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メディアグランプリ

うっかりこぼれた幸せを


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:谷中田 千恵(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
日々の中で、胸がほっこりする出来事というものがある。
 
遭遇すると、思わず口角が上がり、胸のあたりがなんだかじんわり温まる。
 
例えば、老夫婦が手を繋いで散歩をしているところを見かける。
朝一番のお茶に、茶柱が立つ。
目の前の若者が、スッと立ち上がり、妊婦に席をゆずる。
 
私は、そんな小さなご褒美みたいな出来事の中に、「ポジティブな言葉の落書きを見る」というものを入れている。
 
先日、交差点で、信号待ちをしていた時のこと。
 
運転席から、ふと外を見ると、間近に白いガードレールがあった。
年季の入ったそれには、無数の落書きが彫ってある。
 
よくある卑猥な言葉に始まり、特定の個人を中傷するようなものや、怒りをあらわにするイラストまで余白がないほど、びっしりと埋め尽くされていた。
 
そんな中に、意外な言葉を見つけた。
 
「仲間」
 
それを見つけた瞬間、私の胸はふわっとあつくなり、ある妄想が広がった。
 
ガードレール横に、バイクに乗った若い青年が止まる。
10代だろうか。若者特有の、華やかな色使いの服装だ。
 
彼は、これから、友人たちとツーリングに行く約束をしている。
バイクの免許は、先日とったばかりだ。
 
友人たちとは、中学時代からの連れ合いで、彼はその友人たちが大好きだった。
 
彼の両親は、半年前に離婚をしている。
それは、長きに渡る家族冷戦の、最初で最後の地上戦だった。
家の中で両親は常に言い争いをし、そこで彼は居場所を確保することができなかった。
 
そんなとき支えになったのは、いつも友人たちだった。
彼の家庭のことなど触れもせず、くだらない冗談で盛り上がる。
大きな声で笑うと、家のことなどすっかり忘れられた。
 
バイクの免許は、気落ちしている彼を気にかけた、友人の提案で取得したものだ。
 
今日は、そんな友人たちと初めてのツーリング。
昨夜は、楽しみでほとんど眠れなかった。
 
待ち合わせ場所は、ここから10分ほどだが、はやる気持ちが止まらない。
一緒にバイクに乗れることは、もちろん嬉しいのだが、彼らに会えることの方が何倍も嬉しかった。
 
辛い時も、楽しい時も、友人たちはそばにいてくれた。
家族と同じ、いや、それ以上のかけがえのない存在。
 
気がつくと、彼は、ポケットに入っていた自宅の鍵で、ガードレールに文字を彫り始めていた。
 
「仲間」の一言は、私にこんな映像を映し出す。
 
勘違いしていただきたくないのだが、落書きを推進しているわけでは決してない。
自分で落書きをした経験はない。
物事を善悪で分けるとするならば、落書きという行為は悪いことだと考えているし、そのあとのメンテナンスの手間を思うと、キュッと悲しくなる。
 
特に、ネガティブな言葉の落書きにメリットなど何もないと思っている。
今回のように、妄想が喚起されることなどはない。
 
きっと、ネガティブ落書きは、他人の入る隙がないのだろう。
怒りや、悲しみ、マイナスな感情が、落書きという行為に走らせる。
感情と行為が、ストレートにつながり、思考を挟み込む余白がないのだ。
 
ポジティブな落書きは、おそらく全く違う成り立ちをしている。
 
頭の中は、幸せであたたかい気持ちで、タプタプと満たされている。
おぼれるほどの幸せ、嬉しい、楽しいが、落書きとなって現れる。
幸せすぎて、満ち足りすぎて、良いとか悪いとかの判断が麻痺してしまう状態だ。
もはや、落書きしてしまった自覚すらないかもしれない。
 
自覚がないから許されるとは、もちろん思ってはいない。
ただ、うっかり幸せな気持ちが落書きとなってこぼれてしまう状況を想像すると、口角が上がってしまう。
 
「絆」と書いた人は、何か大きな助けに感謝をしているのかもしれない。
「好き」と書いている時に、大好きな人を思い浮かべない人はいないだろう。
「ありがとう」という言葉からは、生きとしいける全てのものへの愛すら感じる。
 
誇大妄想だと、考える方もおられるだろう。
 
おっしゃる通りだと思う。
もしかしたら、「仲間」というのは、誰か知り合いの苗字で、あまりの憎さにガードレールに彫り込んでしまった可能性だってあり得る。
 
どんな物事だって、表と裏は、ぴったりと背中合わせだ。
一つの事実は、光も影も抱えている。
 
それでも、私は、なるべく明るい光を見ていたい。
 
どうせだったら、幸せなことだけ拾い集めて生きていたいのだ。
幸せなことだけ、カバンに詰めて、最後は楽しかったと笑いたい。
 
そのために、今日も私は、落書きを見つけて妄想し続ける。
 
できれば、あなたにも落書き妄想をおすすめしたいのだが、受け入れがたいと感じているに違いない。
 
せめて、落書きを前に薄ら笑いを浮かべる私を見かけたら、ああ、幸せをカバンに詰めているのだなと、温かく見守っていただけると幸いです。
 
 
 
 
***
 
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2020-01-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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