離婚話が出てくる頃にはもう遅い
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記事:田中伸明 (ライティング・ゼミ日曜コース)
張り詰めた空気。
私と妻(当時)はダイニングテーブルをはさんで向かい合っている。二人は黙ったまま、何分も見つめ合っている。妻の目は鋭く、私を睨みつけている。
妻が離婚を切り出してきた。それから1か月。毎週、何時間にもわたる話し合いを行ってきた。これで5回目だ。
離婚を何としても回避したい。結婚して15年。出会ってからは25年。人生の半分以上を共にしてきたのに離婚なんて考えられなかった。私はなんとか食い下がろうとした。
毎年、婚姻の数の3分の1の夫婦が離婚をするという。私がここで取り上げたいのは、熟年離婚だ。国の統計によると、同居期間が15年以上の夫婦は全離婚件数の30%を占めるという(厚生労働省 人口動態統計による)。永らく一緒にやってきたから大丈夫、とは限らないのだ。
「離婚は結婚の3倍大変だ」と言われている。しかし、離婚の実態となるとなかなか情報がない。実際、どんなことが起こるのか、私の例を挙げてみようと思う。みなさんにはできればこんなことが起こって欲しくないのだが、起こってしまったらどんなことになるのか、これを読んでくださっている方の参考にしていただければ幸いである。
「あなたが何と言おうと、私はこの家を出てゆく」
いつもにこやかだった妻が、信じられないような言葉を私にぶつけてくる。私は気迫に押されっぱなしだ。しかし反論するにも言葉を慎重に選ばなければならない。一つ言おうすると、言い終わる前に言葉を畳みかけてくる。また少しでも言い間違えると挙げ足をとってくる。こういうときは女性の方が機転が利くのだ。執拗な攻めに「うるさい」と言おうものなら、それを理由に離婚を承諾させようとする。「ほら、あなたのそんなところが嫌なのよ」と。3時間4時間にも及ぶ話し合いで、次第に八方塞がりになってきた。
最終的に1か月の猶予を与えてもらえた。妻が離婚の理由として指摘する「私の至らない点」を、私が改善することを約束したからだ。1か月間、ここで汚名挽回しなければならない。
短い梅雨が明け、これから夏が始まろうとしている時期だった。
早速、私は家族サービスに努めた。毎日朝食を用意し、土日には一緒に外出することを企画した。二人の間に笑いを戻そうと、新宿のよしもとに行ったり、浅草へ落語を観に行ったりした。妻はお笑いが好きなのだ。よしもと芸人のギャグに腹を抱えて笑っているのを見て、私は少しずつ手ごたえを感じていた。
「そんなの関係ない。もう遅いのよ」
1か月後の話し合いで、私は耳を疑った。離婚の意思は変わらないという。妻は私の努力は認めてくれたたが、今さらそんなことをしても遅いのだという。
1か月の猶予という約束は何だったのか?
私は自分を全否定された気持ちになった。離婚話が始まってから、胸が重くて仕事に手が付かない日々が続き、仕事のパフォーマンスはがっくりと落ちた。当然上司は怒るし、後輩からもナメられた。家でも会社でも居場所がなく、私はどうすればいいかわからなくなっていた。会社帰りに新橋駅のホームから飛び込みそうになったこともあった。
私はいろんなところに相談に行くようになった。うつ病のカウンセリングを受けたし、離婚相談にも行った。これまでの経緯や妻が挙げている離婚の理由を伝えると、ある相談員が意外なことを私に告げた。
「ああ、奥さんは何か隠してますね」
離婚原因は私にではなく、妻にあるのだという。その相談員によると、妻が離婚理由として挙げている私の至らない点は、その程度では認められるものではないらしい。典型的な話だという。
「ちなみに、奥さんはこんなことありませんか?」
と相談員は3つほど挙げてきた。
・最近、外泊をすることがある
・服装の趣味が変わった
・突然、離婚を切り出してきた
全部当てはまる。それでも私は信じられないでいた。疑っていなかったのだ。それでも、原因が私ではないことを知ると、心のおもりが取れていくのを感じた。
「だまされたと思って、探偵を雇ってみなさい。いいのを紹介しますよ」
相談員の言われるままに、探偵にお願いをすることになった。探偵を雇うなど、想像したことがなかった。
それからしばらくして、男の影が出てきた。相談員の言う通りだった。つまり妻は自分の浮気を隠して、私に離婚原因を負わせようとしていたのだ。
交際期間を含めて25年。これまでずっと仲が良く、二人で作る仲睦まじい年賀状は親戚や友達の間で評判だったくらいだ。「来年も期待しています」というメッセージが、私たちの年賀状に書かれていることが度々あった。そんな妻がこんなことをしてくるとは信じられない。離婚騒動は人の人格まで変えてしまうのだ。
夏が終わろうとしていた。
そうだとわかった以上、どうするか?私は選択に迫られた。
・離婚に応じるか
・婚姻を継続するか
私は婚姻を継続する方を選んだ。その頃には妻はすでに別居していたが、戻ってきてくれれば浮気は不問にするつもりだった。相談員はおススメしていなかったが、離婚するよりマシだと思ったのだ。
結果的にはそれは叶わなかった。家庭裁判所に入ってもらって調停を試みたが、妻は離婚の意思を曲げなかったのだ。その頃には私は弁護士とも相談をしていて、調停で折り合いとわかると離婚を受け入れざるを得なくなった。
離婚条件を話し合うには3つのステージがある。
・協議離婚:互いに話し合う
・調停離婚:家庭裁判所にて、家裁調停員が間に入る
・離婚裁判:地方裁判所にて、裁判官が間に入る
多くの場合は協議離婚となるが、調停離婚になるケースもある。私の場合は、滅多に起こらない、最もハードランディングな地方裁判所にて話し合うことになった。
ハードランディングといいながらも、ここまでくると話し合いは淡々としたものになっていた。弁護士と主張、論点について整理し、弁護士が裁判所に書類を郵送する。だいたい月に1回、指定された日に東京地方裁判所に赴き、法廷で互いの主張を述べて話し合うのだ。私が原告。妻が被告。25年の付き合いの最後がこんな形になるとは、想像もしなかった。
そう、離婚は想像もしなかったことばかり起こる。私が法廷に立つことも、裁判官に発言することも、想像しなかった。そしてこんな経験は今後の人生に全く役に立たない。
ちなみに法廷で不倫(法律用語では不貞)の主張が通るのは次のような場合である。
・相手とラブホテルに入っていった(出てきた)写真がある
・相手と二人で一晩一緒に過ごしたことが証明できるものがある
もちろんこんな知識は役に立たない方がいい。
裁判所で判決が出たのは、訴えてから半年以上経った頃だった。判決では離婚条件が書かれた書類に互いに署名し、あらかじめ私が記入した離婚届を被告側に渡した。その後、離婚届をその日のうちに受領したことを示すお知らせが役所から届いた。
やっと終わった。私の正直な気持ちだ。妻が離婚を切り出してから、2年以上が経っていた。お金も時間もたくさん失った。そして何よりも、人生の半分以上を一緒に過ごしてきた相手を失った。
そして離婚騒動は人の人格まで変えてしまうことがある。離婚話が出てくる頃には、手の打ちようがない。
私はこんなことはみなさんに経験してほしくない。現在結婚しているのであれば、夫婦の時間を作って、互いに理解し合う気持ちを失わないでほしいと切に願う。
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