メディアグランプリ

そのカレーの隠し味は苦味だった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:緒方愛実(スピードライティング・ゼミ)
 
 
「こんにちは、今日は何にしますか?」
「えっと、そうですね……」
 
今日も私は、福岡天狼院書店に来ていた。原稿を書くために、籠城しに来たのだ。
さて、今日は何を注文しようか。天狼院書店に長時間居座るためには、カフェメニューを注文しなければならない。
超集中したいから、腹持ちが良くて、おいしくて、スタミナがあるやつ。
豚汁はボリューミー、ワッフルは中毒性のあるうまさ、スープセットも捨てがたい。私はかなりの優柔不断だ。メニューが5種類以上あると、即決できない。メニューが豊富なほど、私は食べる前から、脳みそでカロリーを消費してしまうことになる。
悩みに悩んで、ここはひとつ。
 
「今日もカレーセットでお願いします」
 
なぜだろう。何回も食べているはずなのに、また頼んでしまった。他に選択肢はたくさんあるのに。
カレーのスパイシーな香りが食欲をそそるから?
鶏肉がほろほろで、触感が良いから?
カレーは日本人の国民食、DNAが呼んでいるから?
なぜだろう、飽きることなく、頼んでしまう。何か、こう、中毒性のある、やめられなくなる何かが入っているのではないだろうか。スプーンの上のカレーをしげしげと見る。もちろん、私はエスパーではないので、カレーの向こう側にある秘密を透かして見ることはできない。色々と夢想しながら、黄金色のカレーを口に運んだ。
 
「天狼院書店のカフェメニュー、みなさんは、いつも何を頼まれますか?」
あるイベントで、参加者さん同士で、おススメのメニューをプレゼンし合うことになった。
「マフィンが実はおいしいんですよ」
「やっぱりご褒美ワッフルかな?」
みなさんの口から、色々なメニューが上がる。
「私はいつもカレー頼んじゃいますね」
私の言葉に、一斉に全員がうなずく。
すると、一人の方が首を傾げた。
「あのカレーって『元カレー』っていうじゃないですか? 何ででしょうね?」
私は頭の中でメニューをめくる。そうだ、あのカレーの正式名称は『元カレー』。あまり名前の由来までは考えたことがなかった。
「ああ、それはですね」
ある方が、苦笑いしながら教えてくれた。
 
天狼院書店のとある名物店長さん。文章力、編集力があり、気さくな性格。お客さんにもファンが多く、人を惹きつけてやまないカリスマ性を持つ。
彼女は、料理も上手。様々な料理、特に家庭料理が得意だそうだ。その方が作ったカレーは秘伝のレシピ。なぜなら、彼女が学生の時、元彼さんのハートを射止め撃ち落とすために考案した、最後の切り札。「男は胃袋をつかまれると弱い」、その言葉を信じてつくった渾身の逸品。そう、だからそのカレーの名は『元カレー』。
彼女の恋がどのような結末を迎えたのか。そこにいるだれも知りはしなかった。
 
なんてこった!
 
私は思わず、目頭を押さえた。
カレーの隠し味は、インド由来の高価な香辛料でも、ちょっと怪しいなぞの粉でもない。彼女の涙と努力、一途な狂おしいほどの思いが詰まった、ほろ苦いスパイスだったのだ。
それをメニューにしてしまうとは。なんて捨て身なんだ、店長さん!
 
テレビで連日話題に上がる、お取り寄せスイーツ。手に入れるには、長くて半年、1年、それ以上かかってしまう、大人気スイーツ。どんなに長く待たなければならないとしても、人々は、欲しいと思う。なぜなら、そのスイーツは、使われている果物や砂糖が一級品で、一人のおじいさんが丹精込めて作っている。作り続けるには、老体にはとてもしんどいことだろう。それでも作るのを辞めないのは、亡くなったおばあさんとの約束だから……。
もしも、そんなストーリーを付けられたとしたら、途端に、画面の向こうのスイーツが輝いて魅力的に見えはじめてくる。物語、特にビターなお話は極上のスパイスなのだ。
 
プレミアムな体験が詰まった一品は、特別な味がする。そのアイテムそのものの評価だけでなく、付加価値がついて来る。だから、みんなそれを、共有、または自分だけ味わいたいがために、苦労してでも買ってしまうのだ。
 
「こんにちは、今日は何にしますか?」
「ん~、そうですね……」
私は真剣に、メニューの文字に視線を走らせる。
フルスロットルワッフルは、ワッフルもスクランブルエッグなども一度に楽しめる、大満足のセット。
新メニューのお汁粉は、大きな栗がごろっと入ってお得な気分。
雨色クリームソーダは、きれいな水色と濃厚ソフトクリームと上にちょこんと乗ったサクランボが、ちょっとした贅沢気分に浸らせてくれる。
 
ふと、食欲を刺激する香りが私の鼻をくすぐった。正直なお腹がぐ~と鳴る。「早く食べさせてくれ!」と、私を急かす。
 
「じゃあ、今日もカレーセットで」
 
また頼んでしまった。
何だか負けた気持ちになって、眉間に皺を寄せてしまう。しかし、一口、口に運ぶと、バターとジンジャーのまろやかなハーモニー、複雑な香辛料、食べ応えたっぷりの大きな鶏肉の絶妙なバランスが、口いっぱいに広がって、思わずにんまりしてしまう。
あぁ、そうか、このカレーの秘伝のスパイスは、一人の女性の真摯な涙と汗、ビターで大きな愛だったんだ。
なぜだろう、今日のカレーは、目に染みる。
今日も私は、飽きることなくカレーを食べる。今までと少し違うのは、ゆっくりゆっくり、かみしめるようになったことだろうか。
 
天狼院書店は本屋さん。他の書店と違うのは、読書の先の体験を提供すること。そして、併設のカフェスペースで、くつろぎと、集中のための時間と場所を与えてくれる。
その特別な空間を間借りするには、お店の入り口でワンオーダーをしなければならない。
沢山の魅力的なメニューがそろっているので、あなたもきっと迷うだろう。
でも、こっそり言うと、私はカレーがおすすめだ。ちょっと変わった名前のその逸品、注文してはいかがだろうか?
それは、スパイシーでちょっとほろ苦い、プレミアムなスパイスが効いている。きっとあなたも胃袋をガシッとつかまれること間違いなしだ。
 
 
 
 
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2020-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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