよかったんだよ。

本当、気づくの、遅すぎ。
あー、本当、矛盾しまくってるなあ私、と思いながら、家路についた。

 

 

 

この世の中は、理不尽だ。

子供の頃から、ずっとそう思ってきた。
たしかに、そうかもしれない。

ちゃんと事実を確認せずに一方的に怒ってくる大人も、同じいたずらをしても別の評価をしてくる分からず屋の教師も、たしかに存在する。世の中は不公平だと思うこともあるし、なんで私がこんなことを、と思うこともある。

でも、それだけじゃない。
わかってくれない大人ばかりじゃない。少なくとも、今、私の周りには、わかってくれる大人が、たくさんいる。

 

この世の中は、理不尽だ。
でも、それ以上に、私は、理不尽だ。

一貫していないことで怒るし、自分が悪いことをすぐに大人や世の中のせいにするし、矛盾した行動ばかりとる。

でもそれは私だけじゃなくて、たぶん、人間という生き物自体がすごく、理不尽なものなのだ。いつも感情と理性のバランスを頑張って取ろうとしながら生きているから、仕方のないことなのだ。

だとすれば、別に世の中が理不尽だってことなんか、どうってことないじゃないか?
理不尽な人間がたくさん集まってできたものが世の中なら、そりゃ、一人の人間がバランスとるのよりよっぽど、難しいだろうよ。そりゃ、理不尽になっちまうだろうよ。全くもって、自然な流れだ。

こう思うと、やっと、納得がいった。

ここまで考えて、はー、と満足げなため息が勝手に出てしまった。

 

やっと納得できた。小3の頃からの長年の不満を、やっと解決することができた。

あー、よかった、すっきりすっきり。
まったく、ここまで考えないと納得させられない私って……。人間って……。

はあ、本当、理不尽で、めんどくさくて、面白い存在だよな、まったく。

 

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私の修学旅行では正座させられましたが、天狼院旅部では正座させられることはありません! 5分前行動もする必要はありません!!

あ、自分が正座したいというなら、お止めしませんが!!

 

ただし、ファナティック読書会という熱狂的に好きな本を語り合う罰ならあります!!

あと、富士山でとっても綺麗な写真を撮らなくちゃいけない罰もあります!!

あと、みんなでわいわいバーベキューをして、肉をおなかいっぱい食べなくちゃいけない罰もあります!!

あと、146人が受講している天狼院で大人気の文章教室ライティング・ゼミの番外編で、夜通し文章を書きまくる罰もあります!!

あー、つらいな! マジでつらい! 本当、理不尽だわ!!

というわけで、そういう辛い罰を受けたくないという人は、来ないでくださいねーーー!!!

そんなにつらい罰、あえて受けるわ!! という、強靭な精神の方は、お待ちしております!!!

 

 

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