メディアグランプリ

記憶の片付け


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:吉池優海(ライティング・ゼミ 日曜コース)
 
 
部屋の掃除が大嫌いだ。
22年間生きてきて私の苦手なもの総合第一位は小学生の頃から変わらない。学校の嫌いな先生でも、ゴキブリでも、友人と喧嘩している時のきまずさでも、溜まっている洗濯物でもなく、掃除。
 
なぜ掃除が面倒くさくなってしまうのか。理由は考えるまでもなく、片付けることができないから。
脱いだ服をそのまま洗濯機にいれることがほぼない。まず放り出す。洗濯が終わって乾いたものをそのまま放置。使った食器もテーブルに放置。化粧品は使ったまま出しっぱなし。
基本的にソファは洋服で溢れて座れないし、テーブルの上は小銭やら化粧品やら一昨日使ったコップやら細々したもので溢れて使えない。当たり前のように床は8割方隠れて見えない。
テレビでよく見るとんでもない汚部屋を見ても笑えなくなってきた。
実家暮らしの時からそうだ。ものが多く捨てられず、床に物が散らばる。父親に「いい加減掃除しないと俺が全部捨てるからな!」と激怒され、渋々散らばったものを段ボールに詰めて隠す。私の得意技、「掃除したフリ」である。
私は実家を出るまでずっと、掃除が苦手な原因はものが捨てられないことだと思っていたが、そうではなく、「片付ける」行為自体が苦手だったことに気付いた。
 
嫌な経験、忘れ去りたい出来事が起きたとき、どう処理しているだろうか。
あとからふと思い出したとき、頭を抱えたくなるような出来事。思い出すだけで思考回路に靄がかかったように何も考えられなくなってしまうこと。
生活していく上で他人と関わることは必須条件ともいえる中、嫌な経験を避けることはかなり難しい。
私は小さいことから大きなことまでいつまでも引きずってしまう癖がある。何度も思いだし、憂鬱な気分で過ごすこともしばしばあった。
なぜ嫌なことを思い出してしまうんだろう。忘れ去りたい出来事をすぐに思い出してしまい、ぐるぐると考え続け、悩んでしまう。
なんで記憶を片付けられないんだろう。ん?片付け……?
 
「部屋の掃除とおんなじだわ!」
そう思ったとき、拍子抜けしてしまった。
 
小説家や画家などの表現者が汚い環境で素晴らしい作品を創り出しているのを見たことがあるが、非凡な才能があるからこその話であって、凡人の自分が真似できることではない。
片付けていないものが多い部屋ではそれだけでやらなくてはいけないことが倍に増える。
洗濯してないものどれだっけ、切らしてた日用品なんだっけ、あれっ、あのバッグどこやったっけ。あー、食器洗ってないや。あぁもう全部めんどくさいな。
 
思考も定期的に片付けないと同じようにとても面倒くさいものになる。
感情や思考、記憶において大事なことは、捨てることではなく片付けることだと思う。
人生の経験において、いくら忘れ去りたい出来事があってもそれを捨ててしまったら、忘れ去りたいと思うまでに至るそのときの感情や思考、物理的な損害、場合によってはその出来事で巻き込んだ他人の感情まですべてを蔑ろにすることになってしまう。
「現在の自分」は自分の期待していた場所にいたとしてもいなかったとしても、捨てようとしている出来事がなければいなかった自分である。
今まで出会ってきた人間全員、誰か一人が欠けても今の自分は成り立たない。
そんな経験を捨てるのは勿体無いと思うし、忘れ去りたい出来事を捨てて、忘れてしまったらもう一度その出来事が起きてしまうかもしれない。
だが、片付けることが出来れば忘れはせずとも、記憶の棚に仕舞って出さないでいることはできる。
私はそれすらも苦手だったのだ。
 
苦手なことをすぐに克服することは難しい。
記憶をうまくしまいながら平穏に生活するにはどうしたらいいのか考えたとき、部屋の片付けが同じことなら、まずできそうな方をやろうと考えた。
22年間自分の感情と付き合ってきて、制御するのが難しいということはわかっていたので、少しずつ部屋を「汚くしないこと」に意識をおいて生活する努力をした。
化粧品を使ったらもとに戻し、服を脱いだらすぐハンガーにかけ、洗濯するものはすぐに洗濯機にいれる。
今までどれほど当たり前のことができていなかったか実感したが、同時に少しずつ、ものの片付けと同じように思考も整理すれば良いことに気付くことができた。
ものが散らばる前に片付ける。思考においてすぐにできることではないが、一度起きてしまったことは変えられないのだから、あとあと悩むなら先に悩んでしまえ、という荒療治である。
記憶の片付けにおいて、アウトプットすることも重要だと思う。吐き出す先はどこでもいい。紙に書く、SNSで呟く(私はTwitterでフォロワーがいない未公開アカウントをつくりそこで吐き出している)、友達に愚痴る。とにかく自分以外の場所に嫌な経験を置くことが大事だ。
抱え込んでいた嫌な経験を軽い気持ちで手放してから、完全に考えなくなるとまでは行かずとも、前ほど落ち込むことは少なくなった。
一回吐き出して収まらなければ何度も吐き出せばいいし、前に吐き出したものと見比べても前の自分を客観的に見ることができて面白い。こうして悩みを面白いと思えるようになるところも記憶の片付けの仕方を習得する過程のように感じる。
 
部屋の片付けは相変わらず苦手だし、記憶の片付けもまだまだ苦手だ。
でも、苦手なものを焦って克服しようとしても簡単にはできないし、時間をかけてうまく付き合えるようになるしかない。
こうして「片付け」を時間をかけて克服をしようとしている今の経験は未来できっと役に立ってくれると思いながら、まだまだきれいとは言えない部屋と、ごちゃごちゃしている脳内と付き合い続けている。
 
どちらも片付く日は、近いのか、遠いのか……。
がんばれ、今年の私!
 
 
 
 
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2020-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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