拝啓、父上様。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:池田真奈美(ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
もう何年になるのだろうか。
いつからだったのかでさえ忘れてしまった。
それぐらい、きっかけは些細なことだったと思う。
父とまともに会話をしていない。
それで、いいと思っていた。ほんの少し前までは。
わたしと父は似ている。
顔も性格も。母からも周りの親戚からもそう言われていた。
でもそう言われることが何だか昔から嫌だった。ただ何となく嫌だったのだ。
その「何となく」といった子供のときの感覚は不思議なもので、断片的な部分しか覚えていない記憶が、絶対であるかのように今も私の心に存在していたりする。
わたしは、小さな頃からお稽古をさせられる家庭だった。月曜日はピアノ、火曜は水泳、水曜はそろばん、木曜は習字・・・・・・そんな具合で友達と遊ぶ時間は他の子よりも少なったのかもしれない。当時で言えば、「お稽古をさせてもらえる」ぐらい恵まれた家庭だったのだと思う。父は子供のためにたくさんのことをしてくれた。夏休みには、数週間いないことも多く、山へキャンプをしに行き、そのまま三重県のおばあちゃん家まで行き、さらに一緒に家族みんなで海水浴をしに旅行をしたものだった。渋滞を避けるために決まって夜中の出発だったが、その車中で食べるおにぎりは、大人になった気分で嬉しかったことをよく覚えている。
小学校低学年のときのこと。父に連れられ、お家の近くにあるマクドナルドへよく行っていた。ハッピーセットに付いてくる玩具がお目当てとかそんなとこだろう。噛まずに早く食べると怒られていたが、あれはお腹が空いているからでも何でもなかった。当時お父さんとふたりで一緒にご飯を食べていたら、お母さんがいないって思われてしまう。周りを気にして「早く出たい」そんな感覚が子供心にあり、ハンバーガーを食べるスピードが速かったのだ。今では笑ってしまうけど、幼いわたしは本気で思っていた。
父は、頑固親父で気が短く、決して子供のことを褒めない。大人になるにつれ、その威圧的な感じが大嫌いで、高校生のときは口を聞かなかった。いわゆる反抗期だろう。それでも、一緒に暮らしているからか、互いにいつの間にか何に怒っているのか分からなくなり、時間がわたしと父の距離を繋いでくれた。きっと母はたくさん心配をしたと思う。
「あんたたちは、よく似ている。偏屈で頑固で意地っ張り。でも寂しがりで周りを気にしすぎるところがあり、素直じゃない。だから面倒くさい。でも一番あんたのことを心配しているのはお父さんなんだよ。口下手だから、思ったことと違うことを言ってしまうけど、分かってほしい。あんたに口を聞かない代わりに、わたしにあんたのことを色々聞いてくるんだから。」
母は気をやきもきしながら、よく言っていた。
そうやって振り返ると、父との想い出は何だかんだ、たくさんある。
でも今はない。なぜなら、会話をしていないから。
距離が離れてしまったという物理的な理由ではない、ココロの距離。
「昔」の父は知っているけど、「今」の父は知らないのだ。
もう一度言う。
それで良いと思っていた。この数日前までは。
でも、この天狼院ライティング・ゼミを受けることで考えが変わった。
もともとこのゼミを受けた理由は、書き手として読み手である人へ想いを届けたい。仕事に生かしたい。そんな風に思って何気なく応募してみた。そんな理由もるけれど、文章を書くことは、シンプルに自分のココロと向き合うことであることを学んだ。だからわたしが今行うべきは、多くの人へ届ける文章を書く前に、父に向けてこの文章を書くことであると気付いたのだ。
そう、わたしはいまこの文章を一人の人のために書いている。
きっと、いつかは父と向き合わなければいけない。
その「いつか」は、もしかしたら一生やってこないかもしれない。
だから私はそのいつかを、「今」向き合えるよう、父と話をするきっかけを作るチャンスのために、この文章を書いている。
これがわたしの「リアルストーリー」である。
ありふれた、一家族の日常。でも、ほんの小さなことがきっかけに、自分の人生のなかで「ヒーローズジャーニー」は起きるかもしれないということを伝えたい。
今年のお正月は、父の好きな日本酒を持って、実家に遊びに行ってみようと思う。
今までにない緊張感と、気恥ずかしさを胸に抱えながら、大切な父に向かってこう言いたい。
「お父さん、ただいま」
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