メディアグランプリ

好きになった人は、自分の父親に似ているのか?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:石崎彩(ライティング・ゼミ 平日コース)

父のことがあまり好きではなかった。
遊んでもらうたびに泣かされたし、旅行の約束は急になくなるし、嫌味ばかり言われたし。

好きなこともやりたいことも理解されなかった。

「女性は自分の父親に似た異性を好きになる」と聞いたときは、本気で自分の将来を呪った。
恋愛でも人間関係でも勉強でも、嫌なことがあれば、家族のせい。生まれ育った環境のせい。

早く家を出て、家族に囲まれた生活から抜け出せば、自己嫌悪からも解放される。

そう思って、大学は実家から離れたところへ進学し、そのまま大学の近くで就職。
楽しいことも辛いこともあったけれど、全てが自己責任だと思ったら、家族がいる生活よりは全然良かった。
自分一人の力でなんとかやっていくことができれば、一人前。
一人前になることが、精神的にも物質的にも自立できるということであり、誰にも邪魔されずに、制限されない人生を勝ち取れるものだと思っていた。
それが自由だと思っていた。

家族は、自由を制限する檻。飼い慣らされる檻。

そんなイメージばかりだったから、自分が誰かと家族になるとかベビーカーを押すとか想像できないし、20歳の頃の大学の授業で「10年後の想像をしてごらんなさい」なんて言われても、配られた用紙は白紙のまま。

家族以前に自分の未来が全く何もなかった。

ただ漠然とあった思いは、自由だけ。
自由に生きること。それを叶えるためには、自立しか頭になかった__。

「ああ、何にもないな。うちの実家の周りとおんなじだ」

1月の田園地帯は、休耕地となってすごく見晴らしがいい。きれいに碁盤の目がずっと続いている。一軒家がポツポツとやりかけのパズルみたいに置かれている。

うちの実家と彼の実家は日帰りできないぐらいに離れているのに、景色を懐かしく思うのは不思議だった。
それもそのはず、私は京都より西に行ったことがなかった。それも中学生の修学旅行だったから、中国地方は異国だと言っても大げさではない認識だったのだ。

そんな異国の地に、30歳を過ぎた今、緊張しながら訪問した彼の実家は……

本当にいい「家族」しかいなかった。

彼のお母さんにお父さんに、妹さんに旦那さんに、姪と甥。
とても賑やかで、初めて来た私に気を使わせまいと、気を使ってくれる。
家族の中にいる彼は、知っているけど知らない存在で、すごく新鮮で楽しかった。

同様に、少しだけ寂しいような嬉しいような気持ちに気づく。

……私の兄の家族が実家に帰って来たときと同じだ。

私の兄は、奥さんと娘と息子の四人家族。
お盆や正月に日にちを合わせて、私も一緒に実家に帰るのが常だった。

一緒に実家で過ごす3日間は、すごく賑やかで楽しい。
保育園に通う子供たちは元気の塊で、困ったこともするけど、こちらも元気をもらえる。
帰るときには私も流石に疲れて、「しばらく実家はいいや」となるけれど、やはり帰って一人になるとどことなく寂しさを感じる。

そして、兄たちに対して羨ましさを感じるのだ。

私は、家族に対して良いイメージがなかったのに、兄は順調に家庭という幸せを作れている。私は「なんでもできるようにならなくては」と、自立でもがいているのに。

一足飛びで、自立も家庭も手に入れている。
「すごく幸運な人だな。できる人、持っている人なんだな」と、そう思っていた。

でも、ある「兄との決定的な違い」を私は知ることになる。

それは、初めて彼を兄に紹介したときのことだった。
初めは緊張しつつ、兄の家の近くの飲食店で、三人で話していた。
実家の話を兄から彼にしてもらった方が、よりイメージが湧くと思い、事前に「実家の家族の話をしてくれたら良いよ」と兄に伝えていた。

兄から家族の話が出ると、私は驚いた。

「うちの父は、すごい酒飲みで地元でも有名な人だったんだよ。母は歴史が好きで、今で言う歴女。僕が司馬遼太郎を好きになったのも母の影響でね。おじいさんは、自転車で町内のいろんなところへ孫を連れて行くのが好きな人だった。おばあさんは、近所の人とよく縁側で女子会をやっていたよ」

自分の家族を悪く言わないのは前提として、私が全然知らなかった家族の話が出て来て驚いた。
「え、そうなの?」と、私の方が興味を惹かれて、話をもっとせがんだ。

なんだか兄の話の中の家族はとても幸せそうで、楽しそうだった。

そこで、気がついた。

「……そうか、兄とは見ていた視点が全然違っていたんだ」と。

同じ家庭環境で育っても、見方でその中での育ち方、価値観の形成は異なるものになるんだということ。そして、事実はどうあれ見ていたものが楽しく映れば、幸せな自分のイメージが実現しやすいのではないかと気づいた。

今はまだ、10年後のイメージは持てない。
でも、実際に兄の家族と彼の家族を目の前にして、自分がイメージしていたほど家族は悪いものではなかったのではないかと思い始めている。

知ることで、想像ができる。そして、想像できるものは実現が早い。
だから、悪いイメージがあると、幸せの現実が遠いものになるのではないか。
羨ましいけど自分には縁がないものだと思うか、実現している人がいるのだから自分にも実現できるのだと思うか。

私は前者だった。
兄の話を聞いて、彼の家族に会うまでは。

あらためて、父と彼が似ているかと考えると、似ているようにも思うし似ていないようにも思う。

1つ確実に似ているのは、お酒が好きな人だということ。
今、一緒に飲むことができる時間は、私が幸せだと思える瞬間の1つになっている。

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2020-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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