「アウトプット」での向上を目指す人へ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事;verde(ライティング・ゼミ日曜コース)
「アウトプットは大事」
「アウトプットだけではなく、インプットも重視しましょう」
このような言葉が、書店にもインターネットにも溢れている。
関連する本を開いて見れば、アウトプットの「効能」、「すすめ」、実際にやる際の「コツ」などが並んでいる。
手に取って、軽くページをめくるだけでも心地よい刺激が得られる。
頑張ってみよう、実践してみよう、と奮起するため、私もしばしば利用する。
だが、手探りで始めて見たはいいが、こんな悩みにぶつかるだろう。
「どんな事を発信(アウトプット)していけば良いのかわからない」
「ちゃんと見てもらえるだろうか」
「うまくできるだろうか」
特に三番目の問いに足を取られ、思うように動けない、という人も多いのではないだろうか。
今回、私は「アウトプット」の実践者として、ある人物を紹介したい。
故人ではあるが、もしも彼が現代に生きてブログやSNSをやっていたら、どうなるだろう。
少なくとも、ツイッターの発信量が、一日平均100件を超えていても不思議はないと思う。
ブログの更新頻度は毎日。あるいは2,3日に一度。
一つ一つの記事の内容は濃密で、読み終わる頃には疲れてしまう時もある。だが、はまれば面白い。次の更新が楽しみになって、ついつい覗いてしまう。
彼の名は、フィンセント・ファン・ゴッホ。
かのロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵のヒマワリの絵を知らない人はいないだろう。
あるいは、自画像や、<星月夜>のような風景画を思い浮かべる人もいよう。
彼の絵は、どれも強烈なオーラを放ち、見る者を捉えて離さない。
見る度に、新鮮な驚き、感動がある。
昨年(2019年)秋、上野の「ゴッホ展」において、私が息を呑んだのは、ポスターにも採用されていた作品<糸杉>の前においてだった。
青い空を背景に、大きな糸杉が、まるで黒い炎のようにうねりながら立ち上っている。
前に立つと、まるで画面をつきやぶってこちらにものしかかってくるようで、私は瞬きすら忘れていた。
「すごい……」
一歩近づくと、思わず感嘆の声が漏れた。
巨大な糸杉は、よくよく見れば絵の具を執拗なまでに分厚く、そして緻密に塗り重ねることによって描き出されていたのである。
「ここまでやるか、普通…」
ゴッホ、と言えばまず浮かぶのはヒマワリだろう。
だが、「糸杉」にも、彼はヒマワリと同じくらい、あるいはそれ以上の並々ならぬ思い入れを抱いていた。
「糸杉がぼくの頭を占め続けている。糸杉をひまわりの絵と同じように扱って描いてみたいのだ。なぜなら、驚くべきことに、まだ誰も糸杉を、ぼくが見るようなやり方で取り上げた者はいないからだ」
弟にあてた手紙の中で、彼はこんな風に語っている。
この言葉を思い浮かべながら、盛り上がった絵の具を見つめていると、その一刷毛一刷毛から、生暖かい呼吸の気配すら感じ取れる気がした。
アウトプットにおいて「数をこなせ」と言われたことはないだろうか?
ゴッホが画家として活動したのはわずか10年にも満たない。その間に残した作品は、油彩だけでも約860点、素描は修業期間の分も合わせた13年間で1000点以上に上る。
この数をどう思われるだろうか。
しかも、一枚一枚がエネルギーに満ち満ちている。
頭の中でごちゃごちゃと考えて、最初の一歩が踏み出せない、というのもアウトプットにおいてはよくぶつかる壁であろう。
ゴッホの場合は、この「考え」を頭の中に留めず、弟や友人にあてた手紙の中で積極的に「アウトプット」していたのである。
その例が、先ほど引用した「糸杉」についてのくだりだ。
こんなモチーフを描きたい。
こんな風に描きたい。
自分は、こう思っている。
頭の中に渦を巻くイメージ、感情を言葉として外に出すことで、彼は進む道を再確認していたとも言えよう。
彼が生涯で書いた手紙は、現存するだけで700通以上ある。
しかし、このような「マシンガン・トーク」のような手紙を、受け取った側はどう受け止めていたのだろう。
さて、ここまでお読みいただいた方、ゴッホが気になる、と思った方に、最後に一冊の本をすすめたい。
『ゴッホの手紙―絵と魂の日記』(西村書店)である。
彼の700通以上もの手紙の中から約250通を選び抜粋し、関連する彼の作品と共に紹介している。
つまり、彼の油彩作品や素描を見ながら、それらが生まれる「源」に、ゴッホの頭の中に直に触れられるのである。
家族あての手紙、ということもあって難しい表現や凝った言い回しはほとんどないから、意外と読みやすい。それでいて、内容は濃密である。
パラパラとめくって、気になる箇所をつまみ食いするのも楽しい。
ただ、欠点があるとすれば、サイズが大きいこと。変形B4版で、展覧会場で売っているカタログよりも大きい。重い。
それでも、是非一度は手に取って、ページをめくって欲しい。
かく言う私も、読みたくてうずうずしている。
アウトプットは、とにかくまず自分の中にあるものを出すことから。字でも絵でも、失敗を恐れず、数をとにかく重ねていくことを、身に着ける。
私はゴッホから、それを教えてもらった。
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