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法に触れなければコンプライアンス遵守か?


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記事:大石 忠広(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
近年「コンプライアンス遵守」が盛んに叫ばれるようになりました。
私が勤務する会社でも社内コンプライアンスを管理する専門部署が設立され、コンプライアンス違反を報告(密告?)するためのホットライン窓口も設置されました。これに伴い、日々の業務もコンプライアンス違反がないか入念にチェックしながら進めるようになったのですが、その観点はもっぱら関連する法令や規程への抵触という観点です。このような「ルール」に依存したコンプライアンス遵守の風潮を見るにつれ、紀元前に滅亡した「ある国」のことが思い浮かびます。
 
その国は「秦(しん)」といいます。
 
突然ですが「キングダム」という漫画をご存知でしょうか?
 
累計発行部数は4,000万部を超え、2019年には映画化もされたベストセラーの作品です。内容は紀元前の古代中国(春秋戦国時代)を舞台に、一兵卒である主人公『信』が、後に秦の始皇帝となる『エイ政』と共に戦乱の中で成長を重ねていくというものです。実はこの「キングダム」は、秦という国が中華統一を果たすまでのストーリーを描いたものです(ちなみに現在も連載が続いています)。
 
さて、ここで1つ問題です。
 
史上初の中華統一を果たした「秦」という国(厳密には王朝)は、何年間続いたでしょうか?
 
……
 
正解は【15年】です。
 
作品の舞台である「春秋戦国時代」は約550年続きました。550年というと、日本でいえば応仁の乱が現在でも続いているようなもので、大変長い長い戦争です。そんな血みどろの内戦を平定させた強国が、たったの【15年】しかもたなかったのです。いったいなぜでしょうか?
 
それは、秦が国を統治するのに採用した考え方に理由があります。
 
秦が採用したのは「法治主義」です。
 
「法治主義」とは、性悪説に基づき、ルール(法律や規則)によって国の維持と安定を図ろうとする考え方です。要は「人間は生まれつき怠惰な生き物なので、外から規範を与えないとダメになる」ということです。確かに私たち人間は弱い生き物なので、反論できないところがあります。中華を統一する前の秦が他国を制圧できた大きな要因も、法治主義によって強固に統制されていた軍隊があったからでした。つまり秦は戦時に用いた組織統制のやり方を、戦後の国家運営においても適用しようとしたわけです。
 
しかし結果としては、法治主義で国家を運営しようとしたらうまくいきませんでした。例えば秦の国内では以下のような事例が起きました。
 
【ある日、始皇帝が宮殿内で刺客に襲われ暗殺されかけたことがあった。始皇帝は宮殿の外にいた兵士を呼んだが『殿中に武器を持って入った者は死罪』というルールがあったため、兵士達は誰一人として始皇帝を助けに入らなかった】
 
【秦の宰相が政敵によって国を追われた。他国に亡命する途中で宿に泊まろうとしたところ『旅券を持っていない者を泊めたら死罪』というルールがあったためどこにも泊まることができなかった】
 
なぜうまくいかなかったか分かりますか?
 
「ルールを破った者には厳罰が下る」という法が徹底されればされるほど、人民は「そのルール守ってさえいれば問題ない」と客観的な規範にのみ依存し、自分の頭で判断しなくなってしまいます。それどころか「ルールの範囲内であれば何をやってもよい」と「ルールの抜け穴」を探すようにもなり、法の意図とは逆の結果を生みかねません。当然こういう考えをもった人が増えれば国は乱れるわけで、内乱をきっかけとして秦はわずか15年で滅亡してしまったということです。
 
さて、コンプライアンスの話に戻ります。現状のコンプライアンス違反チェックは「関連する法令や規程への抵触」という観点ばかりが取り沙汰されていて、これでは「法律に抵触していなければ問題ない」ひいては「法の抜け穴を探す」という思考に繋がりかねません。実際、法の抜け穴を突くような脱法ビジネスや、労基法スレスレの過重労働や低賃金労働といった問題がいま社会問題化しつつあります。これはまさに2200年前に秦が滅んだ道そのものといえます。
 
では、どうすれば本当の意味での「コンプライアンスを遵守した組織」が作れるのでしょうか? それは「徳治主義」を取り入れることです。
 
「徳治主義」は法治主義とは異なり「性善説」に基づく組織運営の考え方で、「仁義」とか「恩義」とか「人情」のように人が生来的に持つ性質を頼りにした主観的な規範を形成します。これがあれば、たとえ法律には触れてなくとも「仁義にもとるのではないか?」とか「人情としてどうか?」といった判断ができます。
 
「コンプライアンス」の本来の意味は単に法令を遵守するという事だけでなく、倫理や規範など暗黙的な社会ルールを守ることも含まれていることを考えると、法治主義と徳治主義の両方を取り入れて「客観と主観」両方の規範に照らして善し悪しを判断するというのが、コンプライアンス遵守の正しい姿ではないでしょうか。
 
 
 
 
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2020-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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