1/50,000,000の確率で生き延びた私
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記事:わかっぺ(ライティング・ゼミ 冬休み集中コース)
雷に打たれたことある方いますか?
はい、私、打たれました。
色々とレアな経験をされたことがある方はいらっしゃると思いますが、その中でも雷の打たれる確率は、ジャンボ宝くじに当たる確率と同じくらい珍しいことで、1/10,000,000だそうです。さらに雷に打たれた人のうちで、生きている人は、5人に1人だそうで、つまり、1/50,000,000の確率で私は生き残ることができたわけです。
その当時、私はアメリカのサウスカロライナという南東部に住んでいました。そこは日本とは気候が全く違い、夏は非常に暑く、スコールのような豪雨が夕方頃になると連日続きます。雷も頻繁に鳴るため、アメリカに来た当初は怖くて怖くて仕方がありませんでした。けれど、ここサウスカロライナでは夏にはよくあることで、雷が鳴り、豪雨になれば、みんなしばらくの間、建物に避難して、豪雨が通り過ぎるのを待ちます。数十分も待っていれば、雨が止むことがわかっているし、豪雨の時は傘をさしても意味がなく、ずぶ濡れになってしまうので、傘をさして外に出る、という発想がないようです。そして、恐ろしいことに雷が木に落ちることがままあり、大きな木がなぎ倒されて道路を塞ぐ、ということもよくありました。これも、こちらの人たちは慣れっこで、アメリカにきた当初は私はかなり驚いていましたが、このようなことがちょくちょくあると、私も雷にだんだんと慣れていきました。つまり、雷というものに対して、油断が生まれていました。
そんな夏のある日の夕方、私は急いでいました。雷が近くで鳴っていることも知っていました。雨も降っていました。しかし、私はその日、どうしても車で出かける用事があり、自分の研究所から少し離れた駐車場に急いでいました。そのまま外に出たのではずぶ濡れになってしまうし、かといって、急いでいるので、雨が通りすぎるのを待つほどの時間の余裕もない。どうしたらいいものか、と迷ったけれども、今急いでいることを優先せざるを得ない、と自分の中で結論づけ、研究所に置いてあった傘を持ち、外に出ました。雷の光と音のズレが少ないと雷が近い、とどこかで聞いたことはあったけれど、外に出るとまさにその状態で、雷が光ってからすぐに大きな雷の轟が聞こえました。
私は左手に傘を持ち、小走りで駐車場に向かいました。その瞬間。
ドーン。
バチバチ。
一瞬目が眩むかのような見事なまでの明るい真っ白い火花が、傘を持っている私の左手と傘の間に散りました。その瞬間、持っていた傘が手から離れ落ちました。
一瞬私は何が起きたのか分からず、呆然とし、しかし、すぐに自分が雷に打たれたことがわかりました。
「生きてる」どうやら意識は清明で、大きな外傷はなさそうだけれども、自分の左腕から左手にかけて、まさに火花が散った私の左手がビリビリと麻痺していることに気づきました。しかし、今この瞬間もすぐ近くで雷が鳴っています。
ここで初めて私は
「やばい。死ぬかも。雷に打たれる」と恐怖に襲われ、心臓がバクバクし始めました。どこかに逃げ込むべきなのか、駐車場までいくべきなのか。しかし、雷に打たれた私は、混乱し、逃げ込める丁度良い場所もとっさには判断できず、ただひたすら駐車場の自分の車にまで逃げ込む事しか考えられませんでした。
ただひたすら駐車場まで全力で走りました。怖くて怖くて、雷の音を聞きながら、ただひたすら走りました。自分は死ぬかもしれない、と思いながら走る数十メートルは、本当に恐怖で、戦場の中を走り抜けている気持ちでした。
恐怖の中、祈る気持ちで走り続け、自分の車の中に滑りこみました。
車の中に入った瞬間、ようやく安堵し、身体中の力が抜けていくのが分かりました。しばらく私は車の中で呆然としていました。
「助かった」
2週間ほどで、火花が散った私の手の痺れもすっかり取れ、雷の後遺症もなく、いつもの日常に戻りました。
「そんな体験をしたら、人生観変わるでしょ? 生かされているって思うでしょ」とよく言われました。しかし当時は、残念ながらこれっぽっちも人生観が変わったとは思いませんでした。
けれど、あれから7年程経ち、今になってなんとなく思います。私って、ものすごく強運だな、と。生かされている、とか、自分の使命はなんぞや、とまでの境地には達していないけれど、こうやって今毎日があることに、ただただ、ありがとうございます、という気持ち。その程度にしか思えないことに少し罪悪感も感じるけれど、雷に打たれたからといって、そんなに人は劇的には変わらないようです。けれど、私は1/50,000,000の確率で今生きています。
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