メディアグランプリ

風景写真にぽつりと人がいるだけで、無限のストーリーが生まれる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:いづやん(スピード・ライティングゼミ)
 
 
「ねえ、今年一緒に行った島旅で、私が写ってる写真をまとめて見せてほしいんだけど」
 
そう妻に言われるのは、結婚前から数えて今年で三回目になる。
 
妻は毎年正月の三が日の間だけ、自分のTwitterのアイコンを前年に行った島で自分が写っている写真にするのを恒例としているとのこと。
 
今年もそんな時期が来たのだなと、慌ただしい年末にも関わらずこの一年間で一緒に旅して撮影した各地の写真を見返してみた。
 
「今年はどこに一緒に行ったっけなぁ」と自分も一年の旅の振り返りができるので、結構楽しい時間だ。
 
1月には広島の大崎上島と、とびしま海道の島々。5月のゴールデンウィークには、宮城は塩釜の浦戸諸島を巡った。
 
9月は台風の影響を受けながらも一週間かけて八重山諸島の黒島や西表島、竹富島を歩いた。
 
11月には、結婚後に披露宴をしない代わりに八丈島でフォトウェディングを決行。八丈富士の上や裏見ヶ滝の森の中で、タキシードとドレス姿で記念になる写真を残した。
 
「こうやってみると、今年もあちこち行ったなあ」と感慨深い。つい写真を見入ってしまって妻からの依頼を忘れそうだったが、Adobeの写真現像アプリケーション「Lightroom」で、妻が写っているものにラベルを付け、整理していく。
 
さらにその中から綺麗に撮れているものをしっかり現像処理して写真を書き出し、妻のLINEに旅ごとに分けてアルバムを作り、アップロード。
 
「あ、この朴島の菜の花の中に私が写ってるの、いいね」
 
妻も気に入った写真があったようだ。朴島は、宮城の浦戸諸島の一番奥に位置する小さな有人島で、仙台白菜の種を作るのに毎年春、見事な菜の花畑が広がる知る人ぞ知る場所。確かにいい写真だと思った。
 
僕はといえば「いいね」どころではなく、妻が写っている写真群に見入っていた。
 
「自分で言うのもなんだけど、ただ風景を撮ったものよりいい写真が多いな……」
 
僕は趣味であちこちの日本の島を旅して写真を撮ったりブログを書いたりしているが、一昨年結婚してからは、当たり前のようにその旅に妻も連れ立って行くようになった。
 
当然、よい景色に出会ったら、被写体として妻も風景の一部として収めていたが、なぜだかそういう写真のほうが随分印象がいい。
 
以前友人と写真談義をしている時に、どんなものがよい写真なのかという議論になった時に僕自身の言葉を思い出していた。
 
「一枚で、背後に物語を感じられるものが、いい写真じゃないかなあ」完全に僕自身の言葉ではなく、多分誰かの受け売りだったかもしれないが、妻が写っている写真を見て、その意味がよく分かる気がした。
 
広島の下蒲刈島で鳥居の向こうに広がる海を眺める姿には、何か思いを秘めた静謐さを祈りを感じる。
 
宮城の桂島で向こうからやってくる船を待つ背中には、まだ見ぬ次の島への不安が滲んでいる。
 
西表島の船でしか行けない船浮集落で早朝、海岸を一人歩く姿には、今日一日の期待が感じられた。
 
妻が写っている写真はその場面で撮った僕には、どういう状況だったかよく覚えているが、一枚の写真として改めて見てみると、色んな想像をかき立てられるものだった。
 
「人が風景の中にいると、物語が生まれるよね」
 
妻に、写ってる写真の方がなんだか良くて、ネットに掲載してもいいか相談した時にそんなことを言われた。
 
単に綺麗な風景が写っているより、誰かがその中に入っている方が面白い。そうも言っていた。
 
もうひとつ、重要な点があると気がついた。
 
「私が写っていて、でも顔があまり分からない写真を選んでほしい」と言われていたのだ。
 
そう、選んだ写真は後ろ姿か、せいぜい横顔がわかる程度のもの。つまり誰だか分からない写真がほとんど。
 
顔が分からない人が、島の風景の中に佇んでいる。すると、頭の中で勝手に物語が組み立てられていく。つまり、これが自分がかつて写真談義中に語った「いい写真」の定義に近いものなのだと気がついた。
 
顔が分かってしまうと、人はそれを好悪を持って判断してしまうだろう。後ろ姿や横顔は絶妙だと思った。
 
単に綺麗な島の風景でも、顔のわからない人がいるだけで、無限のストーリーが出来上がっていく。見る人が勝手にキャプションを作ってくれる。
 
僕はいつも島で写真を撮っていると幸せなのだが、帰ってから見返してみると物足りなさも感じていた。誰でも撮れる写真が多かったからだ。
 
そこに、妻という被写体を加えることで、僕にしか撮れないものにできるかもしれない、そんなことを考えていた。もしかしたら「自分らしい島旅のテーマ」にできるかもしれない。
 
「それでね、年明けの写真にはこれを選んだの」
 
と変更された妻のTwitterのアイコンを見せてもらった。大崎下島の高台の海を望むミカン畑で妻が写真を撮っている場面を切り取ったものだった。
 
Twitterアイコンは写真が円形にトリミングされるのだが、選ばれた写真で、海、ミカン畑、妻、を全部入れようとすると横長になってしまい、アイコンの上下に白い余白が広がってしまう。
 
「ええ〜、もっと他のやつがよかったんじゃない?」と思わず言ってしまうと、
 
「この海が見えるみかん畑の写真が良かったの!」と言い返された。
 
アイコンを見た人はまさかこんな隠された物語があるとは分からないだろうが、妻専属カメラマンとしては、次は円形にしっかり収まるように工夫して撮るようにもしなければいけないな、と密かに誓ったのだった。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 
http://tenro-in.com/event/103274
 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2020-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事