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メディアグランプリ

追い込まれた人間を救ってくれるもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:内村友紀(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「もう、何回も乗っかるなよ、さすがに疲れてきたよ」
「いいじゃん、トモくん、力持ちじゃーん」
向かいの通りをカップルがゆっくり歩いていた。たぶん大学生くらい。
身長差のある二人だった。小柄な女の子が、190センチくらいの彼氏の背中にぴょんと飛び乗っては降り、飛び乗っては降り、という遊びを何回も繰り返していた。まあ、周りに人が少ない時間帯ではあった。とはいえ、二人は公共の空間で、それはそれは楽しそうにじゃれ合っていたのだ。しかも堂々と。
うざい。まったくもってうざい。
普段なら、そういうのは家でやりなさいよ、ふん、とか思って、心の中で舌打ちしながら目をそらす。基本的に、恋は秘め事じゃないっすかね、と思うタイプの人間なので。
でもその日は違った。
なんてかわいい二人なのだ、いいねえ若いって、なんてつぶやきながらニコニコ眺めていた。
そんな感情はだいぶレアケースなので、よく覚えている。
理由は明確だ。
2018年9月7日、午前5時過ぎの出来事だったからだ。北海道胆振東部地震が起きた、翌日の朝だ。
まだ停電は続いていた。そろそろ1日を超えるか、というくらいだ。
私が住む地域では、地震そのものの被害はほとんどなかった。にも関わらず、住民たちは静かなパニックの中にあった。
普段聞こえるはずの雑踏が、ほとんど聞こえなかった。隣のカフェにたくさんついているクーラーの空調の音も、近所の駐車場の案内音も。代わりに風のざわめきや、人の声ばかりがやけに大きく響いていた。
信号は動かず、ほとんどのお店はお休み、ATMはもちろん停止。かろうじて営業していた店も、棚は既にがらんどうであった。これで不安にならないほうがおかしい。
あの時の「試される大地」は、物理的にもだが、精神的にもある種の病といってよいような状況にあったと思う。
前日の深夜、病んだ空気に気圧され、持久戦を覚悟した私は、ろうそくや懐中電灯の電池も節約せねば、と数時間をまったくの暗闇の中で過ごしていた。今にして思えば、そこまで追い込まれる必要はなかったんですけど、やっぱりちょっとおかしくなっていたのだろう。
真の暗闇って、経験したことありますか? 目が慣れるっていう状態がないのだ。あれは薄明かりでも見えるようになるってことで、光源がないときは、ほんとーうに、なんにも見えなくなる。今回の件で、私は初めて知りました。
くらいとこわいです。バカみたいな言い回しだけど、本音だ。こんな闇の中なら、妖怪や化け物が見えた、などと思っても全く不思議ではない。
あと、自分でも笑ってしまったのが、闇を誤魔化そうとして、なぜか団扇を手に取って仰いでいたことだ。要は「空気を動かして、閉じ込められた感を払拭したい! 」という気持ちになっていたのだ。アホですね。でもなんとなく気が晴れたので良しとします。
そんな暗闇の中で、ほんの少しだけだけど、恐怖感を忘れさせてくれたのは、さまざまなカルチャーだった。
真っ暗な中、小さな声で大好きなceroや、その頃リリースしたばかりだったサンドウイッチマンの「ウマーベラス」(どれだけ食べても0カロリー! というやつ)を口ずさんで、自分を励ましていた。俯瞰でみるとだいぶ痛いが、その時は必死だった。
何でそんなことしていたかというと、数年前にいとうせいこうの小説「想像ラジオ」を読んでいたからだ。
東日本大震災のとき、twitterで「脳内で音楽を流して、それをシェアしよう。音源がなくても想像はできるから、ラジオみたいに」と呼びかけ、ハッシュタグで拡散していたのを覚えていたのだ。Webの小さな企画は多くの人の心を打ち、やがて芥川賞候補の小説になった。歌いながら、小説のストーリーを思い出したりもしていたので、だいぶ気がまぎれた。ついでに、サンドウイッチマンのネタを脳内で反芻したりもしていた。
好きなものがたくさんあって良かったな、と心底思えた夜だった。
音楽にも、小説にも、お笑いにも助けられたのだから。
 
そして翌朝。めんこいバカップルを見たときに、思ったのだ。
二人はきっと、暗い夜を一緒に過ごしたのだろう。それはとても心強かったことと思う。自分も不安だった分、こういう時に、くっつきたくなる気持ちは痛いほど分かった。だから、微笑ましく見ていられたのだ。
 
人でもモノでも、音楽でも小説でもお笑いでもスポーツでも、好きなものがたくさんあるって大事だ。辛いとき、大きな支えや癒しになるから。1つよりも2つ、3つ以上ならなおよい。あっちがだめならこっちで! というリスクヘッジになるから。その時の気分で使い分けることも可能ですし。
これからも、たくさんのモノを好きでいたい。たくさんの引き出しを作っておくことが、どれだけ自分を救うのか、知ってしまったから。もちろん、普段は「支えになるかも」なんて思って好きになったりしないけど。
どうでもよいですが2020年1月、わたくしの現時点のベスト3はフィギュアスケートとお笑いコンビのぺこぱ、あと町屋良平さんの作品群だ。
今年ももっともっと、好きになれるものに出会いたいです。
 
 
 
 
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2020-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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