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たらればが叶ったら、あなたはあなた?


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記事:氏野祥太(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「もしも過去に戻れるとしたら、何をしたいですか?」
「好きだったあの子に告白をします!」
 
過去に遡って、やりたかったことをするというタイムマシンは、私たちに幻想を与えてくれる。
 
私も大人になり、もう少し踏み込んで、こんな問いを考えてみた。
「もし戻れるとすれば、現代の結果は変わり、今の環境も変わってしまうのだろうか?」
 
私は、一度だけ戻したいと考えた過去がある。
「ぐきっ!」「痛ってぇ……」
高校3年の春、高校野球に没頭していた私は、事の重大さを察知した。
グラウンドを走っている最中にボールを踏んだ私は、起き上がったものの、歩くことができないどころか、体重すらかけられない。
 
重度の捻挫だった。通学には親の送迎が、歩くことには松葉杖が必要。
高校1年の秋から、有難いことにメンバー入りを果たしていたが、貴重な最後の夏の大会前、歩けない2カ月間を経た。ようやく走れるようになったものの、いつものプレーとは程遠い。バッティングのタイミングもスイングの感覚もずれている。
最後の夏がかすんだ。
ただ、昔から根性だけは人一倍ある。痛む足には神経を麻痺させる注射を打ち、手のひらの血豆が潰れてもバットを振り、感覚を取り戻せるように死に物狂いだった。
でも、思うような結果が出なかった。復帰後、10打数0安打。誰が見ても絶望的だ。誰もが最後の夏を目指しているのにも関わらず、こんなにも打てない人間がメンバー入りなど戯言だ。
そして、メンバー入りを決める最後の練習試合、結果が出なければ、メンバー入りも叶わないだろう。いくら過去活躍したからと言って、使えない選手は情もなく切り捨てられるのだろう。
迎えた最後の練習試合、いつになく緊張している。
第一打席、「カキーンッ!」という乾いた打球音の後、打球が外野ネットの上を超えた。
「信じられへん・・・・」正直な想いだった。練習でもこんな打球は打てていなかった。
なぜ打てたのか?言葉で解説してくれと言われても、言葉にできないだろう。
信じられない気持ちのまま迎えた第2打席、「カキーンッ!」と、先ほど超えたネットに直撃し、2塁打。何が起こっているのか、不思議だった。火事場の馬鹿力なのか?追い込まれた人間には、見えない力が漲るのか?その後も、打ち出の小槌のようにヒットが出て、5打数4安打。監督の目も、何か確信めいたものを含んでいた。
その2日後、背番号発表。緊張の中、3年生の春まで背負っていた9番の発表を待つ。
「背番号9番 ○○(筆者の実名)!」
嬉しかった。涙が溢れた。野球部のメンバーには普段見せない涙を見せた。何より親への感謝の想いが込み上げてきた。病院での麻酔注射や通学の送迎、勇気づけてくれたことに感謝しても感謝しきれない。周囲への感謝と努力が報われた気持ちを持てたことに私は満たされた想いだった。
 
ただ、ここで思うのは、もしグランドのボールに気付き、怪我をしていなかったとしたら、どんな人生だったのだろうか?
実は、怪我の後遺症で、その後の野球人生は草野球程度に制限されていた。大学では野球を続けたい気持ちもあったが、燃え尽きた私は、野球とは異なる何かで夢中になれるものを見つけようと決心した。
大学では、某ファストファッションブランドでアルバイトに没頭した。負けん気の強さと、人一倍の根性で、仕事は充実。スタッフともプライベートを共にする関係を構築できた。
社会に出てからも交流は続いており、現在の私を形作っているといっても過言ではない。
 
もしあの時、ボールに気付いていれば、大学でも野球を続けていただろうか。諦めそうになった時、踏ん張れる気持ちを持てるだろうか。アルバイトで知り合った今の友人には出会わなかったのではないだろうか。
こんな疑念がわいてくるのだ。野球を離れたことで気付けた世界や、様々な価値観の人々。今の私は、紛れもなく、野球を離れたことで拡がった世界を歩んできた私だ。
そんな私が、現代まで形作られた状態で、過去に戻るということに矛盾を感じる。現代の自分は、過去の積み重ねによって精神的にも肉体的にも形作られてきたからである。
もしタイムマシンで、過去に戻れたとして、今思う「最高の人生の選択(現象)をした時の私」を現代の私と比較して、どちらが私と言えるのだろうか?
 
過去を後悔することが人生の中で、何度もあった。
「タイムマシンがあれば・・・」と思うこともあった。
ただ、今出会ったすべての人々、起こった全ての出来事が、消えてなくなるぐらいなら、今の人生をもっと楽しもうと思う。
そして、偶然の積み重ねで成り立っている、今の自分の周りの出来事に感謝しつつ、決断を繰り返していくべきだと思う。
と、先週あたりから某ドラマを見て、深く考え始めたのであるから、コンテンツが享受してくれるものは、非常に大きいと思う。
 
 
 
 
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2020-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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