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メディアグランプリ

見合いという仕組みの果てにあるもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:関 伸夫(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
「ただいま」
「お帰りなさい。長いことお疲れさまでした」
「!」
 
定年の日、花束を手に家に帰って玄関の扉を開けた私を、ニッコリ笑顔で三つ指をついた妻と手作りのウェルカムボードがむかえてくれた。
感激と安堵と感謝ともろもろの感情が押し寄せてきて、「ありがとう…」というのがせいいっぱい。
『俺はこんなことをしてもらえる夫だったんだろうか?』
頭の中を30年間の出来事が一度に走りまわった。
 
「ではあとは若いお二人で……」と典型的な映画の一幕のようにおじさんおばさんに言われて家を追い出され、愛車の中古シビックに未来の妻を乗せて池袋の東武百貨店に行き、私はチーズケーキとコーヒー、彼女はショートケーキと紅茶を飲んだらしい。
「らしい」というのは私はほとんど当日の記憶がなく、彼女がしっかり覚えていて、「ナイフとフォークの使い方がすごくきれいな人だと思った」そうだ。
そんなことを覚えてもらっていて嬉しいが、ずっとあとになって実は妻は食べ物が関係したことは何年たってもしっかり覚えているということがわかった。
 
今は息子、娘のために親の婚活があるそうだが、こういうむかしながらの〝見合い〟というシステムは機能しているんだろうか?
おたがい写真と履歴でしか相手のことがわからず、両方の家のことを知っている人が間に立って場づくりをしてくれて当人たちは初対面でぎこちない話をしてちょっと2人だけでお茶でも飲み、その日は別れて、その後つきあうかどうかを決めて紹介者を通じてやり取りをする。
その時点でどちらかかが間に立ってくれた人に、「たいへんすばらしい方をご紹介いただきありがとうございます。ただちょっと私には立派すぎて今後のお付き合いにも自信が持てません。恐縮ですが、そのように〇〇さまにお話しいただけませんでしょうか…つまりわかりやすい言葉にすると、気に入らないので断ってください」と言い出せばそこで終わり。
 
さいわい私たちはおたがい、「結婚を前提にお付き合いさせていただきます」と答えたのでデートが始まった。
しかし当然のごとくちょっと前までまったく知らない人間同士が突然結婚前提100%の付き合いとなるので、この時点でおたがいいろいろな性格や考え方の違いに気づく。
 
たとえば私はデートに限らず仕事でも何でも20~30分前には待ち合わせ場所に行っている性格だが、彼女は待ち合わせ時間に一回も!間に合ったことがない。
携帯など無い時代のことなので状況を確認しようがなく毎回、う~まだか~と思う。
恐らく恋愛中のカップルなら、「いいかげんにしろよ!」と爆発するかもしれない。
でも最初から性格が合っているという期待感が無いので、女ってそんなものか、心が狭いと思われたくないしな~という感じで流せる。
 
そしてデートを重ね、「俺でいい?」「うん」という感じで軽く意思の確認が行われ、指輪の準備をして結納というステップを経て、「3月31日を過ぎると30歳になるんだけどいいかな?」「気にしないから大丈夫」「必ず休みだから結婚式は祭日がいいよね」とあちこち電話してちょうど5月5日が空いていたパレスホテルで式を予約し新婚旅行も決めた。
ここまで約2か月。
 
そして結婚してから恋愛の山登りが始まる。
恋愛結婚とは異なりおたがいによく知り合っているわけではない。
毎日新しい発見がある。
食事の好き嫌い、作るメニュー、味付けも違う。
ナイフとフォークの使いかたはきれいなのに箸の使い方はダメと言われて直された。
証券会社をやめて私の両親と同居の生活を始めたのでそちらも当然のようにいろいろマサツが起きる。
車の運転なんか恐いからいやと言っていたのにある時、「教習所に通いたい」と言い出した。
つまりずっと家にいると気がめいってしまうということ。
子どもの育て方のことで両親と意見が食い違うこともいっぱいあった。
 
でも妻と私の両親がぶつかった時には私は必ず妻の味方。
しまいにオフクロがオヤジに、「たまには私の味方をしてくれてもいいじゃないですか!」と小噴火したくらい。
だって一人でこの家に来てくれたんだから当然じゃないか。
 
もちろんそんなきれいごとばかりではなく私が何かのきっかけで、「60歳で定年になると奥さんの方から別れ話が持ち出されることもあるらしいね」と他人事のように話題にしたときにちょっと考えていた妻から、「私、そういう奥さんの気持ちってとってもよくわかるわ」というでかいナイフが飛んできたりしたこともあるので、私が特別よくできた夫だったなんてこともなく性格が一致していたわけでもない。
でも振り返ると見合いという仕組みでスタートした私たち夫婦は、最初からお互いに今まで知らなかった相手のことを無意識にもっと良く知ろうとして距離が縮まったのかもしれない。
 
毎日仕事から帰ってくるまで待っている妻と一緒に風呂に入り、夕食を食べ、いろいろな会話をしてツインのベッドの片側で手をつないで折り重なるように寝る。
土曜日は私がボランティアをしている障がい者施設に2人で行くこともあり、妻が茶道教室をするときは弟子の私が準備を手伝う。
料理はできるだけ一緒にやる。
そうすると調理の技術だけではなく料理に合わせた食器を出し、食べたあとは食器をシンクに移し、無駄な水や洗剤を使わないようにしながら汚れが残らないように洗って拭いて乾かして食器棚のもとの場所に戻すというような名もない家事がいかに多いかよくわかる。
知れば知るほど主婦って本当に大変。
 
定年後は寝る場所も分けておたがいのかかわりあいを減らす夫婦もあるらしい。
でも妻はありがたいことに、「やだそんなの。せっかく一緒にいられるようになったのにね」と言っている。
 
誰が考えたか知らないが見合いという仕組みはすばらしい!
いつの間にか昔々の燃えるような恋愛感情を見合いの亀が追い越していることに気づく。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-11-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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