メディアグランプリ

カメラ好きな人にだけ、こっそり教える秘密の出会い


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Yuki Hashizume(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「あなたは写真が好きですか?」
 
無意識に頷いてしまったあなた。
声に出して「はい」なんて素直に答えてくれたあなた。
 
あなたは写真の原点をご存知だろうか?
 
「坂本龍馬を撮影した写真ってわかりますか? 」
 
そう言って彼は笑った。
日本人であれば、そのイメージはすぐに浮かぶだろう。
確か、日本最古の写真だと云われているという話だったような気がする。
 
私の目の前で、マイクを手に持ち話をしている彼は
見た目は長身で、坂本龍馬のようなパーマヘア。
若干坂本龍馬にも見えなくもないかな……なんて考えが頭をよぎる。
もしかして、ギャグでも言うのかな? なんて思いながら耳を傾ける。
 
「あの写真が、日本では最古・最初期の写真だと云われています。 今のフィルム写真の原点ですね。
でも実は、写真の原点はフィルムではないんですよ。」
 
フィルムじゃない写真? なんの事だろう?
あなたは想像できるだろうか?
フィルム撮影じゃない、写真撮影って何?
 
この時点で私の心はがっちり掴まれた。
この場に集まってきた人たちは、皆カメラを嗜むマニアックな人たちばかり。
彼の話す言葉に、他の人もどんどん惹きつけられる。
まるで砂鉄の散りばめた机の上に、磁石を乗せた瞬間のように、皆前のめりになり
 
教えてくれ! さぁ早く!
 
と言う思いを彼に集中させている。
 
「それは、ダゲレオタイプという銀版写真です。」
 
ダゲレオタイプ。ダゲレオタイプ。ダゲレオタイプ?
銀版写真。銀の板の写真?
私の頭の中では言葉がリピートする。
 
「ダゲレオタイプとは、1839年に発表された世界初の実用的な写真撮影方法。銀メッキをした銅板の表面にヨウ化銀を付着させて、光をあてることで写真を写しこむ。そして撮影後は、水銀を熱した時に発生する蒸気を使う。フィルム撮影の技法が登場するまでは、この方法を使って撮影されていたと云われる。」
 
楽しそうに目をキラキラした、彼はつい数日前にダゲレオタイプで撮影した銀版を手渡しながら語り続ける。
ダゲレオタイプで撮影した写真(銀版は)、直接触れてしまえば劣化が激しいが、額などで完全に密封して保存すれば180年以上保存ができるそうだ。
銀版に撮影するなんて、どこまで細かく撮影できるの?
正直半信半疑である。
レトロな雰囲気に映るのかな?
この段階で、私はまだまだダゲレオタイプの魅力に気がつけていなかったんだ。
 
はいどうぞ。
 
隣の友人が、彼の作品を手渡してきた。
両手にとり、覗き込んでみる。
 
ちょっ! びっくりした!
 
覗き込んだ銀版には、拍子抜けたぽかーんと口を開いた自分の顔が写っていた。
まるで、朝寝ぼけた状態で目の前に鏡をドーンと見せられた感じだ。
それぐらい、その銀版はピカピカに輝いている。
曇りもない、傷もない、鏡よりも綺麗だと言っても過言ではない。
そんな輝いている銀版に、写真が写っているの?
少し角度を変えてみる。
すると、うっすらと人の姿が浮かび上がってくる。
画質は、写真だとは思えない。皮膚の質感までリアルに感じるような仕上がりだ。
 
そして私は言葉を飲み込んだ。
 
輝く銀版には、真っ黒なフードを深くかぶった少年が
グラフィティだらけのスケートボードを掲げている。
デジカメやフィルムで撮影したような写真ではなく
深い陰影が、その少年の表情を、輪郭を、そして溢れ出てくる意思を色濃く表していた。
 
驚いて顔を上げる。
 
にやり。
 
マイクを握った坂本龍馬似の彼は笑った。
 
「ね? すごいでしょ? 」
 
この場にいる全員が、まるで蟻の巣に捕まったかのように「ダゲレオタイプ」と言う撮影法に足を掴まれてしまった。
なんなんだ、この美しい作品は。
角度を変えるごとに、変わる表情。
美しすぎる銀版。
しかも、その撮影する銀版を磨き上げるのに1時間かかるとか言う。
一生懸命、銀版を磨いて
たった数秒で撮影する。
しかも、今と違い複製することはできない。
昔の人はこの貴重な一枚で、何を撮影するのかを一生懸命考え、そして一生大事にしたい写真を撮影していたのだ。
 
写真を愛する私たちは、その一枚にかける思いと魅力にとりつかれていた。
 
そして逆に、現代のスマホのように、インスタ映えやとりとめのない日常をパシャパシャと撮影している自分を見つめ直したのだ。
私たちは何が大事で、何を残すべきなのかを考えることを放棄してしまっていたのではないだろうか。
あなたは、何百枚と撮影したデジカメやスマホのデータを全て覚えているだろうか。
何年か経って見返したら、別に興味もないし「削除」してしまう。そんな撮影を繰り返していないか。
 
じゃあ考えてみよう。
 
ダゲレオタイプのように、一生に一枚だけ写真が撮れるとしたら私たちは何を撮影するのだろうか?
普段の日常を撮影するのか。
考え抜いて、メッセージを込めて、一生残していきたい何かを撮るのか。
自分が何を撮影していきたいのか、一度立ち止まってみたい。
 
この坂本龍馬似のダゲレオタイプ写真家は、今この時代でも「一生に一枚しか撮れない、同じものは撮れないダゲレオタイプ」で撮影を続けている。
日本では、写真家としてこの撮影方法を使っているのは彼1人しかいないという。
そして世界中で見ると、今は3人ほどしかいないという。
 
世界中で3人しかいないダゲレオタイプ写真家。
 
そんな貴重な1人に私は出会った。
 
彼の名前は「新井 卓(たかし)」写真に魅了された、私たちと同じ写真好きな人間だ。
これから数百年残っていく銀版写真を、今も世界中で撮り続けている。
少しでも写真の原点であるダゲレオタイプに興味があるなら、ネットで探すのではなく実物を見るべきだ。
新井 卓(たかし)が、あなたの写真についての価値観を、人生観をごっそりと変えてくれるだろう。
 
ダゲレオタイプと新井 卓(たかし)
 
私は、彼に出会えたことに感謝している。
そして今日も愛機を片手に撮影に出かけるのである。
 
 
 
 
***
 
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2020-01-24 | Posted in メディアグランプリ

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