時間はのびる 幸せの時間は増えるのだ
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記事:浦井啓子(ライティング・ゼミ 日曜コース)
家族にとって新しい変化がある時は、とても大変だ。しかしそれは素晴らしい。我が家に訪れた変化は人生において彩りを添えてくれたのだ。
我が家の二人の娘は、小さい時から動物が好きだ。
長女が生まれた頃は年老いた雌猫が1匹いたが、長女が1歳半の時に老衰で亡くなってしまってから猫は飼ってはいない。同居する父と母の反対があったからである。
父はもともとあまり猫が好きではなかったし、母は、動物が(自分よりも)先に死んでしまうのを見たくないから、という理由だった。長女が1歳の時に友人から子譲り受けた子犬を飼っていたが、事故で亡くしてしまってからは、ますます動物を家で飼うこと自体タブーだった。犬を亡くしたことは、家族にとってとても辛いことだったが、亡くなって3年目の今年、我が家に突然、野良猫がやってきた。
ある日の娘の下校途中、気がついたら猫があとをついてくる。帰ろうとしてもずっとついてきてしまったのだという。とても人慣れしている様子のその猫は、頭を撫でられても、抱かれても大人しくしている。なんとも不思議な猫だ。
「こんなに人に慣れている猫なんだから、きっと飼われているんだよ。飼い主をさがしてあげようね」娘にそう言って、猫を見つけた近所の家で訊いてみたが、誰もその猫を見たことはないと言う。通りがかりのお姉さんにも尋ねていたら、猫はそのお姉さんに、ついていこうとするのだ。無関係のこの人について行ったら大変だと思い、慌てて抱っこして連れてきてしまった。結局、迷子猫か、野良猫か分からずじまいである。
仕方がないので、家(の車庫)にこっそり連れ帰った。また改めて飼い主を探そうと思い、餌と水をあげ、要らない毛布を敷いて寝床を整えた。その日は我が家の車庫で眠るといいなと思ったのだ。
ところが、翌朝様子を見に行くと車庫に猫はいない。餌は全部食べてある。窓の少しの隙間から出て行ってしまったようだ。
これでは、飼い主を探すこともできない。「私たちはただの誘拐犯だ……」こっそり連れ帰ってきたのに、逃がしてしまうなんて!知らない土地で、事故に遭ったりしないだろうか、不安が頭をよぎる。
数日たっても、猫は現れなかった。あんなに人懐こい猫なんだし、誰かの家で飼われたのかもしれないし、餌をもらっているのかもしれない。そう考えはみるものの、心配と罪悪感で胸がいっぱいだった。
そんなある日、ひょっこり猫が現れた。何事もなかったような顔をして、足元にすり寄ってくる。元気そうな姿を見て本当にほっとして嬉しかった。もう逃がすまいと考えたものの、まだ猫飼いを反対する父母に対して、私たちが猫を連れ帰ってきたことはまだ正直に話せない。時間をかけて説明し納得してもらうまで、とこっそり車庫で飼うことにした。
1,2日は少し出かけても夕方には戻ってきて餌や水を食べるので、徐々に我が家の猫になりつつあると思ったが、慣れてくると、一日おきに帰ってくるようになったのだ。どうやら、うち以外の近所で餌をあげる家があるようなのだ。その日の気分で飲み食いする家を変えているようなのだ。見る見るうちに丸々と太り、逞しい雄猫に成長していたのだ。
その逞しさ、図太さに、まさに野良猫のしたたかさを見た気がした。この子はきっと野良猫だ。この頃には、いよいよ我が家の猫にしてしまうために、飼い猫ではないという確証を得なければいけないような気がして、猫と出会った付近を気をつけて見るようにしていた。すると、そっくりの猫がいるではないか!これはきっと兄弟猫に違いない!この家の方に話を訊けば何か分かるかもしれない、そう思い、猫を連れてその家を訪ねた。
子どもたちには「もしかしたら、ここの家の猫ということが分かって、これでお別れになるかもしれない」そう言って一緒に話を聞きに行くことにした。
チャイムを押すと家の人が出てきて、私たちを見てとても驚いたようだった。「その猫ちゃん、うちのラッキーちゃんとそっくり! でも、うちのラッキーちゃんは家の中にいるはずだから……」
飼い主でも見分けがつかないほど、そっくりな猫。やはり兄弟なのか……、と落胆する私たち。
「ちょっと待っててね。ラッキーちゃんを連れてきてみるわ」と飼い猫を連れてきたところ、顔を見るなり喧嘩を始めてしまったのだ。
本当にうり二つの猫同士だけれど、お互いオス同士。もしかしたら本当に兄弟かもしれないが、生まれてすぐに別々に育ったなら兄弟としては認識できないらしい。聞けば、その飼い猫くんも、1年くらい前に捨てられた子猫だったとのこと。その猫に他に兄弟がいても不思議ではないこと。これで野良猫ということもはっきりしたので、父母にも事情を説明し、いよいよ我が家の家族として仲間入りだ。
家の中に猫の餌が常備され、猫グッズも一通り買い揃えた。新しい生き物との生活は、家族みんなに変化をもたらした。面白いもので、猫が大好きな子どもたちはもちろん、家族みんなが猫中心の生活に変わった。どこに遊びに行くよりも猫と一緒にいる時間が大切になり家族で過ごす時間が増えた。
新しい変化は慣れるまでは大変だけど、我が家に起こった変化は、家族みんなの時間をゆっくりにし、家族の幸せを倍増してくれたのだ。
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