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メディアグランプリ

大学時代の友人に2年ぶりに会って気づいたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:南園 貴絵(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「会いたい。楽しみ!」
その言葉とは裏腹に、もう何日も私は浮かない気分だった。
 
大学時代の友人と2年ぶりに会う。5人のうち、私を含む4人は既婚者で、そのうち私以外はみんな2人の子持ちだ。
 
私にとって、子供がいる人に久しぶりに会うことほど嫌なことはない。
 
久しぶりに会う人は皆、口を揃えて「貴絵、子供はまだなの? 結婚して5年だっけ? 早い方がいいよ」と言う。中には「子供が出来なくて悩んでいた人にアドバイスしたらすぐに授かったから、教えてあげようか」と言ってくる人もいる。聞いてもいないのに。
相手にもわかるような愛想笑いをしながら頷いてはいるが、この時点で耳も心もシャットダウン。
 
だから、既に子供が2人もいる、しかも2年も会っていない友人に会うのは楽しみの反面、複雑な気持ちでいっぱいだったし、考えるだけで憂鬱な気分にさえなった。
 
約束の前日。
「家にカルピス、オレンジ、お茶があったから持ってくよ」
「お昼、ピザでも取ろうかなと思って」
「子供たちが唐揚げと枝豆好きだから持ってくわ」
と次々にグループLINEが入る。
「私も何か持ってくよ。とりあえず、グレープフルーツのちょっとつまめるやつ」と返信し、仕事の休憩中にスーパーでグレープフルーツを3個買った。
 
グレープフルーツのちょっとつまめるやつというのは、料理の苦手な私が気負わず持っていける数少ないレパートリーのうちの1品だ。
 
約束の当日。
近所で独身の友人と待ち合わせ、高速道路を使って約1時間半、80㎞先の友人宅へ向かう。
車の運転はドライブ好きな友人に任せ、2年の空白を埋めるかのように、仕事や日常のことをあれこれ話す。彼女とは家も近所で、仕事以外は割と自由な時間があるということもあって、あとの3人に比べて、卒業後に重ねてきた時間も、共通の話題も多い。
 
友人宅へ到着すると、子供たちが一斉に出迎えてくれ、部屋では3人の友人が寛いでいた。
「久しぶり!」
「元気だった?」
「元気そうだね!」
お決まりの挨拶だが、その変わらない雰囲気と笑顔に、私の凝り固まった心がすーっとほぐれていくのを感じた。
 
ピザが届き、それぞれ持ち寄った料理も並べる。
「グレープフルーツ酸っぱそう」
「苦くない?」
とみんなが口々に言う。
 
決めつけないでほしい! これには、蜂蜜をかけてあるんだから。
 
友人のひとりが実の崩れた小さなグレープフルーツを口に運ぶ。
「……美味しい! 酸っぱくない」
 
安心したのか、他のみんなの手が次々と伸びた。
 
私が用意したグレープフルーツは、食べやすい甘さのあとに爽やかな酸味と適度な苦味のバランスがよく、油っこい料理の箸休めにも、ちょっとしたデザート代わりにもなった。鮮やかなビタミンカラーは食卓に華やかさもプラスしている。
 
女5人。喋りに喋り、話題は尽きることはなかった。
思い出話をすれば当時にタイムスリップしたかのように鮮やかな記憶が蘇り、お腹を抱えて笑い転げた。時に、同居や二世帯住宅などの、今だからこその話題も飛び出した。
何度か子供たちが喧嘩して、泣いて、それぞれの親が仲裁に入ることもあったが、それも微笑ましかった。
 
グレープフルーツがなくなった頃には、窓から差し込む光がオレンジ色になっていた。
 
私が心配していたような話題や、空気感は微塵もなかった。いや、正確にはあったかもしれないが、私が不快に感じることはなかった。昨日までの憂鬱な気分が嘘のように、とても楽しい時間だった。
ただひとつ、友人が呟いた一言をのぞいては……。
 
数か月後の再会を約束し、私は慣れた道を運転しながら帰路につく。
 
友人が呟いた一言が、その時の表情や声色が、頭を離れない。
「私、もうずっと仕事してないから……」
 
あぁ、そうか。
私はやっと気づいた。
 
私が「子供」の話題を嫌がるように、結婚して早々に仕事を辞めた友人は「仕事」の話題が嫌なのかもしれない。もしかしたら、まだ独身の友人は「恋人」や「結婚」の話題を煩わしいと感じているかもしれない。あるいは、みんなには話せない「悩み」や「苦しみ」を抱えている友人もいるかもしれない。
 
大学を卒業して12年。
 
今ここにある女の友情は、蜂蜜をかけたグレープフルーツの酸味と苦味と甘さのバランスがちょうどいいように、みんなの距離感がちょうどいい。
 
みんなそれぞれが「嫌」と感じるスイッチを押さないし、そのポイントをかすりもしない。
でも気を遣い過ぎていることもない。
 
もしかしたら生温い友情のように見えるかもしれないが、この距離感が、心地よく、有難い。
 
食べる前から「グレープフルーツは酸っぱくて苦い」と決めつけないでほしい、というのと同じで、「勝手な思い込みや憶測ばかり並べてはいけない」ということに気づけた。
 
そして、食べ物や味の好みがあるように、「友情」にも好みがあっていいし、変化していくものなのかもしれない。
 
たった2年会わなかっただけで、バカげたことばかり考えて……みんな、ごめん! そして、ありがとう!
 
帰宅して、蜂蜜を減らしたグレープフルーツを一口食べる。酸っぱくて苦い。
今はまだ、もうちょっと甘い方がいい。
 
 
 
 
***
 
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2020-01-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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