あそこの毛
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:さくら(ライティング・ゼミ特講)
「ねぇ、パパ。実は相談があるんだけど」
パパとは主人のこと。
夕食後すぐにゲームやテレビに熱中し、自分の世界に入ってしまう主人と話をするには、いつも一言断らないといけない。
「なんだよ……」
何を切り出されるのかと怪訝そうな顔をする主人。
「あの……私……」
「……なに?早く言えよ」
「私……脱毛、したいんだけど」
数秒の沈黙ののち、半笑いで「いまさら? どこを?」と聞かれる。
そうだよなー
だって私はもう40過ぎ。
結婚しているどころか、中学生の子供がいるおばさんだ。
おばさんが、いったい何のために脱毛をするのか?
私は勇気を出して伝える。
「……あそこ」
主人の目が真ん丸になる。
私は生まれつき毛深くて、小さい頃からずっとコンプレックスの一つだった。
でもその当時はインターネットなんてこんなに普及してなかったから、中学生になってワキ毛が生えてきた時、どう処理していいのかわからず、男子に指摘されてすごく恥ずかしい思いをしたことがある。
誰にも相談できずに迎えた、中学校で初めてのプール授業の前日。
夜中にこっそり起きてきて、母のフェイス用のシェーバーを使って、人生で初めて毛を剃った。
あの時の、ドキドキといったら。
これであってるのか? 恐る恐る刃をあてる。
でも少しずつ綺麗になっていくワキを見て、かつての自分に戻ったという嬉しさと、明日プールに入れるという安堵感でいっぱいだった。
お母さん、顔用なのにワキに使ってごめん。
それからというもの、カミソリとか、ムースやワックスとか、脱毛器とか、体毛を無くすべく、私はありとあらゆるものを試した。
でもどれも肌が荒れ、剃れば剃るほど毛は太くなり、抜けば痛いし、体毛の存在は私にとってストレス以外の何物でもなかった。
そして社会人になって一年目。
ついに私は、ローンを組んで、ワキとひざ下の永久脱毛に挑戦した。
毎回、結構痛かった。あの時はお金もかなりかかった。
でも、つるつるになったのだ!!
あーーー毛がない人生ってこんなに幸せなのか!!
それから20年経った。
ワキもひざ下もいまだ綺麗だ。毛根は完全に死んでいる。
永久脱毛ってすごい!
そんな私がなぜ今になって、あそこの脱毛をしたいと思ったのか。
あそこってどこかわかるよね?
そもそも、日本ではデリケート部分の毛の処理は、あまりされないことが多い。
でも海外では、当たり前というか、エチケットの一つだったりする。
セックスするときに毛が生えてたら、お断りされちゃったりするんだって。
私の感覚が古いだけで、日本でも最近の若い子は当たり前に、処理しているのだろうか。
でも確かに、生理の時は、毛に経血がついて本当に不快。
ナプキンをした時の蒸れも気持ち悪い。
年齢を重ねたせいか、匂いも心配。
これは男子にはわからないだろうな。
……そうやって主人を説得した。
反対されると思いきや、意外とすんなりOK。
主人も私が毛深いの嫌だったのかな?
いや、興味がないだけか? ……まぁどっちでもいいや。
ただ脱毛処理をしてもらうためには、自分であらかじめ全部剃って行かないといけない。
だから私は昨日人生で初めて、アンダーヘアを全部剃り上げた。
中学生の時、初めてわき毛を剃った時と同じ感覚を味わいながら。
つるんとなったあそこを見て、何とも言えない恥ずかしさがこみ上げる。
これ……小学生みたい。
主人にも見せるの、かなり恥ずかしい。
なのにエステの綺麗なお姉さんに、お尻の穴まで、全部見られちゃうなんて。
そっか、40になった今だからこそ、決断できたのかもしれない。
出産を経験しているから、他人様に股を広げるのも初めてじゃない。
なにより、結婚して相手が決まっているから、あらかじめ了承をもらえる。
付き合って間もない彼との初体験の時に「つるんとしてて、ひかれたらどうしよう」とか考えなくて済むものね。
そんなこんなで今、私はエステの台の上にいる。
エステのお姉さんは、慣れたもので「緊張されてますか? 痛かったら言ってくださいね」なんて優しい言葉でこちらの気持ちをほぐしつつ、手際よくライトを当てていく。
おぉ! 技術の進歩はすごい!!!
20年前あんなに痛かったのに、今日は全然痛くない!
本当に感動するレベルだった。
そもそもこんなにも厄介者扱いされているのに、なぜひつこく毛は生えるのか。
そろそろ退化してもよさそうな気がするのに。
そんなこと考えながら、股をおっぴろげてライトを当てられているのに、不覚にも寝てしまいそうだった。
こんなに快適なら、脱毛しない理由がどこにあるだろうか?
すっかり気分がよくなった私は、その日のうちに全身脱毛の契約をした。
つるつるの私に、これからどんな世界が待っているのか?
今年の夏が楽しみだ。 久々に水着でも新調しようかな。
やっぱりいくつになっても、女性は綺麗でいたい生き物だもの。
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