本当に勇気のある人は……
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:赤木 広紀(「スピード・ライティング」特別講座)
「本当に勇気のある人っていうのは、恐れがない人じゃないんだよ」
会社を辞めた。
独立して起業するというような、そんな前向きな決断ではなかった。
あまりにも仕事がハードで身も心も疲れ果ててしまったのが一番大きな原因だ。
辞めることが怖くなかったわけではない。いや、むしろ、ものすごく怖かった。
「辞めても、次の働く場所が見つからなかったらどうしよう?」
「辞めたら、食べていけるのか?」
そんなネガティブな考えが浮かんでくる。いや、ネガティブな考えしか浮かんでこない。
先のことが見えない。
だから、今のところにしがみつくしかない。
でも、もう自分の居場所はここにはない。
じゃあ、どこに行けばいいのか?
どこに行けばいいのか、先が見えない。
だから、今のところにしがみつくしかない。
でも、もう自分の居場所はない……
永遠にループするネガティブな考え。
一歩踏み出して、真っ暗闇の中で崖から足を滑らして、奈落の底に落っこちる。
そんな目に合うくらいなら、しんどくても、疲れていても、居場所が無くてもここにしがみつくしかない。
前にも後ろにもどこにも進めない。今いるところにも居場所が無い。
会社を辞めて独立した人たちからは、「大丈夫だよ。やってみたら、なんとかなるって」とよく言われた。
だが、当時の自分には、その言葉はまったく耳に入ってこなかった。心に響かなかった。
(だって、大丈夫かどうかなんて、わからないじゃん)
(保証はあるの? 誰が保証してくれるの?)
(もし、辞めて上手くいかなかったら、あなたが責任取ってくれるの?)
(無責任なこと、言わないでくれ!)
不安と恐怖と怒りがこみあげてくる。
でも、状況は何一つ変わらない。
ただただ時間が過ぎ、どんどん疲労と焦りだけが蓄積されていく。
どうしようもない無力感で動けなくなっていたそんなときに、ある人と出会った。
安定した公務員を辞め、フリーランスで独立した女性だった。
独立してイキイキと仕事をしているのが傍から見てもよくわかる。
(僕もあんなふうに楽しく働けたらいいな……)
ただただ羨ましかった。
そんな彼女に独立してからこれまでの話を聴く機会ができた。
最初から順風満帆ではなかったこと。
お客さんが減ったり増えたりするたびに、今も一喜一憂すること。
(あぁ、独立したからって万事うまくいくわけじゃないよな。そりゃそうだ)
傍から見える彼女の楽しそうな姿しか知らなかったので、表には出さないけど、いろんな怖さや葛藤を抱えながら生きているということが分かったときに、なぜだかホッとした。
人は光に憧れ、光に向かって進もうとするが、光ばかり見ていると目が疲れてくる。
そんなとき、光にしか、つまり輝いている面しか見えなかった人の中にも、暗い部分があると知るとホッとするのは、まぶしさに疲れていた目が休まるからだろう。
それでも、そんな怖さや葛藤を抱えながらでも、独立して歩み続けられるのはどうしてか?
勇気があったからか?
どうしても、その疑問が頭から離れない。
思い切って彼女に聴いてみた。
そのときの彼女の答えは、今でも忘れられない。
そして、忘れられないどころか、僕にとって今も歩み続ける上で大きな支えになっている。
「勇気のある人って、恐怖がない人に見えるじゃない」
「でもね、本当は違うんだよね」
「私の師匠が、こう教えてくれたの」
「『本当に勇気のある人は、恐れがない人ではない。恐れながらも一歩踏み出す人。そんな人が本当に勇気のある人なんだよ』って」
「私もね、今も怖いことがいっぱいある。そんなときに師匠の言葉を思い出すと、『あぁ、怖くてもいいんだ。怖がってもいいんだ』って思えるんだよね」
「そして、怖がりながら、ビビりながら一歩前に踏み出す。これをずっと繰り返しているんだよ」
独立してから、20年になる。
今なら、よくわかる。
あのとき、彼女に教えてもらったことは真実だったと。
だから、これから新しく何かを始めよう、独立しよう、起業しよう、そんな思いを持ちながらも、中々、一歩踏み出せない人の気持ちも痛いほどよくわかる。
だからこそ、そう、だからこそ、僕は安易に「やってみたら上手くいくよ」なんて言葉は言えない。
恐怖でいっぱいになっている人の心に、その言葉が届かないことは、僕が一番知っている。
だからこそ、そう、だからこそ、僕はこう言おう。
「怖くてもいいし、恐怖を無くそうなんてしなくていい。その怖さを抱えながら、ほんの少しだけ、前に一歩進んでみないか?」と。
怖いけど、でも、やっぱり前に進みたい。
忘れないでほしい。
その気持ちがあるなら、あなたはすでに勇気がある人なんだということを。
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