メディアグランプリ

相棒との忘れられない出来事 ~ありがたいは有り難し~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:花倉祥代(ライティング・ゼミ平日コース)
 
昼休み、私はいつものように自分で作ったお弁当を食べていた。
うちの職場は、自分のデスクで昼食をとるのが常である。
今日は昨日買ったみかんを持ってきたから、食後のデザートもあってごきげんな昼休み。
ということで、みかんの皮をむこうとして……。
「あっ!」
すべった手が湯飲みに当たったと思った瞬間、バッシャーンとお茶をこぼしてしまった。
デスクでご飯を食べているということは、目の前にはノートパソコンが……。
「ひぇ~!」
キーボードの上からは、多くも少なくもないといった量のお茶がぶっかけられ、そしてパソコンはこぼれたお茶の海の上。
一瞬の出来事で目の前の状況を把握するのに2秒かかってしまった。
ハッと気づいてキーボードにかかったお茶をふきとりパソコンを持ち上げた。心臓がバクバクしている。
同僚たちがタオルを持ってきてくれたり、デスクの上の他の物をのけてくれたりしたがパソコンは見事に水没した。
「どうしよう……」
スマホを取り出し震える手で「パソコン お茶をこぼす 対処法」と打ち「誰か助けて! お願い!」と検索をクリックした。
すると、インターネット上のパソコン先生が「すぐにつながっている線を全部抜き主電源を落とす」と教えてくれた。
続けて、バッテリーなど外せるものをすべて外し、キーボードを下に裏返しにして乾燥させるとあった。
すがるような気持ちでパソコン先生の言う通りにして、倉庫から扇風機を引っ張り出してきてパソコンを乾燥させる体制を整えた。
大騒ぎをして同僚たちの昼休みを奪ってしまったなぁ。みんなごめん。
午後はたまたま休暇をとっていた同僚のパソコンを借りて仕事をすることにしたが、パソコンが気になって、意味もなく乾燥中のパソコンを見に行った。
そよそよと扇風機の風をうけているパソコンを見ながら「明日から三連休だからと、私はうかれていたのだろうか……」と自分を振り返ってみた。
勤務年数20数年、こんなことは初めてだ。ほんとなさけない。
 
「な~に~! やっちまったなぁ」
私の頭の中ではクールポコが餅をついていた。
私は、M-1グランプリで見たぺこぱのように
「時を戻そう」
と言ってみたが当然無理だった。
「連休明け立ち上がるかなぁ。昨日打ち込んだデータはまだバックアップを取っていないから死んだなぁ」
後悔してもしきれない。バカなことをしてしまった。
 
失って気づくとはこのことか。
当たり前に毎日働いてくれていたパソコン、まさかこんなことになるとは全く想像していなかった。
なぜか、体調を崩してしまったときのことを思い出した。
体が動くことは「ありがたいこと」すなわち「有り難きこと」なのだということを。
普段あたりまえだと思っていることはあたりまえではない。常に感謝を忘れてはいけないな……と反省した。
私はパソコンに向かって「ごめんね」と謝り「いつもありがとう」と感謝を述べた。
 
翌日からは三連休ということで、私は家族旅行を予定していた。待ちに待った温泉旅行だった。
今日の仕事を終えたら、とりあえずパソコンのことは忘れよう。そう思ったが無理だった。
海を見て、
(海)→(波)→(水)→(水没)→(パソコン)→「あ゛ぁぁぁ!」
しらす丼を食べながら、テーブルにあるグラスの水を見て、
(グラスの水)→(水没)→(パソコン)→「あ゛ぁぁぁ!」
温泉に入って、
(温泉)→(お湯)→(水)→(水没)→(パソコン)→「あ゛ぁぁぁ!」
何を見ても、金曜日に水没したパソコンにつなげてしまう。
「こりゃ重症だな」
自分でも困ってしまった。
途中、お参りした神社でめちゃくちゃお願いした。恵比寿様だったけれど……。
「どうかパソコンが無事でありますように」
そしておみくじをひいたらなんと「大吉!」
これは! もしかしたらイケるかも! この瞬間だけはテンションが上がった。
 
連休中、結局パソコンのことが頭から離れなかった。
そして週明け、さぁ出勤だ。
「おはようございます」
朝礼が終わって「いざ! 通電の儀式!」
緊張の瞬間。そりゃもう両手を合わせて祈りますよ。
すると、真っ暗な画面がやけに長い(長く感じた)
心拍はどんどん上がっていき、嫌な予感しかしない。
キターーーーー!!
デスクトップの画面が! パスワードを打つ画面が! いつもと同じように現れた。
ちゃんと動く? と次なる関門。よし! 問題なし。
キーボードの不具合は?
作業時間は?
変な音しない?
よし! すべて問題なし!
完全復活! 3日と半日、不安だったなぁ。
 
お茶をこぼした時に私が思いついたことは、ドライヤーで乾かすこと、傾けて水を出すこと、冷蔵庫に入れること、これらはすべてやってはいけないことだった。
「絶対やってはいけないこと」もインターネット上のパソコン先生が教えてくれた。
パソコン先生のおかげで、やってはいけないことをしなくて済んだ上、やった方がいいことを素早くできた。
そして今日ちゃんといつも通りの働きをしてくれている。
「ありがとう! パソコン先生」
 
なにごともなかったかのようにパソコンがサクサク動くことがうれしくて、そのテンションで本部にパソコンの無事を報告した。
「おめでとう。良かったね」という言葉を想像していた私に、本部の担当者は「だめですよ」と冷たく言い放った。
「え? どういうこと? なに?」と想定外の言葉に驚いて一瞬言葉に詰まった。
それでも「いつ起動しなくなるかわからない状態ということを納得して使えばいいんでしょ?」と開き直ってみたが、そういうことではないと論破された。
結論としては、このまま使っていると発火の恐れがあるということだった。それは通電している時だけでなく、バッテリーが自然発火してしまう恐れもあるということだった。
だめじゃん……。私のパソコンが発火して火事にでもなったらと思うと怖くなった。
天国から地獄へ突き落され、あとは上司に任せることになった。
 
その後、私はドーンと落ち込んでいたが、どうやらうちのパソコンはリースだったことで、保険に加入していたこともあり、新しくリース契約をすることであっさり解決した。
使わない日はないといっていい、むしろなければ仕事がまったくできないと言えるノートパソコン、私の相棒だ。今回のようなことがないように、くれぐれも水には気をつけろ! と自分に言い聞かせた。
相棒よ。今日もよろしくね。
 
 
 
 
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2020-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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