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それはわたしがブスだからに違いない


記事:なかむらともこ(ライティング・ラボ)

渋谷の街歩いていると、前方で男が何かを配っているのが見えた。

配っているのは、全身黒ずくめの若い男。手にはチラシのような紙片を持っている。

私は、そちらに向かって歩いていた。

見ていると、女性にだけ手渡している。受け取る人はほとんどいない。なかには、ツンとして通り過ぎる人もいる。

チャラチャラした格好の男だ。どうせ、いかがわしい勧誘のチラシに違いない。

だんだん私は、その黒ずくめに近づいていく。

もうすぐ私の番だ。

どうやって断ろう。

軽く会釈をして拒否するか。

あえて離れた所を歩くか。

男の前に来た。

ん?

くれない。

通り過ぎてしまった。

どうして?

どうして私にはくれないの?

別に欲しかったわけじゃないけど。断るつもりだったけど。

でも、渡されないなんて。

(私がブスだからに違いない)

愕然として、私は渋谷の街をてくてくと歩く。

飲食店に入った。

「お一人さまですか。こちらのお席へどうぞ」

通されたのは、店の隅。観葉植物の陰である。

え? この席なの? 他にも空いている席はあるのに?

そこは死角だ。オーダーするときに、店員さんに気付いてもらえないかもしれない。それでなくても、私はオーラが薄いというのに。

唖然として、思わず店員さんの顔を見る。その人は、涼しい顔をして微笑んでいた。

(私が垢抜けないからなのね? 私には華がないから、いい席には案内したくないんでしょ)

私は勝手にそう確信する。

 「あちらの席にしてもいいですか」

 そう言う勇気もなくて、私は案内された席におとなしく座る。

こうして、私は日常の小さな経験から、自分の器量の悪さを思い知るのである。

 いや。日々の冴えない出来事の原因を、自分の容姿の悪さに結び付けてしまうのだ。

 何でもかんでも、自分がブスのせい。

被害妄想も甚だしい。

 「空があんなに青いのも、電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも、みんなあたしが悪いのよ」という都都逸があったが、その「みんなあたしが悪いのよ」を「みんな私がブスだから」に変えたようなものである。

 もっと美人に生まれていればなぁ。

 もし、明日の朝、目が覚めたときに顔が綾瀬はるかになっていたりしたら……。

もう人生はこっちのものだ。皆からチヤホヤしてもらえる。知らない人からも愛想よくされ、他人から愛想よくされると、こちらもいじけたりすることがないから性格がよくなり、性格がいいと益々チヤホヤされ……。人生がパラダイスとなるに違いない。

 私だって、なにも最初からこれほどいじけていたわけではない。

 少なくとも、高校生ぐらいまではもう少し強気だった。いや、ただ勘違いしていただけなのかもしれない。

その頃のある日のこと、ミニスカートをはいて出かけようとした私を、ばか丸出しで全然似合っていないと、兄がたしなめたことがある。そのとき私は、

 「お兄ちゃんには、私のよさが分からないのよ!」

と、言い返したのだった。

 私の強気もあの頃がピークだ。その後は、世間で揉まれるうちに、自分というものへの認識をすっかり改めてしまった。

 三月初旬に、私は初めて天狼院書店に行った。

 憧れの天狼院。行きたくて行きたくてたまらなかった天狼院。その天狼院に行く。店内はどんな感じなのだろう。私は、宙に浮いたような足取りで書店に向かった。

 初めて訪れた天狼院は、思っていたよりずっと狭かった。

 でも、蔵書の内容は充実していて、私にはまほろばのような所だ。

 背後から、明るく大きな話し声が聞こえた。振り向くと、店長の三浦さんがいる。あの「はぐれメタル」と言われている三浦さんだ。

「はぐれメタル」とは、ドラクエの、滅多にでてこないレアなメタルのこと。忙しい三浦さんは、その姿を滅多にお店で見かけることがない。だから「はぐれメタル」。この頃も、映画製作でてんてこ舞いのはずだった。

 二、三人の方と談笑されている。どの人にも華があって、素敵な方々が仲良く語らっているように見える。眩しいなぁ。その周りに見えないバリアが張られているみたい。

 皆さんそれぞれ、第一線で活躍されている方なんだろうなぁ。私の妄想は膨らむ一方である。

そして、圧倒されて、怯む。

 この場で、私一人がイケていない。私一人が恰好わるくて、この場にふさわしくないような気がしてくる。

 すみません。私、野暮ったいです。

 店の奥の書棚も見たい。でも、その近くで皆さんが談笑されているから、気後れして近づけない。

 だって、私はイモなんだもの。

 店内やカウンターには、スタッフさん達がいた。HPで名前を見るあの人達だ。

凄い。本物がいる。皆さん仕事ができそうで、活き活きしてみえて、カッコいい。

 話したいことが沢山ある。聞きたいことが山ほどある。でも、とても話しかけられない。だって、私オバサンくさいんだもの。

 どんなに好条件に自分の身をおいても、それを楽しむためには、こちら側にもパワーが必要だ。

 そのパワーの欠如を見透かされているような気がして、おどおどしてしまう。

 こちらの動揺を悟られないように、わざと優雅にカウンターに近づいた。

 そして、書棚を指さす。

 「あれと同じ本をください」

 スタッフさんは、にっこりとする。

 「どうぞお取りください

 「え? あれは売り物なんですか」

 ああ。私は何を言っているのだろう。書店の棚の本が売り物でなくて、何だというのだ。

 その後の私は、ますます挙動不審となり、一冊の本を買ってあたふたと店を後にした。

 天狼院からの帰り道に、つくづく思った。

 これは損だ。

 言いたいことも言えないなんて。聞きたいことも聞けないなんて。

損だ。

 本当は気付いている。ブスだから損なのではなくて、「自分はブスだから」と勝手に決めつけて自分の行動を制約していることが損なのだ。これでは、せっかくのチャンスも活かせやしない。

 自分で自分に枷をはめていては、世界が広がっていかない。

 うんうん、そうだよね、そのとおりだわ。だから、今日からその枷を外そう。

 そう頭では分かっていても、実際には尻込みする自分がいる。

 そして、そんなやさぐれた私に、天から教示が下ったのだった。

 先日、私は知人宅で、知人達とその子供とトランプをした。簡単な七並べである。

 相手が子供であろうと、我々は手加減をしない。本気でゲームをする。

 結局は、大人ばかりが勝ち、子供は一度も勝てなかった。

 「僕にはカスみたいなカードしか配られないんだもん。もっといいカードをちょうだいよぅ」

 子供は半泣きだ。

 「いいか。頭を使え。持ってるカードを使って勝つ方法を考えるんだ

 その子の父親は、軽くいなした。

「このおばちゃんだって、最初からいいカードを持っていたかどうか分からないんだぞ」

 私のことを、おばちゃんと言ったな。おばちゃんじゃない。

 「自分の持ち駒をいかに活かすか、ってことなんだ。つまりな、どんなカードが配られたかで決まるんじゃなくて、持ってるカードをどう使うかってことが、大切なんだぞ」

 そうそう、と私は頷きながら、はっと気付いた。

 これって、まさに今の私の状況そのものじゃない。

 自分の持ち駒……容姿ばかりでなく、特技や思考、どんな家庭に生まれて、どんな環境に育ったか……、自分を作るありとあらゆる要素が、人それぞれ皆違う。

 その、自分の持ち駒をどう活かすか。

 一人ひとりに与えられるものが違うという意味では、不平等なのかもしれない。けれども、どの人も、それらの持ち駒を自分で選んだのではなく、一方的に与えられたのだ。そういう意味においては、平等だ。

 配られたカードがよくないからといって、ブリブリ言っている場合じゃない。

持っているカードを活かすも殺すも、自分次第なのである。私のカードが、どんな威力を秘めているか分からない。

 冴えない出来事の原因を、持ち駒のせいにしていれば楽だ。ブスだから○○なのだといじけることで、こればっかりは不可抗力だから仕方がないと、自分に言い訳できる。

 それでは、いつまで経っても人生のゲームであがれない。

ようし。これからは快進撃でいこう。

フェイスブックを開けば、今日も美しい方々が自撮りした写真をアップしている。

 てやんでぇ!

 ネット広告の言葉が躍る。「一重まぶたさん必見! もう地味顔なんて言わせないアイメイク法」

 しゃらくせぇ!

 「あなたのくすみ肌は、10歳老けて見えます」

 上等だぜ!

 私は決めたのだ。これからは攻勢に出る。

 そして、気持ちに余裕のできた私は、そこから更に進んで、“最初にいいカードは配られないほうがよいのかもしれない”と、思うまでになった。

 人生のゲームで、いいカードを出して簡単に勝っても面白くない。

 最初に配られた(カスかもしれない)カードが、私のなかで温められ、成長し、その価値を見出されて、ここぞというときに、そのカードがビシーッときられる。そのほうが断然興奮するじゃないか。それがゲームの醍醐味というものだ。

そして、場合によっては、私に最良の使われ方をされたカードは、もともと強いとされるカードよりも、はるかに見事な役割を果たすかもしれない。

これは、ブスの負け惜しみと思われるかも……。

ブスの開き直りと嗤われるかも……。

怖じ気心がそうささやく。でも、私は挫けない。

もし、今後私にダメ出しをする人がいたら、こう言ってやろう。

「あなたには、私のよさがわからないのよ」と。

***

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