メディアグランプリ

スキューバダイビングで宇宙旅行


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大田知賀子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「あら、見ない顔ね、あなた、だーれ?」
「なんで、そんなにシューシュー言っているの?」
 
目の前に現れたハゼが前ビレを手のように珊瑚の上について、キョロキョロしながら話しかけているようだった。
 
スキューバダイビングで海に潜るたび、同じ地球に住んでいるのに、水の中というまったく違う環境で、姿形が違う生き物が住んでいる。魚や海老は、もはやわたしたちにとっては「食料」だが、一度客観的に彼らを見てみると、姿形は違うし、息の仕方も違う、質感もまったくの別物。月への旅行、火星への移住計画、どこかの惑星に宇宙人がいるのでは……など、数々の挑戦や調査が行われているが、海の中こそ、近くて遠い、他の惑星のように感じるのはわたしだけだろうか。
 
10年ほど前、NAUIという団体で、Cライセンスを取った。このライセンスは、単独では潜れないが、インストラクターがついてくれていれば、たいていのスキューバダイビングスポットは潜ることができる。
スキューバダイビングは海の中を探検できる魅力的なスポーツだが、一歩間違えると命を落としかねない。水中で息を吸うために酸素ボンベをつけるが、そのため体に水深×時間分、窒素が溜まる。窒素が一定以上体に溜まると中毒症状をお越し、最悪、一生ダイビングができなくなってしまうので、潜る時間と陸にいる時間をうまく調節する必要がある。また、水中では10m深くもぐるごとに1気圧高くなる。深くなり、気圧が高くなればなるほど、肺やライフジャケットの中に残る空気の量は小さくなり、ダイバー自身で浮力の調整をする必要がある。逆に、深い所から浅い所に向かうとき、気圧が下がり、体の中の空気の体積が大きくなる。そのため、急に浮上すると肺や体の中の空気量が急に大きくなり、最悪、肺が破裂する危険がある。水中でどんなびっくりすることがあっても、急上昇してはならない。他にもたくさん、水中という別の惑星におじゃまするためには、命を守るルールを知って、訓練する。
 
わたし自身、海流の激しいスポットに潜りに行ったとき、パニックになりそうなことがあった。海の中の目標地点を指差し、数十メートル下降した。途中、一緒に潜るバディ(海の中で2人1組になり、コミュニケーションをとる人)の位置を確かめようと海面を見あげようとしたが、海面はすでに見えない深さだったため、どちらが上かわからなくなってしまった。パニックになりかけ、変な方向に泳いで行く私を、インストラクターがすぐに助けてくれたときは、心臓がバクバクした。
 
命を守る訓練と同時に、別の惑星に入るために必要な心得も学ぶ。
一番大切にしなければならないのは、彼らの生活を壊さないこと。足につけている足ひれ「フィン」で砂を巻き上げてはいけない。フィンで水を掻くとき、珊瑚などを蹴って傷つけるのもダメ。ウミガメなどがいても、追いかけてはいけない。ダイバーは、海の生き物にとってみたら、日常に侵入してくる宇宙人。わたしの立場に置き換えてみると、近所を歩いているだけなのに、急に得体の知れない生き物に追いかけ回されるようなものだ。怖くてたまらい。珊瑚を壊すのも、家の壁をいきなり蹴り跳ばされ、破壊されるような感じだと思う。
別の惑星で生きる彼らの生活を、ダイバー=宇宙人であるわたしたちは尊重する必要があると思う。
 
もちろん、命がけのスポーツだし、海への配慮は必要だが、そこには、陸上ではお目にかかれない生き物の暮らしを見ることができる。
 
八重山諸島にある石垣島でマンタ遭遇率世界一と言われるほどの「マンタスクランブル」というスポットに潜りに行った。大きな珊瑚礁の棚が広がり、マンタは珊瑚棚にいる小魚に自分の体をキレイにしてもらうために来るらしい。珊瑚棚の一つにスタンバイし、マンタを待った。
が、待てど暮らせと来ない……。
代わりに、じっとしている私たちの前に、一匹のハゼがやってきて、顔の前を右に左にキョロキョロこちらを見ながら泳いでいる。目の前には、赤や緑、白や紫など、色とりどりの珊瑚に、フワフワと海藻が揺れている。小さな生き物たちの大切な暮らしがあった。マンタは結局現れず、見たいものが見れないのも、人間の想い通りにはならないぞーという、海からのメッセージのようにも感じた。
 
マンタいなかったなーと船に戻ろうとしていたとき、タコにも遭遇した。大きいタコが、左の珊瑚の下から出て来て右の珊瑚の下に移動しようと、歩いている。ほんとうに、宇宙人が歩くように、8本足でトコトコ歩いている。奇妙な光景。更に驚いたのは、タコの丸い頭が、まるでフードのようにとれ、頭と足の間に目ん玉がニョキッとかたつむりの目のように出ていた。
「え!? タコの頭って、フードだったの!??」
陸ではみんなが知っている常識とされているようなことが、海での生活の中では、実は違うのかもしれない、と思った。
 
スキューバダイビングでは、海という、まだまだ謎が多い惑星で頑張って生きている仲間を知ることができる。わたしたちは、酸素ボンベを背負い、その魅力的な彼らの日常を見せてもらうことができる。せめて、陸で生活している私たちの身勝手な行動が、海の生き物の生活を脅かさないよう、彼らの生活を尊重した暮らしをするのが、海に潜らせてもらうわたしたちにできることかなと、海に潜るたびに思う。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 
http://tenro-in.com/event/103274
 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2020-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事