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メディアグランプリ

都会派? 田舎派? それとも……《ピカルのネタ帳》


「ほら、あれだよ。『町のねずみと田舎のねずみ』なんじゃない?」

 

ゴールデンウィーク。私は数日間、栃木の実家に帰ることになった。東京から栃木まで母の運転である。車内では母と妹、そして私の3人で会話が繰り広げられていた。
母が言った。

「『町のねずみと田舎のねずみ』なんじゃない?」

私は返す。

「どういうこと?」

「イソップ童話だよ。田舎のねずみがごちそうを振る舞おうとして、仲良しの町のねずみを家に招待するんだけど、出された食事は麦や大根、どんぐり。町のねずみは質素で退屈な田舎の生活に呆れて、今度は田舎のねずみを町に誘うの。町のねずみが住む豪邸ではチーズや肉、お菓子があって田舎のねずみは喜んで食べようとするんだけど、そこへ人や猫が入ってきて慌てて逃げることになる。そして田舎のねずみは言うんだよ。『ここには贅沢やごちそうがあるけれど、私は粗末で質素な生活でも安全で落ち着ける田舎のほうが好きだ』って」

『町のねずみと田舎のねずみ』、かぁ。

母は続ける。

「それで、私たちは安心できる田舎が好きだから、都会に満足しているひかるとは違うんだよ、ね?」

そう言って母は妹に視線を送る。
聞き上手な妹は相槌を打つ。

「うん。この前池袋に行ったとき思ったもん。ひかるちゃん、こんな人混みの中で毎日過ごしているなんてありえない。私には無理」

確かに。
確かに人は多い。人混みの中、挙動不審な私は危ないと思う。特に駅なんかでは、めまぐるしく移動する人々を上手く切り抜けるのに必死である。

でも。
でも魅力も多い。電車に乗って、好きなだけ映画を観に行くことができる。私は電車に乗って揺れている時間が好きである。電車の中から見える東京の夜景も好きである。

例えば池袋。
夕方、大学の授業を終えて急いであの場所へと向かう。電車を乗り継いで池袋駅を目指す。池袋駅に着くと東口を抜け、外に出る。

そこには、『艶』がある。

様々な建物が掲げるネオンサインか大人の女性たちか、あるいは都会独特の高級感か。何がそれを醸し出しているのかは分からないが、確実に『艶』があるのだ。『艶』を感じると私の瞳は潤う。そして初めて実感する、「ああ、池袋に来たな」と。

私は答える。

「東京に来てから1年以上経って、都会に慣れてきたのかな。だって、ホームシックにもならないし。『寂しい』とか全く思わない。ここまでくると逆に、ちょっとはホームシックになったほうがいいんじゃないかって不安になるよ。ハハハ」

すかさず母は返す。

「ま、ひかるは自分中心で生きてるから」

私も負けじと

「母親に似たんだな。ハハハ」

そうなのだ。私は一人暮らしをしていても寂しいと感じない。むしろ、「自由」を感じて落ち着く。

東京にはおもしろい人やおもしろい場所がたくさんある。
いちいちおもしろがって過ごしていれば、あっという間に時間は過ぎる。

それにしても。
私は都会の人間なのだろうか。

東京にいても相変わらず子どもで、大人の女性にはほど遠くて、相変わらず人混みではおどおどしていて、相変わらず派手な建物を見上げながら歩いている。

では、田舎の人間なのだろうか。

ふと、母は漏らした。

「ひかるは東京の大学を卒業して、東京で就職して、一生東京で暮らすんだろうね」

うん。そんな気がする。

今のところ、私はどちらにもなれていないようだ。
都会に染まるわけでもなく、田舎に染まるわけでもなく。

新宿に行けば、ダイナミックな映画館を見上げて、何度でも初めて来た子どものようにはしゃぐ。
渋谷に行けば、「誰にも飲まれるまい、どこにも染まるまい」と自分に言い聞かせながら、堂々とスクランブル交差点を渡る。
そして、池袋に行けば、今日の艶めきを分析して胸を躍らせつつ、お気に入りのあの場所へと向かう。

いつものように空気を読んで、妹は言った。

「私はずっと栃木にいるよ。東京はたまに行くくらいがちょうどいいね」

母も同意する。

「私もやっぱり田舎が落ち着くわ。でも、ひかるはどんどん新しいものやおもしろいことが生み出される、そんな刺激的な都会が性に合うのね。だから―」

だから、天狼院に行くんでしょ?

この一言が答えであった。すべてを見透かしていた。

私が染まりたいのは天狼院である。天狼院の『熱』に染まりたいのである。

こたつ。カフェ。まるで実家のように過ごすお客さん。

天狼院書店の第一印象はこんな感じだろうか。表面上ではすべてが『落ち着き』を演出している。

ここで、もっと注意深く見てみよう。

“ファナティック”読書会。“本気”の部活。“パワフル”なスタッフ。そして、“フルスロットル”な店主。

もう、お気付きかな。
そう、ここは知れば知るほど情熱的で、可能性を秘めた場所なのである。

気付いたもん勝ちなのだ。
だから私は、とことんこの熱に染まって、可能性を追求する。
もっと先へ。もっと奥へ。熱の発生源まで。

 

「新宿、まもなく新宿です」

私は今、栃木から東京へのバスの中、こんな文書を書いている。
ノートPCとにらめっこして夢中で文書を書いていたら、いつの間にか、窓から見える景色は東京の夜景に変わっていた。
どうやらもうすぐ終点らしい。
再び東京へ帰る。

なにかおもしろいことないかなー。

そうだ、明日も天狼院に行こうっと。

 

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2015-05-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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