メディアグランプリ

ママ友は命の恩人 ~SNSが繋いでくれた宝もの~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山下佳代(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「いっそのこと……、ひと思いにやってくれよ……」
 
わたしは布団に座り込んで、泣き止まない息子を抱えながら一緒に泣いていた。
 
1歳頃だっただろうか。
息子は毎晩のように夜泣きするようになった。
夜中に一度や二度なら、我慢もできよう。
でも息子の夜泣きは、泣き止んで眠ったのを見届けて、わたしがうとうとし始めたらまた泣き始める、ということを一晩に何度も繰り返すのだった。
 
うとうとするたびに、叩き起こされるのだから、たまったものじゃない。
 
「なぜわたしがこんなに苦しめられなければならないの?」
「わたしが何か間違ってるの?」
 
息子を産んで間もない頃から「育てるのが苦しい」と感じていたわたしの心を、夜泣きによる過度の睡眠不足とストレスが蝕み始めた。
 
それで、ある日の真夜中に、
 
(もういっそ死んでしまったほうがマシ……)
 
ふとそんな思いがよぎって、つい息子にその思いを投げつけてしまった。
 
けれど、そんなわたしを一瞬にして救ってくれたのが、SNSがきっかけで知り合ったママ友だった。
 
わたしは、北海道好きが高じて、夫とともに本州から札幌に移住してきた。
移住前に「自然妊娠は難しいかもしれません」と不妊治療を勧められていたけれど、幸いにして移住後半年ほどで自然妊娠した。
 
札幌には身よりもなく、友人もまだいなかったので、インターネットで妊娠出産に関する情報を集めた。
そこで知ったのがmixiのコミュニティというものだった。
 
そこには通っている産婦人科のコミュがあったのだ。
 
そのコミュに、出産予定日が同じママがいたので連絡を取ってみた。
偶然にも家が近所同士で、二人でランチやスイーツを食べ歩くようになった。
産婦人科の先生に叱られないように、お互いの妊婦検診が終わった直後を狙ってでかけた。
それは「悪だくみ」と名付けられ、ママ友が復職するまで続いた。
 
そのママ友と一緒に入ったのが「08年6月ベビーのママ」というコミュだ。
このコミュには、まめにオフ会を企画してくれるママがいて、ベビー連れで集会場に集まったり、ランチに出かけたりした。
 
「08年6月ベビー」というだけあって、子どもたちは全員同月齢!
このコミュが、精神的に育児困難だった当時のわたしの心の支えになってくれた。
 
女の子は言葉が出るのも早く、中には1歳前からペラペラしゃべっている子もいた。
息子は一番のりで歩けるようになったが、1歳を過ぎてもほとんど言葉を発しなかった。
 
そして、1歳6か月検診で「療育」を勧められた。
そんなときも、
 
「えー、ぜんぜん心配ないよー! 大丈夫だよー!」
 
と、みんな励ましてくれた。
 
でも、まわりの子は全員同月齢なのだ。
(うちの子はまわりの子と何か違う……)ということは肌で感じていたし、
育児そのものが苦しかったわたしは、
 
「ぜんぜん大丈夫じゃない。わたしの気持ちなんか誰にもわからない」
 
そんなふうに孤独感を募らせたりもした。
 
息子を38歳を目前に出産したわたしとまわりの若いママたちとは一回りほども違う。
ヘタをしたら、ママ友との歳の差よりも彼女のお母さんとの歳の差のほうが近かったりもするのだ。
 
それでも、若いママたちは、わたしのことを快く受け入れてくれて、何かあるごとにわたしと息子に声をかけてくれて、我が家にも何度も遊びに来てくれた。
 
mixiの日記に心の内の苦しさを書き綴っていたから、ママ友たちはわたしが悩んでいることも少なからず知っていたに違いない。
でも、そのことにとくに触れるでもなく、いつも明るく接してくれた。
 
息子のことも、色眼鏡で見るようなことはなく、良い意味でぜんぜん心配もせずに自然に接してくれたのだ。
 
これだけでも、わたしはどれほど救われただろう。
 
息子の頻発する夜泣きでノイローゼのようになっていたときも、彼女たちが遊びに来てくれて、
 
「実は、いっそのことひと思いにやってくれよって思わず言っちゃったよ」
 
と、ことの顛末を話したら、なんと彼女たちは……
 
大爆笑したのだ!
 
こちとら真剣に悩んでいるというのに。
ムッとしながら抗議しようも、
 
「もー! やだー! かよちゃん! 笑わせないでよ、お腹痛いからー!」
 
と言って、みんなで笑い転げている。
こうなったらもう、わたしも笑うしかないじゃないか。
 
(そっか。そんなに深刻に悩むことじゃないんだ!)
 
と、長いトンネルから見事に引っ張り出されてしまった。
 
その後も思い詰めることは何度もあった。
苦しくて一度だけ、
 
(じぶんのお腹を包丁で刺して、この子の首を絞めてしまおうか)
 
とまで思いつめたこともあった。
その話をしたときも、やっぱり笑い飛ばされた。
 
テレビで幼児虐待のニュースを見るたびに、思っていたことがある。
 
(わたしとこのお母さんは紙一重だよな。でもわたしが全国ニュースにならなくて済んだのは、ママ友がいてくれたから)
 
わたしにとってママ友は命の恩人であり、宝ものだ。
彼女たちがいてくれたから、今のわたしと息子がいる。
 
同月齢の子どもたちも、もう11歳になった。
今では、子どもたちをパパに預けて、年に何度か飲みに出かけ、一年に一度、子どもたちも一緒に温泉旅行に行く。
今やその数、ママ6人、子ども14人の総勢20人!
 
来年、子どもたちが小学校を卒業したら、子どもたち抜きでママだけの「卒業旅行をしようね!」と密かに約束している。
 
 
 
 
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2020-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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