メディアグランプリ

毎日、無意識のうちに戦っているもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:吉池優海(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「化学物質を顔に塗る儀式」
 
化粧のことを心のなかでそう呼んでいた。
高校を卒業して化粧をしない方がおかしいと呼ばれる年齢になった頃、化粧をするのが面倒で面倒で堪らなかった。
 
下地ってなに?リキッドファンデーションってなに?グロス?リップクリームと何が違うんじゃ。
 
毎朝憂鬱だった。
 
専門学校の同級生には、同年代より、脱サラをして入学したり、別の専門学校に通ってから改めて入学してきた年上の男女が多かった。
化粧をすることが既に日常と化している女性達、周りの女性が化粧をしていることが当たり前の男性達だった。
新しい習慣に悩んでいるような同級生は少なく、化粧をしない日々から化粧をしなければいけない日々に変わった。
 
それでも面倒なものは面倒だ。
素顔のままマスクをして通学することも多かった。
 
結局専門学校をやめて、フリーターになった私は否が応でも化粧をしなくてはならなかった。
アルバイトしていた先はマスク禁止の接客業。
流石に素顔で接客するわけにはいかない。
 
困った。
なんとしても化粧をしなくては。
 
憂鬱に感じながらも化粧品を買い漁り、研究する日々が始まった。
 
「モンスターハンター」というゲームをご存じだろうか。
クエストを達成するためにモンスターと戦い、倒したモンスターの素材を使って自分の装備を強くし、より強いモンスターを倒していく。
このゲームに具体的な最終目標は設定されていない。
 
明確な目標が設定されていないゲームにやりがいを感じることが出来なかった。
 
小学生の頃のめりこんでいたポケモンのゲームは、最終的に伝説のポケモンを手に入れるという目標があった。
最近ハマっている「龍が如く」という極道のゲームは、ストーリーをクリアする他に、ゲームの舞台となる街のサブクエストをクリアしたり、さらに細かい部分の達成要素が多かった。
 
私は、「最終目標」のないゲームが嫌いだった。
 
化粧にも「最終目標」がない。
 
モンスターハンターは倒したモンスターの素材を使い、自分の装備品を強くしていく。
武器として使われる大剣や双剣、ボウガン、身を守るための鎧など、倒したモンスターが強いほどそれを使った装備品をつけた主人公のステータスも強くなる。
 
化粧も同じだ。
お金を使って購入すればするほど、自分に似合う色を研究したり肌の質に合うものを見つけることができ、化粧スキルが上がり、より強くなっていく。
 
おしゃれに興味がなかった私は、化粧にも興味がなかった。
 
そもそも化粧はなんのためにするのか。
 
予定がなにもない休みの日に近所のコンビニにでかけるとしよう。
近所のコンビニにいくだけでフルメイクをするだろうか。私は素顔にマスクをつけていくと思う。
ただ、そのコンビニに超イケメンの気になるコンビニ店員がいるとしたら、それは「ただコンビニにいく」に留まらず、「気になるコンビニ店員に会いに行く」という目的ができる。
フルメイクまでは行かずとも、ファンデーションをつけて眉毛を描き足すくらいはするだろう。
男性であれば、笑顔の可愛い気になる店員のいるコンビニにいくとき、寝癖を直して髭を剃るなどの準備はするのではないだろうか。
 
働いている会社の重要な取引に向かうとしよう。自分の昇進が決まるかもしれない社長面談でもいい。
遊びにいくときの華やかなメイクではなく、眉をいつもより丁寧に剃り、アイシャドウの色もビジネスシーンに合う色を使い、アイラインはキリッとした印象を与える書き方をする。
男性であれば、髪を整髪料で整え、髭以外にも目立つ産毛を剃ったり、普段使いではなくここぞというときのワイシャツとネクタイを出し、面談の直前にはしっかり身だしなみを整えるだろう。
 
見栄えを整えるというのは、もちろん人と接するときの最低限のマナーであると共に、自分をより綺麗に魅せる為の「装備」なのだ。
 
嫌々ながら化粧をしていくうちに、自分の印象を化粧が決めてくれることが楽しくなり、化粧品、つまり装備品を集めることが楽しくなった。
洋服もそうだが、化粧品も洋服と同じくらい大事な装備品である。
 
デパートのコスメコーナーを見るときは心が踊るし、新しく買ったアイシャドウの色が似合うと言われたときは新しいモンスターを倒したような達成感があった。
画面のなかでモンスターを倒したときの達成感とは比べ物にならない嬉しさだった。
 
逆に買ってみたはいいものの、結局使いどころがわからず宙ぶらりんになってしまう化粧品もある。
クエスト達成失敗。次回は似ているものを買うのをやめようという学びになる。
 
男性は、自分の彼女や奥さん、娘が化粧品を選ぶときにかける時間が長いことに辟易したことがあるかもしれない。
「何色でも似合うよ」と本心半分、早く終わってほしい半分で言ったこともあるかもしれない。
だが、女性にとって化粧品は自分を強くするための重要な装備品であることを知っておいてほしい。
「この色似合うかな?」と聞かれたら「何色でも一緒だよ」と言いたくなる気持ちを少し抑えて、普段よく見ている女性がより魅力的に見えるような色を一緒に考えてもらうと、質問した側はより自信を持って色を選ぶことができる。
 
女性にとって化粧は毎日の生活という戦いを共にする重要な装備だ。
モンスターハンターの装備品のように、画面で選択すれば一瞬で身に付けられるものとは違い、ささっと済ませて10分、しっかり気合いを入れると1時間、それ以上かかることもある。
 
「今日の化粧めちゃくちゃバッチリ! このままマスクとして保存して、いつでも使えるようにできたらなぁ……」
 
こんなことを何度も考えた。
それでも時間が経てばファンデーションはよれていくしアイシャドウは落ちていく。
 
時間をかけて完璧にしたのに、それが崩れていくのを見るのはとてもショックだし直すのも面倒くさい。
それほど化粧は脆い装備だが、その分完璧にできた化粧はただの装備以上の役割を担ってくれる。
 
たかが化粧、されど化粧。
たまに面倒になるときは、次の難しいクエストに挑む前のウォームアップ用クエストを軽くクリアするような感覚で手抜きをしてしまえばいい。
手抜きをしても戦歴を重ねていることに変わりはない。
 
今日も明日も明後日も、毎日化粧をしながら、自分を魅せるために、より強いドラゴンを倒すために、面倒になりながらも装備品をレベルアップさせ、生活という戦いを共に乗り越えていく。
 
モンスターハンターが好きな人の気持ちが、少しわかったような気がした。
 
 
 
 
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2020-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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