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子どもがいる人生といない人生どちらがいいですか?<不妊治療を受けて>

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記事:滝澤 優子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「とうとう来月で40歳か」
ゴールでもありスタートでもある、人生の節目のときが来た。
 
そこから4年前のある日、36歳になった私は実父から言われた。
「あきらくんも、子どもがいればもう少し張り合いがあるんじゃないかな」
「子ども?」
「そう。毎日、家の中だけじゃあ気が滅入って大変だろう?」
 
その年、夫はうつ病と診断され休職していた。子猫の時から飼っているペルシャ猫をとてもかわいがっていたが、父からのそんな言葉を受けて、子ども好きな夫にとっては「子どもがいる生活」がスペシャルなことのように思えた。
 
結婚してから1年間子どもが授からないカップルは「不妊」とされている。女性の社会進出の影響もあって、晩婚化が進んでいるのと忙しい夫婦にとって1年はあっという間であるということかと思う。不妊治療によって生まれた子どもは、15年前は50人に1人の割合だったが、今や17人に1人の割合という衝撃の事実だ。珍しくないのである。35歳を超えると高齢出産の意味である「まるこう」と言われる。さあ36歳、スタートしないわけがない。
 
そうして、不妊治療はスタートした。
 
病院は数日かけて慎重に選び出した。
背筋を伸ばして予約の電話をした。なかなかつながらない。留守番電話にならないのでしばらく鳴らしたと思う。やっと明るい受付の方の声。ホッとして初診日を相談すると提案されたのは二週間後、しかも平日昼間だ。
「ご夫婦で来てください」と言われた。
平日の昼間に?! 二人して休みを取る必要があった。
 
当日、予約時間の10分前に到着しておそるおそるドアを開けた。そこは外の静けさとは打って変わって多くの人でごった返していた。診察待ちの人たちが椅子に座り切れず、受付前で立っているが立つ場所に困るくらいだ。
何だこれは?ここは病院じゃないのか?
朝の通勤ラッシュに近い混雑具合。軽いショックを受けた。
 
それ以降、毎度状況は変わらなかった。
 
最初は「明日か明後日、夫婦生活してくださいね」と言われる。
聞きなれない言葉に「夫婦生活、ですか?」と聞き直すと、
「セックスしてください」
とはっきりとした返事が来た。おお、きっとみんな聞いているんだろうな、と新鮮に感じた。
大混雑な状況や特有な言葉にも慣れ、いろいろとトライして4年目に入った私は最終ステージにたどり着いてしまった。
 
不妊治療は、「おりひめさま」と「ひこぼしさま」を引き合わせるチャンスが月に一度めぐってくるイメージだ。天気がいいからこの日がいいよ、とアドバイスを受け会えればOK。会えなければ、最終手段はタクシーに乗っけて連れて行ってくれる。残念ながら、宇宙は広いということと年々天気が悪くなり、簡単に相手を見つけられなくなるのだ。
 
最終手段とは私の場合、卵子に精子を注射器で直接入れ受精卵にしたものを体内に戻す「顕微授精(けんびじゅせい)」という、直接的でアクロバティックなものである。
それでも妊娠しない私は焦って先生に聞いてみた。
「卵がうまく発育しないことが分かっている場合には先に進まないようにプログラムされているんですよ」
どうやら最後は生命の神秘ということらしい。
 
そして40歳を迎えた。始めるときからタイムリミットは決めていた。
 
そうして、私の不妊治療は終了した。
 
ありがたいことに、夫はすでに会社への復帰は果たしていた。終わってみると、心配していた落ち込みなどはあまりなく、新しい舵を切れる気がした。自分のための人生を歩んでよいと言われているようで、人生後半戦のスタートだった。
 
妹の子どもは今年3歳になった。素直にかわいいと思う。彼女も不妊治療を経て高齢出産だ。下手に甘やかさないように、時には距離をとり叱るときははっきり叱る。わが妹ながら、あっぱれ、頑張っているのだ。
 
生命の神秘はいたるところで起こっていて、子どもたち一人一人がすべて神秘。近所の保育園では神秘だらけ(笑)。保母さんが歩行者や自転車に注意しながら、子どもたちを散歩に連れ出しているのを見ると心から応援したくなる。保母さんはもちろん、よそ見しながら歩いている子どもたちもだ。
 
「子どもがいる人生といない人生どちらがいいですか?」と聞かれたら、あなたは何と答えますか?
私はどちらも良いなあと迷いながら「今ある自分をくれた親に感謝したい」と答えるのは反則だろうか。
 
 
 
 
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2020-01-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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